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2013年4月

B787、信頼回復へ総力 国内で確認飛行徹底 国交省が運航再開を承認


B787、信頼回復へ総力 国内で確認飛行徹底
国交省が運航再開を承認


田村航空局長(左)から「耐空性改善通報」を受け取る日航の植木社長。右は全日空の篠辺社長(26日、国交省)
 米連邦航空局(FAA)と国土交通省が26日、米ボーイングの新型機「787」の運航再開を正式に承認した。運航停止から3カ月余り。先行して787を導入した全日本空輸や日本航空の経営に大きな影響が広がった。両社は6月からの運航再開を目指すがトラブルの原因究明はいまだ途上。両社で使用後のバッテリーの状態を調査して情報共有するなどして信頼回復を急ぐ。

 「今回は長かった」。34年前、旧マクドネル・ダグラス製のDC10のパイロットとして1カ月半の運航停止を強いられた経験を持つ日航の植木義晴社長は3カ月余りをこう振り返る。


 1月16日の運航停止直後は早期運航再開の観測があったものの、バッテリー発煙などの原因究明が難航し予想以上に長期化した。全日空と日航を合わせて欠航便数は約4300便(5月31日まで)に達し、影響を受けた人は3月末までに13万5000人に上る。

 業績への影響も出ている。日航は2013年1~3月期に営業利益で約7億円の減益要因になった。全日空は1月だけで14億円の減収になるとだけ公表しているが、日航の倍以上の17機を保有しているだけに、利益面への影響はさらに拡大したもようだ。両社とも運航再開は6月になる見通しで業績へのマイナス効果は14年3月期にも及ぶ。


 全日空や日航にとって待望の運航再開認可だが、発煙原因は特定されていない。それだけに787の安全性をどこまで利用者にアピールできるかが課題になる。

 鍵を握るのがボーイングが作成したバッテリーシステム改修措置の中身。ボーイングはゼネラル・エレクトリック(GE)やマサチューセッツ工科大学など全米の専門家を集めて独自にトラブルを調査した。考えられる原因を約80項目挙げ、すべてに対応する18の改修案をまとめた。全日空の伊藤博行副社長は「あらゆる原因を網羅して対応している。確実に再発を防止できる」と話す。

 一方、国交省は国内独自の安全対策を全日空と日航に求めた。省内には「あまり独自の対策を求め過ぎると、かえってボーイングの改修案の信頼性を揺るがすことになりかねない」と慎重な意見もあった。ただ、根本的な事故原因の究明がなされないまま787の運航再開を承認することには「対米追従」との批判もあり、日本独自の取り組みの導入で批判をかわす狙いもあるとみられる。

 全日空と日航は今後、国交省の指導に従い、電圧など一定期間飛行した後のバッテリーの状態を共同で調査する。改修した機体では必ず確認飛行を実施する方針だ。改修状況をホームページで公開するなど多岐にわたる独自対策を施す。改修作業も急ピッチで進んでおり、全日空は28日に今回のトラブル後初めての試験飛行を実施する。

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鳥インフル 中国共産党にもう一つの脅威

鳥インフル 中国共産党にもう一つの脅威

「今のところ珍しい病気が散発的に発生しているにすぎない。恐らく今後もそうだろう」――。4月8日、世界保健機関(WHO)中国事務所のマイケル・オリアリー代表は、人々を安心させようとこう述べた。3月以降、中国で少なくとも9人の命を奪っているH7N9型の鳥インフルエンザウイルスに対する一般の見方は、今のところこういったものだ。

上海の養鶏卸売り市場を消毒する衛生職員=AP

上海の養鶏卸売り市場を消毒する衛生職員=AP

■SARS隠ぺいで感染が拡大

 今回の感染症発生は、「パンデミック」(世界的大流行)に発展することはないとしても、人々の注目を中国新指導部に集めることになった。中国に詳しい専門家は皆、今回のH7N9型の感染拡大と、10年前に中国を中心に広がった「SARS(重症急性呼吸器症候群)」の感染とは、共通している点があると指摘する。

 北京の新聞「リーガルウィークリー」は、「H7N9型インフルエンザの詳細が明らかになるにつれ、10年前に起きたSARS感染拡大の影が再び中国国民の心を覆っている」と報じた。

 SARSの時は、中国政府が当初、流行の事実を隠ぺいしたことで、感染が急速に拡大した。2003年後半に事態が収束するまでにSARSウイルスで770人余りが死亡した。そのうち80%以上が中国(香港を含む)に住んでいた。SARSのために中国への渡航者が激減、国内での移動も妨げられたため、経済活動に大きな混乱が生じた。

■不手際を防ぎたい新指導部

 SARSの流行は、当時就任したばかりだった胡錦濤国家主席と温家宝首相を困らせた。10年後の3月、彼らから権限を移譲された習近平国家主席と李克強首相は間違いなく、同じようなスタートを何としても避けたいと思っているはずだ。当局による隠ぺいや不手際のために、パンデミックあるいはSARS級の大流行となれば、国際社会における中国の評判は深刻なダメージを受けるだろう。

 また、共産党に対する国民の怒りに油を注ぐかもしれない。しかも今回の騒ぎは、ソーシャルメディアの時代に入って初めて起こった、公衆衛生における緊急事態だ。中国国民はソーシャルメディアによって、怒りを共有するかつてない機会を手にしている。

■自衛に走る周辺住民

 中国政府の対応は今のところ、2003年のSARSの時より迅速かつオープンであるようだ。WHOのオリアリー氏は、中国政府と共有している「情報のレベルに満足し、喜んでいる」と語った。3月31日に最初の2人の死者が上海で出たと発表した後、当局は、上海市の市場で売られていた生きた家禽(かきん)類にウイルスがいないか探した。ウイルスが見つかると、当局は速やかに市場を閉鎖し、数千羽の家禽を殺処分した。

 本稿執筆時点で、33人の感染者が出ている(うち9人が死亡)。感染者はすべて上海及びその周辺の省に住んでいた。周辺の省も家禽を処分し、生きた家禽類の販売を禁止している。

