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脱再生エネ? ソフトバンク、電力事業へ秘めた野心

脱再生エネ? ソフトバンク、電力事業へ秘めた野心

 「相変わらずの大風呂敷」――。三井物産などと組んでロシアからの電力輸入構想を打ち出したソフトバンク。周囲の揶揄(やゆ)する声をよそに、着々と準備を進める。単なる話題づくりか、それとも勝算があるのか。ソフトバンクがひそかに描くエネルギー事業の青写真を探った。

■事業規模1兆円超の壮大な構想

 2013年2月12日。この日は、ひょっとしたら島国・日本の閉ざされた電力市場の歴史的転換点と記されるかもしれない。

 「この壮大なプロジェクトをぜひとも、実現させましょう」――。ロシアの首都モスクワ、ロシア政府系電力大手インテルRAOの本社ビル。ソフトバンク、三井物産、インテルRAOの幹部は高揚した面持ちで握手を交わし、事業化調査の覚書に調印した。日本とロシアを結ぶ送電網を構築し、2016年以降にもロシアの電力を日本に送るという事業規模1兆円超のプロジェクト。実現すれば、日本は初めて海外と電力網がつながり、日本のエネルギー安全保障のあり方は大きく変わる。

 この構想はロシア側がソフトバンクに働きかけ、とんとん拍子に進んだという。日本やロシア、モンゴル、中国などの送電網を海底ケーブルでつなぎ、電力を相互融通する「アジアスーパーグリッド」を提唱するソフトバンク社長の孫正義にとっても、渡りに船の話だった。

 その意気込みを示すかのように、当初は孫自らが調印に臨もうとしていたという。米携帯電話大手のスプリント・ネクステルの買収で時間が取られることもあり、最終的には代理を立てたが、インテルRAO側はナンバー2の役員が調印。日・ロ両サイドとも「本気度合い」をうかがわせた。

 構想は壮大だ。ロシアの極東部の水力発電所などからサハリン南端まで送電網を敷設。サハリンから北海道の北端までを海底ケーブルで結ぶ。総費用は1兆円を超えるというが、燃料コストが安いため「まず目指すのは(原発一基分の)100万キロワットの輸入。総コストは1キロワット時あたり10円を切る」(関係者)。液化天然ガス(LNG)火力を下回り、石炭火力に匹敵するコスト競争力だ。

 すでに事業化調査チームを組織した。名を連ねるのはソフトバンク、インテルRAO、三井物産の3社のほか、送電インフラ大手のスイス重電ABBや米コンサル会社。近く一回目の会合を開き、構想の具体化に移る。

■カギ握る元東電社員

 もっとも、電気事業法は海外の送電網との接続を想定していないので実現には新たな法整備が必要。エネルギー行政をつかさどる経済産業省のバックアップ抜きには実現はおぼつかない。ソフトバンクといえば役所とけんかばかりしてきたイメージが強い「異端児」。行政を味方につけることができるのか……。

三井物産と組み、出力約4万キロワットの国内最大級メガソーラーを鳥取県に建設する

三井物産と組み、出力約4万キロワットの国内最大級メガソーラーを鳥取県に建設する

 カギを握る一人の人物がいる。

 昨秋、東京電力から転じた40歳代半ばの幹部社員A。東電前会長の勝俣恒久の信頼が厚く、東電中枢の企画部門のエースといわれた男だ。福島第一原発事故がなければ将来の社長候補ともささやかれていたが、再建計画「総合事業特別計画」の策定を巡って、政府の原子力損害賠償支援機構(原賠機構)と激しく対立。国有化後、原賠機構の幹部らが東電に乗り込んでからは干されてしまい、東電を去った。今やソフトバンクのエネルギー事業の中心人物として、電力会社を攻める立場に変わった。

 「自分に期待されている役割は役所とうまく調整すること」。Aは東電企画部時代に培ったパイプを生かし、経済産業省内にソフトバンクのシンパを広げようとしているという。

■経産省は一見後ろ向きだが

 「実現は疑問」「50年はかかるだろう」――。表向き、経産省はソフトバンクの電力輸入構想には後ろ向きの姿勢だ。だが、内情は少し異なる。

 「以前から経産省内にはサハリンと日本をパイプラインなどで結ぶ構想がある。今でも消えていない」。ある経産省OBはこういう。かねてパイプライン敷設を推していたのは資源エネルギー庁だが、エネルギー安全保障が注目された震災以降は、経産省内の別の勢力が「パイプライン+送電網」のセットでロシアとつなぐ構想を温めているという。