 しかし、大衆はまだ、事態に対して政府が効果的に対処していると思うには至っていないようだ。人から人への感染を示すケースはまだ報告されていないものの、上海及び周辺地域の人々は皆いら立ちを感じている。

 このため、これらの地域の薬局では、「板蘭根」という薬が軒並み売り切れになっている。板蘭根はインフルエンザ用の伝統的な薬ではあるが、H7N9型ウイルスに効くかどうかはわからない。さらに、あらゆる鶏肉の売り上げが急減している。上海のマクドナルドは、チキンマックナゲットの価格を引き下げることでこれに対応している。

■豚の大量投棄は未解決

 鳥インフルエンザは最悪のタイミングで上海を襲った。3月に、1万6000頭の豚の死骸が黄浦江の支流に流される事件が起きた。これに関して、多くの市民が今も当局に不信感を抱いているからだ。政府は次のように発表している――豚の死骸に対してインフルエンザウイルスの検査をしたところ、H7N9型ウイルスは検出されなかった。だが、豚の死因についてはまだ何も発表していない。H7N9型ウイルスによる2番目の死者が、豚肉を扱う業者であったことが大衆を不安にしている。

 加えて、国営メディアですら、最初の死者が出てから発表までになぜ27日もかかったかについて疑問を投げ掛けている。当局は、このウイルスが今まで人間で見つかった例がないため、原因究明に時間がかかったとしている。

 さらに、当局は職員の不可解な行動に関する説明もしていない。最初の死者が出た日から3日たった3月7日、衛生当局の職員が、「上海市内のある病院で鳥インフルエンザによる死者が出ている」というソーシャルメディア上の噂を否定した。後に、そのうち1人の死因が鳥インフルエンザであることが証明された。一方、同じ頃亡くなったその息子からは鳥インフルエンザウイルスは検出されなかった。当局は否定しているが、このウイルスが人から人に感染するのではないかという疑いが根強く残っている。

■許可ない情報開示は禁止

 中国の中央政府はSARSの感染拡大以降、感染性疾患が発生した場合に地方当局が隠ぺいしないよう、努力を重ねてきた(2003年以前は、殺処分や隔離などが経済に悪影響をもたらすのを避けるために、地方役人はこうしたことを隠ぺいするのが常だった)。国の緊急事態をメディアが独自に報道するのを禁じていたのを2007年に解禁した。そして2008年、市民から要求があれば、機密ではない情報を開示するよう地方政府に求める法律を導入した。

 しかし、危機の対処において、秘密主義がまだまん延している。政府のウェブサイトを検索すると、感染症の発生を上司に報告することの重要性と同時に、秘密を守る必要性を強調する地方条例が幾つかあることが分かった。吉林省北東部のある行政区が昨年7月に公布した規定は、鳥インフルエンザの事例に関して、鳥インフルエンザ対策室の許可を受けることなく情報公開することを禁じている。

 中国政府は、増大するソーシャルメディアの力をかつてないほど恐れている。H7N9型ウイルスに関する噂をソーシャルメディアで広めたと疑われる人々を警察が一斉検挙している。北京で発行されている雑誌「財経」によると、現時点で少なくとも13人が投獄されている。

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高速道路3社、劣化の補修費5兆円規模に

高速道路3社、劣化の補修費5兆円規模に

 高速道路の劣化に伴う改修策を検討してきた東日本、中日本、西日本の高速道路3社が、総額5兆円規模の費用がかかるとの試算をまとめたことが25日、わかった。昨年12月の中央道笹子トンネルの天井板崩落事故を受け、各社とも道路設備の大規模補修を検討しているが、費用が膨大になることから、負担のあり方などが議論になりそうだ。

 試算は、道路3社が昨年11月に設置した「高速道路資産の長期保全及び更新のあり方に関する技術検討委員会」が25日に公表する「中間とりまとめ」に盛り込まれる。

 今後中間とりまとめをもとに、国を含めて費用負担のあり方などを検討する。ただ費用が巨額になることから、各社が単独で捻出するのは難しいとの指摘もある。現在高速道路各社は料金収入から維持管理費用を引いた額を国に返済しており、この返済方法を見直すなどの案もあがっている。

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全日空、日本貨物航空と提携 大型機利用し輸送効率化

 ANAホールディングス傘下の全日本空輸は日本貨物航空(NCA)と貨物機の活用で提携する。NCAが保有する大型貨物機を利用して幹線輸送の効率化を進める一方で、自社機材を成長が見込める沖縄発着のアジア向け輸送に振り分ける。全日空の貨物専用便の輸送容量は従来比で12%拡大する。円安基調で拡大が見込める輸出需要を取り込み、アジア地域の航空貨物で攻勢をかける。

 全日空はかつてNCAに出資、提携関係にあったが、2005年に解消していた。今回、航空貨物事業の強化に向けて再提携することになる。

 全日空は7月中旬からNCAが保有するボーイング747型の貨物機1機をパイロットも含めて借り受ける。現在、2機のボーイング767型(搭載容量50トン)を使用して毎日2便運航している成田―沖縄線に、747型(同100トン)を導入して同1便に削減する。

 その一方で、沖縄からシンガポール、ジャカルタ、広州などアジア方面への輸送に767型2機の活用を検討している。

 今回の提携で全日空の専用便の輸送容量は4万8956トンに拡大する見通し。活用できる貨物便が1機増えることで定期的な機材整備にともなう機会損失が減ることもあり、今期は約36億円の増収効果を見込む。約10億円の損益改善効果も期待でき、09年10月に沖縄を拠点に始めた日本とアジアを結ぶ貨物ハブ事業は営業赤字から脱却できる見通し。

 欧州債務危機や国内電機の不振の影響で12年の国際航空貨物の輸送量は約114万トンとリーマン・ショック前の07年の8割強の水準にとどまっている。NCAの得意とする欧州など長距離路線が厳しい。今期に747型を増やすNCAにとっても保有機の有効活用は課題になっていた。

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インドネシア「空の安全」後手 急成長ゆえの苦悩

インドネシア「空の安全」後手 急成長ゆえの苦悩
ジャカルタ支局 渡辺禎央

 インドネシアの格安航空会社(LCC)最大手ライオン航空の国内線が13日、人気観光地バリ島の空港で着陸に失敗した。滑走路でなくそばの浅瀬に着水し、胴体が折れる醜態をさらした。安全性への信頼が低い同国航空の事故史が新たな段階に入ったのは、国際基準をクリアしているはずの空港で、製造からわずか1年の機材が事故を起こしたことだ。

滑走路そばの浅瀬に着水、機体が折れたライオン航空のボーイング機(13日、インドネシア・バリ島の国際空港)=ロイター

滑走路そばの浅瀬に着水、機体が折れたライオン航空のボーイング機(13日、インドネシア・バリ島の国際空港)=ロイター

 13日の事故機は108人を乗せたボーイング737―800。2012年製造で、今年3月に運航を始めたばかりだ。事故原因は調査中だが、着陸態勢に入ったものの、何らかの理由で着陸をやめた後に態勢を立て直せなかったもようだ。実は19日にも、同じバリの空港で離陸寸前のライオン航空機が急停止。不具合で修理が必要になるという騒ぎもあった。

 インドネシアは航空事故が多い。従来は老朽化した機体や補修不足が主因だったが、最近は新型機にも拡大。12年はロシアが開発した旅客機「スホイ・スーパージェット(SSJ)100」がデモ飛行の際に山中で墜落。メディア関係者など40人以上が死亡した。ライオン航空でも過去10年で少なくとも約20件の着陸失敗事故が発生。安全基準を満たしていないとして、同社は欧州連合(EU)上空への乗り入れを禁じられている。

 ところが、そんなライオン航空からの受注攻勢に沸くのが欧州エアバスやボーイングだ。3月はエアバスが234機を約184億ユーロ(約2兆4千億円)で受注したばかりだ。航空市場の成長に乗り拡大路線をひた走るライオン航空と、需要を求めて受注競争にまい進する航空機メーカー。両者の利害が一致するホットスポットのインドネシアで今、空の「時限爆弾」の火花がちらつき始めた。

 航空専門家のスジャトマン氏は「パイロットなど人材の数や質が不足。業務過密化で、安全確保が危機にさらされている」と警鐘を鳴らす。インドネシアの航空市場の拡大と人材のギャップは深刻だ。12年に約7200万人だった旅客数は、15年に1億3千万人になる見通し。パイロットも12年の7950人から、14年に8930人が必要となるが「訓練をしっかり受けた人材は足りない」(スジャトマン氏)。

 航空機側だけでなく、空港・管制側も人材逼迫が著しい。運輸省幹部は「航空管制官(ATC)が今年は800人追加で必要」だと指摘。首都の玄関口、スカルノ・ハッタ空港では「本来は300人台のATCが必要だが現状は240人弱にとどまる」(同幹部)という。政府はATCの定年を従来の50歳台後半から65歳に引き上げ、後進の指導にあたらせている。インドネシアでは空港も建設ラッシュだ。増設も含め、13年は12空港が稼働を準備中。15年までにさらに12空港を追加する見通しだ。

 旅客の拡大が続くとはいえ、航空会社の収益環境は決してバラ色ではない。昨年7月、LCCアジア最大手のマレーシアのエアアジアがインドネシアの中堅バタビア航空の買収を発表。しかし同10月、「(買収は)多大なリスクや株主への影響を引き起こしうる」として買収を停止。財務体質に問題があったもようで、実際、今年1月にバタビアは経営破綻した。非上場のライオン航空も財務体質は不透明なままだ。

 最近はメーカー側の様子にも異変がみられる。13日のバリ島の事故からわずか2日後の15日、米連邦航空局(FAA)はボーイングの「737」に「機体が制御不能になる可能性がある」欠陥を発見したとし、検査と部品の改修を命じた。米国外の機材は対象でないが、新興国のLCC向けなどに人気の機種だけに懸念は尽きない。

 東南アジア諸国連合(ASEAN)が15年の航空自由化を目指す中、各国では航空網の急拡大が確実視される。中核となるインドネシア市場の動向を見ていると、他国にも同様の時限爆弾が眠っていないとも限らない。

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ANA営業益最高 13年3月期、コスト減や客数増で

ANAホールディングスの2013年3月期は本業のもうけを示す連結営業利益が前の期と比べ約1割増えて1100億円弱となったようだ。最新鋭のボーイング787型機の運航停止を旅客数の伸びやコスト削減で補い、2期連続で過去最高となった。14年3月期は787型機の運航再開による旅客数の増大を見込み、3期連続で最高益更新を目指す。

 ANAは4月に持ち株会社制に移行し、ANAホールディングス傘下にそれまでの事業会社である全日本空輸などが入った。

 旅客数は国内線が前の期と比べて5%、国際線は7%増加した。787問題により国際線では成田―シアトル線、国内線では羽田―福岡線などで欠航が生じた。ただ運航停止後も欠航便の予約客を前後便に振り替えるなどして顧客を確保した。

 従来、取り組んでいる航空機部品の在庫圧縮や人員配置の効率化といった構造改革によるコスト削減も進んだ。為替の影響も限定的だったとみられる。円安により燃油費は増えたが、ヘッジ取引や外貨建ての売り上げの拡大、ビジネス客の増加などで吸収した。13年3月期の営業利益は従来予想(1100億円)比微減にとどめた。売上高は従来予想の1兆4700億円には届かなかったとみられる。