 ソフトバンクと同じ方向を向いているわけだが、経産省として役所とけんかばかりする異端児の提案に、おいそれとのるわけにはいかないのだろう。

 実はロシアからの電力輸入構想は、ソフトバンクのエネルギー事業の重大な方針転換を意味する。水力だけでなく、ロシアで天然ガス火力発電所を新設する選択肢が含まれているのだ。

 ソフトバンクのエネルギー事業といえば、孫の「脱原発」を出発点に太陽光や風力など再生可能エネルギー中心だったはず。全国の知事と組んで、合計20万キロワット超のメガソーラーを建設する計画を進めている。ここにきてエネルギー事業の方針を転換するのはなぜか。

ソフトバンクの
エネルギー事業への取り組み
2011年
3月
東日本大震災後に孫社長が被災地を訪れ、福島県知事などと会談。再生エネ事業の検討開始
11年6月定款変更し会社の目的に再生エネルギー事業を追加
11年9月再生エネの調査や政策提言などを手掛ける「自然エネルギー財団」が活動開始
アジア各地を送電網でつなぐ「アジアスーパーグリッド」構想を提唱
11年10月再生エネ事業の子会社、SBエナジー設立
12年3月モンゴルの投資会社ニューコムとゴビ砂漠での風力発電開発などで合意
12年7月京都市と群馬県榛東村で同社グループ初のメガソーラーがそれぞれ稼働
12年8月三井物産とメガソーラー建設計画の詳細を発表
12年12月マンションなどの屋根を借りて太陽光発電する「おうち発電プロジェクト」を開始
13年2月ロシア政府系大手発電会社インテルRAO、三井物産と、日ロ間の送電網構築に向けた事業化調査の実施で合意

 「携帯電話事業でいずれ今ほど稼げなくなった時のことを孫さんは考えている」(関係者)。携帯電話の次の成長事業としてエネルギー事業を位置づけているというのだ。メガソーラーなど再生エネ事業の先行きは、政府の買い取り価格次第。買い取り価格が下がっていけば、いずれ立ち行かなくなるのは目に見えている。20万キロワット超のメガソーラーは国内有数かもしれないが、小型火力一基分にすぎない。

■ドコモが「アイフォーン」発売したら…

 携帯電話で稼げなくなるという危惧は、徐々に現実味を帯びている。NTTドコモが米アップルの「アイフォーン」を近く発売するとの見方が強まっているのだ。

 「ドコモがアイフォーンを発売したら、1年間で数十万件の契約がソフトバンクからドコモに流れる可能性がある」。調査会社のMM総研(東京・港)取締役の横田英明はこう予測する。通信業界に詳しい証券アナリストは「ドコモが仮にアイフォーンを導入すれば、ソフトバンクにとって100億円以上の減益要因になる」とみている。

 ドコモへの対抗策で余分な出費もかさむだろう。KDDI(au)がアイフォーンを導入した2011年10月。ソフトバンクは旧型機種を無料で最新機種に取り換えるキャンペーンで顧客をつなぎとめようとした。孫は「100万件の顧客流出を予想したが、5万件にとどまった」と胸を張ったが、販促費だけで300億円もかかった。

 顧客基盤がKDDIの1.6倍あるドコモが相手なら、支出はそれ以上となるのは確実。もっと踏み込んで、「端末価格をドコモ以下に下げるだろう」(MM総研の横田)。さらに「料金設定を下げて顧客つなぎとめに走る」とみる関係者も多い。当然、収益力は落ちていく。

 こうした危機感があるからだろうか。エネルギー事業の実動部隊の陣容を着々と整えている。先兵となるのは11年10月設立のグループ会社「SBエナジー」。社員数は約100人のうち、電力会社の社員、商社の電力事業経験者ら中途入社組が半数を占める。