 14年3月期は、6月とみられる787運航再開や円安による輸出商談のためのビジネス旅客の利用増で海外路線が伸びそうだ。

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B787運航再開へ、全日空・日航6月にも

B787運航再開へ、全日空・日航6月にも
米当局が認可方針

 【ワシントン=杉本貴司】米連邦航空局(FAA)は、発煙事故で運航停止中の米ボーイングの新型機「787」の運航再開を月内にも認可する方針を固めた。ボーイングが提出した同機の是正措置案を妥当と判断した。FAAの正式発表を受け、国土交通省も787の運航を認める方針。世界に先駆けて787を導入したANAホールディングス傘下の全日本空輸と日本航空は、6月にも営業運航を再開する見通しだ。

 FAAは今年1月に発動した「緊急耐久性命令」による運航停止指示を解除する方針を日米の一部関係者に伝えた。就航後、バッテリートラブルが相次いだ787は、今年1月16日から世界で運航を停止していた。

 発煙事故の原因は、米国では米運輸安全委員会(NTSB)を中心に調査が続いている。だが、ボーイングは2月末に原因調査報告や発煙したバッテリーの是正措置案をFAAに提出。飛行試験を実施するなど安全性の確認作業をFAAと共に進めてきた。

 是正措置案はバッテリー内部の電池の間の隔壁を補強して、電池が過度に発熱してもほかの電池や周辺機器に影響しないようにすることなどが柱。FAAは飛行試験の結果も踏まえ、飛行の安全性に支障はないと判断した。

 米航空会社ではユナイテッドがすでに、5月末から787を使用する運航計画を組んでいる。FAAの認可を受け、早ければ5月末から営業運航を再開する見通しだ。

 国交省もFAAと連携してボーイングの是正措置案を審査しており、同省としても運航再開に問題はないとの判断に傾いている。

 各国当局の認可を受け、787を保有する航空会社はボーイングの指示書に基づいて機材の改修に取りかかる。国交省は改修作業を全機で適切に実施したかどうかを担当者を派遣するなどして確認する方針だ。

 17機を保有する全日空は改修後に試験飛行を複数回実施するなどして、安全確認に一定期間をかける。運航再開は6月1日の国内定期便からの予定。現在、欠航や代替機種での運航となっている路線に787を順次投入する。懸念されていたお盆休みの帰省客への影響を避けられそうだ。国際線も夏ごろから順次再開する見通し。国際線だけで787を使っている日航も6月の定期便からの運航再開をめざす。

 NTSBと日本の運輸安全委員会は不具合の原因を引き続き究明する。これまでバッテリーを製造したGSユアサでバッテリーの分解調査をしたほか、バッテリーと充電器をつなぐ試験などを実施してきたが、現時点では詳細な原因の特定には至っていない。

 787の運航停止に伴い、全日空と日航は合計約4300便(1月16日~5月末)を欠航。利用者への影響は3月末までに約13万5000人に上り、航空機材のトラブルでは国内最大規模になっていた。

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脱再生エネ? ソフトバンク、電力事業へ秘めた野心

脱再生エネ? ソフトバンク、電力事業へ秘めた野心

 「相変わらずの大風呂敷」――。三井物産などと組んでロシアからの電力輸入構想を打ち出したソフトバンク。周囲の揶揄(やゆ)する声をよそに、着々と準備を進める。単なる話題づくりか、それとも勝算があるのか。ソフトバンクがひそかに描くエネルギー事業の青写真を探った。

■事業規模1兆円超の壮大な構想

 2013年2月12日。この日は、ひょっとしたら島国・日本の閉ざされた電力市場の歴史的転換点と記されるかもしれない。

 「この壮大なプロジェクトをぜひとも、実現させましょう」――。ロシアの首都モスクワ、ロシア政府系電力大手インテルRAOの本社ビル。ソフトバンク、三井物産、インテルRAOの幹部は高揚した面持ちで握手を交わし、事業化調査の覚書に調印した。日本とロシアを結ぶ送電網を構築し、2016年以降にもロシアの電力を日本に送るという事業規模1兆円超のプロジェクト。実現すれば、日本は初めて海外と電力網がつながり、日本のエネルギー安全保障のあり方は大きく変わる。

 この構想はロシア側がソフトバンクに働きかけ、とんとん拍子に進んだという。日本やロシア、モンゴル、中国などの送電網を海底ケーブルでつなぎ、電力を相互融通する「アジアスーパーグリッド」を提唱するソフトバンク社長の孫正義にとっても、渡りに船の話だった。

 その意気込みを示すかのように、当初は孫自らが調印に臨もうとしていたという。米携帯電話大手のスプリント・ネクステルの買収で時間が取られることもあり、最終的には代理を立てたが、インテルRAO側はナンバー2の役員が調印。日・ロ両サイドとも「本気度合い」をうかがわせた。

 構想は壮大だ。ロシアの極東部の水力発電所などからサハリン南端まで送電網を敷設。サハリンから北海道の北端までを海底ケーブルで結ぶ。総費用は1兆円を超えるというが、燃料コストが安いため「まず目指すのは(原発一基分の)100万キロワットの輸入。総コストは1キロワット時あたり10円を切る」(関係者)。液化天然ガス(LNG)火力を下回り、石炭火力に匹敵するコスト競争力だ。

 すでに事業化調査チームを組織した。名を連ねるのはソフトバンク、インテルRAO、三井物産の3社のほか、送電インフラ大手のスイス重電ABBや米コンサル会社。近く一回目の会合を開き、構想の具体化に移る。

■カギ握る元東電社員

 もっとも、電気事業法は海外の送電網との接続を想定していないので実現には新たな法整備が必要。エネルギー行政をつかさどる経済産業省のバックアップ抜きには実現はおぼつかない。ソフトバンクといえば役所とけんかばかりしてきたイメージが強い「異端児」。行政を味方につけることができるのか……。

三井物産と組み、出力約4万キロワットの国内最大級メガソーラーを鳥取県に建設する

三井物産と組み、出力約4万キロワットの国内最大級メガソーラーを鳥取県に建設する

 カギを握る一人の人物がいる。

 昨秋、東京電力から転じた40歳代半ばの幹部社員A。東電前会長の勝俣恒久の信頼が厚く、東電中枢の企画部門のエースといわれた男だ。福島第一原発事故がなければ将来の社長候補ともささやかれていたが、再建計画「総合事業特別計画」の策定を巡って、政府の原子力損害賠償支援機構(原賠機構)と激しく対立。国有化後、原賠機構の幹部らが東電に乗り込んでからは干されてしまい、東電を去った。今やソフトバンクのエネルギー事業の中心人物として、電力会社を攻める立場に変わった。

 「自分に期待されている役割は役所とうまく調整すること」。Aは東電企画部時代に培ったパイプを生かし、経済産業省内にソフトバンクのシンパを広げようとしているという。

■経産省は一見後ろ向きだが

 「実現は疑問」「50年はかかるだろう」――。表向き、経産省はソフトバンクの電力輸入構想には後ろ向きの姿勢だ。だが、内情は少し異なる。

 「以前から経産省内にはサハリンと日本をパイプラインなどで結ぶ構想がある。今でも消えていない」。ある経産省OBはこういう。かねてパイプライン敷設を推していたのは資源エネルギー庁だが、エネルギー安全保障が注目された震災以降は、経産省内の別の勢力が「パイプライン+送電網」のセットでロシアとつなぐ構想を温めているという。

 ソフトバンクと同じ方向を向いているわけだが、経産省として役所とけんかばかりする異端児の提案に、おいそれとのるわけにはいかないのだろう。

 実はロシアからの電力輸入構想は、ソフトバンクのエネルギー事業の重大な方針転換を意味する。水力だけでなく、ロシアで天然ガス火力発電所を新設する選択肢が含まれているのだ。

 ソフトバンクのエネルギー事業といえば、孫の「脱原発」を出発点に太陽光や風力など再生可能エネルギー中心だったはず。全国の知事と組んで、合計20万キロワット超のメガソーラーを建設する計画を進めている。ここにきてエネルギー事業の方針を転換するのはなぜか。

ソフトバンクの
エネルギー事業への取り組み
2011年
3月
東日本大震災後に孫社長が被災地を訪れ、福島県知事などと会談。再生エネ事業の検討開始
11年6月定款変更し会社の目的に再生エネルギー事業を追加
11年9月再生エネの調査や政策提言などを手掛ける「自然エネルギー財団」が活動開始
アジア各地を送電網でつなぐ「アジアスーパーグリッド」構想を提唱
11年10月再生エネ事業の子会社、SBエナジー設立
12年3月モンゴルの投資会社ニューコムとゴビ砂漠での風力発電開発などで合意
12年7月京都市と群馬県榛東村で同社グループ初のメガソーラーがそれぞれ稼働
12年8月三井物産とメガソーラー建設計画の詳細を発表
12年12月マンションなどの屋根を借りて太陽光発電する「おうち発電プロジェクト」を開始
13年2月ロシア政府系大手発電会社インテルRAO、三井物産と、日ロ間の送電網構築に向けた事業化調査の実施で合意

 「携帯電話事業でいずれ今ほど稼げなくなった時のことを孫さんは考えている」(関係者)。携帯電話の次の成長事業としてエネルギー事業を位置づけているというのだ。メガソーラーなど再生エネ事業の先行きは、政府の買い取り価格次第。買い取り価格が下がっていけば、いずれ立ち行かなくなるのは目に見えている。20万キロワット超のメガソーラーは国内有数かもしれないが、小型火力一基分にすぎない。

■ドコモが「アイフォーン」発売したら…

 携帯電話で稼げなくなるという危惧は、徐々に現実味を帯びている。NTTドコモが米アップルの「アイフォーン」を近く発売するとの見方が強まっているのだ。

 「ドコモがアイフォーンを発売したら、1年間で数十万件の契約がソフトバンクからドコモに流れる可能性がある」。調査会社のMM総研(東京・港)取締役の横田英明はこう予測する。通信業界に詳しい証券アナリストは「ドコモが仮にアイフォーンを導入すれば、ソフトバンクにとって100億円以上の減益要因になる」とみている。

 ドコモへの対抗策で余分な出費もかさむだろう。KDDI(au)がアイフォーンを導入した2011年10月。ソフトバンクは旧型機種を無料で最新機種に取り換えるキャンペーンで顧客をつなぎとめようとした。孫は「100万件の顧客流出を予想したが、5万件にとどまった」と胸を張ったが、販促費だけで300億円もかかった。

 顧客基盤がKDDIの1.6倍あるドコモが相手なら、支出はそれ以上となるのは確実。もっと踏み込んで、「端末価格をドコモ以下に下げるだろう」(MM総研の横田)。さらに「料金設定を下げて顧客つなぎとめに走る」とみる関係者も多い。当然、収益力は落ちていく。

 こうした危機感があるからだろうか。エネルギー事業の実動部隊の陣容を着々と整えている。先兵となるのは11年10月設立のグループ会社「SBエナジー」。社員数は約100人のうち、電力会社の社員、商社の電力事業経験者ら中途入社組が半数を占める。

 孫が社長を務めるが、実際に率いるのは副社長の藤井宏明。JR東日本出身で01年に中途入社。地方競馬事業の支援、学校教育でのIT導入などを通じて築いた地方自治体とのパイプをうまく使い、メガソーラー事業の旗振り役を担う。SBエナジーはメガソーラーから、次の現実的なステップに進もうとしている。

 電力業界関係者によると、SBエナジーは東電の火力発電所の建設・運営入札への参加を検討しているという。

 福島第一原発事故による巨額の賠償負担で投資余力に乏しい東電は、入札によって外部資本を導入し、260万キロワット分の火力発電所を新設しようとしている。締め切りは5月24日。中部電力や総合商社などが応札すると見られている。ここに名乗りをあげようというのだ。落札できれば長期に渡って着実に稼げるうえ、プラント建設・運営ノウハウが手に入り、内外での電力事業の展開に弾みがつく。