 孫が社長を務めるが、実際に率いるのは副社長の藤井宏明。JR東日本出身で01年に中途入社。地方競馬事業の支援、学校教育でのIT導入などを通じて築いた地方自治体とのパイプをうまく使い、メガソーラー事業の旗振り役を担う。SBエナジーはメガソーラーから、次の現実的なステップに進もうとしている。

 電力業界関係者によると、SBエナジーは東電の火力発電所の建設・運営入札への参加を検討しているという。

 福島第一原発事故による巨額の賠償負担で投資余力に乏しい東電は、入札によって外部資本を導入し、260万キロワット分の火力発電所を新設しようとしている。締め切りは5月24日。中部電力や総合商社などが応札すると見られている。ここに名乗りをあげようというのだ。落札できれば長期に渡って着実に稼げるうえ、プラント建設・運営ノウハウが手に入り、内外での電力事業の展開に弾みがつく。

 ただ、落札するためにはソフトバンクは一段と「脱再生エネ」へ舵(かじ)を切る覚悟を求められる。

 東電が示した発電コストの上限は1キロワット時あたり9.53円。「コスト的には石炭火力以外では難しい」(電力業界関係者)。本気で落札して利益を確保するなら、石炭火力に踏み込むほかなく、全国の知事と組んでメガソーラーを展開することで作り上げた「再生エネの旗振り役」というクリーンなイメージを下ろさねばならないだろう。

■買収したい電力会社は…

 さらにソフトバンクは秘策として、お得意のM&Aを仕掛けるタイミングを計っている。

 「すべての電力会社の時価総額と経営状態を調べてくれ」――。昨秋、孫は部下にこう命じたことがあったという。電力会社を買収するならどこがいいのか……。

 出した答えは「Jパワーだった」(関係者)。

 なぜJパワーなのか。水力や風力の発電設備は国内屈指。東電や関西電力など地域独占に安住する電力会社と違って、小売部門を持たないJパワーは危機感が強く海外展開が進んでいる。米国やアジアで火力や風力を手掛け、海外で370万キロワットの設備を持つ。Jパワーを傘下に収めれば、アジアでの電力事業基盤が手に入り、「アジアスーパーグリッド構想」には確実に追い風になる。

様々な新規サービスで通信の価格破壊を先導してきたソフトバンク。閉鎖的な電力市場の起爆剤として期待する向きも

様々な新規サービスで通信の価格破壊を先導してきたソフトバンク。閉鎖的な電力市場の起爆剤として期待する向きも

 しかもJパワーは唯一、北海道と本州を結ぶ電力海底ケーブル(容量60万キロワット)を持っており、ロシアからの電力輸入が実現すれば、この施設を使って本州に電力を供給できる。

 Jパワーの時価総額はおよそ4000億円。英ボーダフォンの携帯事業買収に1兆7500億円を投じたこともあるソフトバンクにとってさほどの問題ではなかったが、後に急浮上したスプリントの買収を優先したようだ。

 現時点ではエネルギー分野での大型買収は様子見という。もっともJパワーは大間原発を建設中。「脱原発」の孫が原発運営に手を出すわけにはいかないので、仮に買収しても大間原発を抱えるのは難しいだろう。

■「業界風雲児」の破壊力に期待感も

 「10年前にモデムを街頭で無料配布してADSLを普及させたように、スマートメーターを無料で配ってみたらどうだろう」

 「ソフトバンクの通信サービスを利用しているユーザーに割安な電力を供給する『セット販売』で顧客を増やす方法はどうか」

 最近のソフトバンク社内では電力事業拡大策を巡って、活発な議論が交わされているという。通信業界で様々な規制を突き破り、価格破壊を実現したソフトバンク。その剛腕ぶりから「アジアを送電網で結ぶ構想を掲げるソフトバンクが電力に本格参入すれば競争が活発になり、エネルギー安保にもプラス」(シンクタンク研究員)との期待も一部にはある。

 発送電分離方針が決まった後も電力改革に抵抗し、自己変革の姿勢を示さない電力業界。強固な結界を破り、電力市場の競争を活発にするには「業界風雲児」のソフトバンクの本格参入はうってつけかもしれない。だが、ソフトバンクにとって「脱再生エネ」の説明責任は相当に重いだろう。

=敬称略

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