 ただ、落札するためにはソフトバンクは一段と「脱再生エネ」へ舵(かじ)を切る覚悟を求められる。

 東電が示した発電コストの上限は1キロワット時あたり9.53円。「コスト的には石炭火力以外では難しい」(電力業界関係者)。本気で落札して利益を確保するなら、石炭火力に踏み込むほかなく、全国の知事と組んでメガソーラーを展開することで作り上げた「再生エネの旗振り役」というクリーンなイメージを下ろさねばならないだろう。

■買収したい電力会社は…

 さらにソフトバンクは秘策として、お得意のM&Aを仕掛けるタイミングを計っている。

 「すべての電力会社の時価総額と経営状態を調べてくれ」――。昨秋、孫は部下にこう命じたことがあったという。電力会社を買収するならどこがいいのか……。

 出した答えは「Jパワーだった」(関係者)。

 なぜJパワーなのか。水力や風力の発電設備は国内屈指。東電や関西電力など地域独占に安住する電力会社と違って、小売部門を持たないJパワーは危機感が強く海外展開が進んでいる。米国やアジアで火力や風力を手掛け、海外で370万キロワットの設備を持つ。Jパワーを傘下に収めれば、アジアでの電力事業基盤が手に入り、「アジアスーパーグリッド構想」には確実に追い風になる。

様々な新規サービスで通信の価格破壊を先導してきたソフトバンク。閉鎖的な電力市場の起爆剤として期待する向きも

様々な新規サービスで通信の価格破壊を先導してきたソフトバンク。閉鎖的な電力市場の起爆剤として期待する向きも

 しかもJパワーは唯一、北海道と本州を結ぶ電力海底ケーブル(容量60万キロワット)を持っており、ロシアからの電力輸入が実現すれば、この施設を使って本州に電力を供給できる。

 Jパワーの時価総額はおよそ4000億円。英ボーダフォンの携帯事業買収に1兆7500億円を投じたこともあるソフトバンクにとってさほどの問題ではなかったが、後に急浮上したスプリントの買収を優先したようだ。

 現時点ではエネルギー分野での大型買収は様子見という。もっともJパワーは大間原発を建設中。「脱原発」の孫が原発運営に手を出すわけにはいかないので、仮に買収しても大間原発を抱えるのは難しいだろう。

■「業界風雲児」の破壊力に期待感も

 「10年前にモデムを街頭で無料配布してADSLを普及させたように、スマートメーターを無料で配ってみたらどうだろう」

 「ソフトバンクの通信サービスを利用しているユーザーに割安な電力を供給する『セット販売』で顧客を増やす方法はどうか」

 最近のソフトバンク社内では電力事業拡大策を巡って、活発な議論が交わされているという。通信業界で様々な規制を突き破り、価格破壊を実現したソフトバンク。その剛腕ぶりから「アジアを送電網で結ぶ構想を掲げるソフトバンクが電力に本格参入すれば競争が活発になり、エネルギー安保にもプラス」(シンクタンク研究員)との期待も一部にはある。

 発送電分離方針が決まった後も電力改革に抵抗し、自己変革の姿勢を示さない電力業界。強固な結界を破り、電力市場の競争を活発にするには「業界風雲児」のソフトバンクの本格参入はうってつけかもしれない。だが、ソフトバンクにとって「脱再生エネ」の説明責任は相当に重いだろう。

=敬称略

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宇宙飛行士の”教官”の「伝える技術」

宇宙飛行士の”教官”の「伝える技術」

美人インストラクターが、NASAに表彰されるまで

世界の宇宙飛行士から「伝える技術」の高さを賞賛される日本人インストラクター、醍醐加奈子さん

人に教えることは、学ぶことよりはるかに難しい。相手のモチベーションを上げ、理解度を把握しつつ、習得すべきポイントは確実に押さえてもらう。しかも教える相手が、分刻みのスケジュールで飛び回るスーパーエリート、宇宙飛行士だったとしたらどうだろう。限られた時間内で効率的に、しかし必要な情報は確実に伝えなければ、命にかかわることだってある。

宇宙飛行士に指導をする先生、それが訓練担当インストラクターである。彼らには、宇宙飛行士以上に膨大な知識を持ちながら、何を伝えるべきかという情報を取捨選択したうえで、的確に「伝える技術」が求められる。世界で、その技術を絶賛される日本人インストラクターがいる。醍醐加奈子さん。この仕事について8年目の若き女性だ。

国際宇宙ステーション(ISS)に実験棟「きぼう」を持つ日本は、「きぼう」で作業をする世界の宇宙飛行士に対して、宇宙実験や緊急時対応などの訓練を行う。その担当者である醍醐さんの人当たりはとても柔らかい。しかしニコニコ笑いながら、情け容赦なく厳しい訓練を課すことから、「オニ」と実にストレートな言葉で呼ばれているという。

2012年1月、醍醐さんは有人宇宙飛行に大きく貢献した人に贈られる「NASAシルバー・スヌーピー賞」を受賞している。宇宙飛行士全員で決めるこの賞は、つわものぞろいのNASA関係者ですらめったにもらえない栄誉ある賞。表彰状には「いつも筑波であなたが笑顔で出迎えてくれると、素晴らしい訓練が待っていることを期待させてくれた」などNASA宇宙飛行士による感謝のメッセージがつづられていた。

醍醐さんは訓練カリキュラムを作る国際会議の日本代表も担当。その能力は日本人宇宙飛行士のエース、若田光一飛行士や世界の訓練関係のマネジメントも絶賛する。

宇宙関係者が賞賛する、その「伝える技術」の極意はどこにあるのか。

科学者かパイロットか、新人かベテランか

「宇宙飛行士の要望を知り、満たすことです」と醍醐はさらっという。しかし、それこそが宇宙飛行士との信頼関係を築くうえでもっとも大事であり、いちばん難しいことなのだ。

宇宙飛行士訓練では「伝えるべき内容」や「習得すべき技術」という“ミニマム”の目標は、ISS参加国の国際調整により決められている。だがどの深さまで、どのように教えるかについては各国に任されるし、誰に対しても一律に行うわけではないという。

「宇宙飛行士と一口に言っても、キャラクターや経歴、バックグラウンドはそれぞれ。それを把握せずに、教科書どおりに教えようとすれば、『そんなの知っている』とか『そこまで知る必要はない』などと言われてしまう。

だからまず、こちらが必ず提供すべき項目を伝えるとともに、『ここを詳しく』という宇宙飛行士の要望や希望を満たすことが大事だと思っています」

自分のニーズを把握し、考慮してくれると伝われば、宇宙飛行士とインストラクターの間に信頼関係が生まれる。一方、ニーズを把握せず、的はずれなことを言えば信用されないのは、世の中のほかの仕事とまったく同じだと醍醐は言う。

たとえば、と例に挙げてくれたのは、パイロット出身の宇宙飛行士とサイエンティスト出身の宇宙飛行士の違いだ。

「サイエンティストは、自分の興味があるところを深く聞いてきます。でも訓練時間には限りがあるので、『ゴメン、今は時間がないから、後にしましょう』と言うこともある。でも本人にできるだけ満足してほしいので、あらかじめ訓練を長めに組むようにする。一方でくどくど説明するのを好まないのが、パイロット上がりの宇宙飛行士。『あなたが教えたいことだけ教えなさい』と言われたりします」

ISSは、世界15カ国が参加する国際協力プロジェクト。「きぼう」日本実験棟では、日本人だけでなく他国の宇宙飛行士も実験を行う。米国、ロシア、ヨーロッパ、カナダから宇宙飛行士が訓練のため日本を訪れる。だが人種による違いはそれほどないという。

「強いて言えば、アメリカ人よりロシア人のほうが真面目にこつこつ作業するという点で日本人に似ています(笑)。でも人種より、経歴の違いのほうが大きい。例えばルーキー(新人)で初めて宇宙に行くのか、既に宇宙に行った経験があるベテランか。

飛行経験がある宇宙飛行士はポイントを掴みやすいけれど、ルーキーはポイントがわからず不安だから全部聞いてくる。その人がおかれた環境や不安を受け止めたうえで、訓練を提供します」

初めての訓練前、まさかの過呼吸に

今ではシニアインストラクターとして若手を教育する立場にもある醍醐だが、最初からうまく指導できたわけではない。訓練インストラクターは認定されるまで1~2年の訓練を受ける。「きぼう」の技術知識を習得するのはもちろん、訓練はほぼ100%英語で行われるため、語学力も必須。

模擬訓練では先輩インストラクターが生徒(=宇宙飛行士)役になり、あえて変な質問を繰り返すなど悪い態度を取り、インストラクション、つまり「伝える技術」を鍛える。技術、語学、インストラクションなどすべての評価項目に受かるまで何度も試験を繰り返す。

醍醐は大学で航空宇宙工学を学び、博士前期過程を終了。2005年に有人宇宙システム株式会社に入社した。当時は「きぼう」打ち上げ3年前で、宇宙飛行士をどのように訓練するかをJAXAと共に開発していた時期。醍醐はインストラクター認定の勉強と平行して、訓練そのものの開発にも携わった。

博士課程まで学んだ醍醐にとっても、「きぼう」の知識を習得するのは厳しかったという。「きぼう」は数百万点の部品から成り、そのシステムは複雑である。さらに開発の経緯から理解しようとすれば膨大な情報量になる。すべてを宇宙飛行士に教える時間はないし、その必要もない。でも教える立場として、聞かれたことは何でも答えられるようにしたい。

「この機器はなぜここにあるのか、なぜこの形なのか。生徒は何に興味を持ってくるかわからない。訓練の場で頼れるのは自分だけ。生徒役の評価者にひたすら質問され、適切に答えながら訓練を時間内に収めないといけない。擬似的な訓練で鍛えられていきました」

醍醐はひたすら勉強し、最短の1年で資格を取得、指導の現場に立つことになる。ところが初めての訓練を行う2時間前、過呼吸を起こしてしまう。

「すごく突っ込んで聞かれるんじゃないかと思う一方で、『その情報いらない』とか『無駄だ』と言われるんじゃないか、とかいろいろ考えすぎて、緊張してしまったんです」

そのときは1時間で回復し、本番を無事乗り切ったが、その後も試行錯誤は続く。知識も経験も足りず、訓練でうまく対応できずに訓練終了後にかげで泣いたこともあった。

訓練後、宇宙飛行士たちに訓練内容についてのアンケートに答えてもらうが、「いい訓練だった」といううれしい評価もあれば、「あの内容はいらなかった」「質がイマイチ」という厳しい意見もあった。醍醐がつらかったのは、相手の要望を把握しきれていなかったときだ。

宇宙飛行士たちから信頼を勝ち取るのは容易ではない(出典:JAXA)

「この人が求めているのはここだろうと思って訓練したのに、アンケートを見るとかみ合っていなかった。訓練途中で言ってくれればいいが、言わない人もいます。反応がおかしいなと思いながら見抜けなかった、こちらにも責任がある。そんなときは悔しい気持ちになります」

宇宙飛行士は頭脳明晰で「1言えば10わかる」人がほとんどだ。それだけに、かゆくて手が届かないポイントを把握することが肝となる。醍醐は悔しい気持ちをバネに経験を積み、徐々に相手の求めるポイントをつかんでいく。

責任感の強い醍醐は、2008年夏、「きぼう」打ち上げ直前に組み立て作業を担当する星出彰彦飛行士を追いかけてヒューストンに飛んだこともあった。最終的な組み立てプランやトラブル対策について、ギリギリまで訓練を行うためだ。必死だった。それらの苦労を宇宙飛行士たちはちゃんと評価してシルバー・スヌーピー賞が贈られた。「宇宙飛行士がそんなふうに見ていてくれたとは思わず、涙が出るほどうれしかった」(醍醐)。

訓練手法はNASAとロシアで対照的だと言われる。NASAはまず実物に触り、操作をしてみて知識を習得する「タスク重視型」の訓練方式。一方、ロシアは先に技術的知識を深く習得した後で操作をする「知識重視型」。日本はというと、相手に合わせてカスタマイズすることから、各国の宇宙飛行士の評判がいい。

しかし、ISSに滞在する宇宙飛行士の訓練は、できるだけ効率化することが求められている。日本を含め世界の宇宙飛行士が最も時間を割くのは米国とロシアでの訓練であり数カ月単位で行われる。

一方、日本での訓練は2週間×3回で計6週間。その間に宇宙実験や緊急対応訓練など多くの項目を課さなければならない。宇宙飛行士はすべての項目を覚えていられるのだろうか?

「忘れてもいい」が、思い出せる仕掛けを

「忘れてもいいんです」と醍醐はあっけらかんと言う。何年も前にやった訓練を覚えていられるはずがないからだ。

「忘れてもいいけれど、必要なときに引き出せないといけない。火災や空気漏れなどの緊急時に現場に立ったときに『あれ、これマズイよね』と思い出せるようにするんです」

醍醐の担当は緊急時対応。だからまず絶対に間違えてはいけない操作に、ポイントを絞り込む。ここに手を突っ込んではだめ、このレバーは引っ張ってはいけない、というように。

「そこさえフォーカスすれば、全体は忘れてもいい。思い出すためにポイントに特化した教材を作り、宇宙で見る手順書に『注意』と黄色に色づけしたりして、“思い出す仕掛け”を作ります」

緊急時対応訓練は、日本に訓練に訪れるたび、「今回は火災」「今回は空気漏れ」などケースを変えつつ、確認する場所は同じにするなど、忘れた手順を思い出すように訓練をくり返す。さらに、宇宙に行ってからも定期的に訓練を行う。小学校や中学校で定期的に避難訓練を行うように、身体で覚えさせるのだ。

実際、2011年6月に古川飛行士がISS滞在中、緊急時訓練を行った直後に、スペースデブリ(宇宙ゴミ)が接近。行ったばかりの手順とほぼ同じ手順を踏み、緊急帰還機に避難することに成功している。

宇宙との交信時は、別の「伝える」技術が必要

宇宙との交信担当には、また別の「伝える技術」が必要とされる。写真手前が醍醐さん(出典:JAXA)

醍醐の伝える技術は、もう1つ別の担当分野でも磨かれている。彼女は宇宙で作業をする宇宙飛行士たちと、地上側から交信する交信担当も務めているのだ。

交信担当には、訓練担当とはまた別の「伝える技術」が求められる。

宇宙と地上との交信には、大きな制約がある。ISS―地上間の回線が2回線しかなく、1回線はロシア語用。もうひとつの回線を使ってNASAの2つのセンターと日本、ヨーロッパの交信担当がISSにいる複数の宇宙飛行士たちと交信する。つまり交信が殺到するのだ。

「あまりタラタラと話していると『さっさとして!』とプレッシャーをかけられる(笑)」(醍醐)。

少ない言葉で確実に意思疎通を図らなければならない。しかし短い単語を使えば済むというわけでもない。大事なのは「先を読むことだ」という。

「現在、宇宙飛行士がやっている作業の内容を把握して、あと数ステップ先に困りそうなポイントがあったら、『チェックポイントが来るよ』と早めに伝えるんです」

醍醐が最も気を遣うのは、伝える「間合い」だ。宇宙飛行士が何か作業を必死に行っているときに声をかけると、作業のペースを崩すことになる。とはいえ、チェックポイントを伝えないと「もっと早く言ってくれればよかったのに」と後で言われかねない。

そのタイミングと言葉のかけ方は、今でも試行錯誤だ。「きぼう」内に宇宙飛行士の様子を写すモニターカメラはあるが、1カ所にしかなく解像度も悪いので、実際の手元の様子がわからない。

宇宙飛行士の動きがぴたっと止まったりすると、『助け船出したほうがいいかな』と迷う。行っている作業の複雑さにもよるが、少し待って醍醐は声をかけることにしているという。実際、2012年にISSに滞在した星出飛行士には、絶妙のタイミングで相手の求める情報を提供でき、「今聞こうと思っていたところだよ」と感謝されたという。

肝っ玉母さんを“演じる”

声をかけるタイミングとともに、醍醐がつねに自らに課しているのは「平常心」だ。

「宇宙で異常が起こったときは、地上の管制センターは騒然としてピリピリとした緊張感に包まれます。でも同じ緊張感で宇宙飛行士に話しかけても、余計に不安をあおるだけ」

緊急事態で焦っても、メリットはひとつもない。「だからまずは平常心を保って、話を聞ける状態を作るのが自分の役割」(醍醐)

若田飛行士は宇宙でトラブルが起こったとき、地上の交信担当のどっしり落ち着いた声がオアシスのように感じたそうだ。苦境にあるときこそ、交信担当者は「肝っ玉母さん」を演じ、相手に心理的余裕を与えることで、窮地を脱することもできるのだ。

交信担当は宇宙と地上をつなぐパイプ役であるとともに、宇宙飛行士にとって砦でもある。管制官や実験を行う研究チームからは、宇宙飛行士に対して「これを伝えて」、「あれを確認して」という要望が殺到する。しかし、すべてを伝えれば宇宙飛行士を混乱させかねない。

声で伝えられることは限られる。「困っていることがあれば仕草でわかります。逆に地上で私たちが困っているときも、『何か助けることある?』と宇宙から声をかけてくれる」

「伝える技術」の根底にあるのは、相手の立場に立って信頼関係を築くこと。そしてひとつの大きな目的に向かうという共通の目標設定だ。

そこをしっかり築くことができれば、宇宙と地上という空間も時間の壁も超えられる。もしかしたら、地上の同じ部屋で机を並べながら、意思疎通を欠く同僚同士より、しっかり心を通い合わせることができているのかもしれない。

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