従業員に「経営者目線を持て」という謎の要求

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従業員に「経営者目線を持て」という謎の要求

日本の会社には、奇妙な風習が多すぎる。そんな主張で一躍、月間50万PVの大人気になったブログがある――それが、「脱社畜ブログ」だ。

この連載では、「脱社畜ブログ」管理人で、書籍『あ、「やりがい」とかいらないんで、とりあえず残業代ください。』を刊行予定の筆者が、日本の会社の奇妙な風習を正面からぶった切っていく。第2回目は、ビジネス書などでよく言われる「従業員は経営者目線を持て」という言葉の意味について、冷静に考えてみたい。

こんにちは。「脱社畜ブログ」管理人の日野瑛太郎です。

日本の会社で働いていると、上司や先輩から「経営者目線を持って仕事をしろ」と言われることがあります。経営者自ら、全社員に「経営者目線を持て」と呼びかけることも少なくありません。

このように、日本の会社では社員が「経営者目線」を持つことは、とても重要なことと考えられています。「経営者目線」を持たない目線が低い社員は、日本の会社では基本的にダメ社員のレッテルを張られてしまいます。

でも、これって実はおかしくはないでしょうか。

単なる雇われにすぎない一従業員が、「経営者目線」を持って仕事をしなければならない理由って、何なのでしょうか。雇われは雇われとして、自分の仕事を淡々とこなすという姿勢では、なぜいけないのでしょうか。

今日は、そんな「経営者目線」について、少し考えてみたいと思います。

■給料は安いほどいいし残業代も払われないほうがいい?

では試しに、実際に「経営者目線」に立って、いくつか物事を考えてみましょう。

仮に、あなたが働きに見合わないぐらい安い給料しか会社からもらっていなかったとします。これは社員の立場から考えれば、「ふざけるな」という話になりますが、経営者の立場では、社員に払う給料の額は少なければ少ないほどいいということになります。

そこで、「経営者目線」で考えると、薄給でも我慢して働くべきという結論になります。間違っても、給料を上げろなどと言ってはいけません。

次に、残業代も会社から払われず、連日サービス残業を強いられているとします。これも社員の立場から考えれば、直ちに労基署に駆け込むなり弁護士に相談するなりして、残業代を取り返すという話になると思うのですが、経営者の立場では残業代はなるべく払いたくないということになります。

そこで、「経営者目線」で考えると、我慢してサービス残業をするべきという結論になります。

ほかにも、有給休暇だって取得しないほうが会社としたらうれしいでしょうし、休日出勤だってガンガンしてほしいということになるでしょう。

このように、「経営者目線」を強調しすぎると、労働者にとって利益になることは、ことごとく否定されてしまいます。

ある部分において、経営者の利益と従業員の利益は、明確に対立しています。それなのに、従業員に対して「経営者目線」を持てと言うことは、利益を放棄しろと言っているのと同じことです。

そうやって過度に「経営者目線」を持った結果、待っているのは、「社畜」として会社の都合のいいように働かされてしまう未来です。

■「経営者目線」で働いても、給料は「従業員」

忘れてはならないのは、どんなに「経営者目線」を持って働いたところで、しょせん雇われは雇われにすぎないということです。

経営者顔負けの仕事をして、会社に莫大な利益をもたらしたとしても、もらえる給料はあくまで「従業員」としてのものです。少しぐらいは給料がアップしたり、昇進したりすることはあるかもしれませんが、それでも経営者が得るのと同じぐらい莫大なおカネを手にすることはできません。

これは、ものすごくアホらしいことではないでしょうか。こんなまともな見返りもない状況で、「経営者目線」を持って働いても、自分が得することはありません。

また、従業員が「経営者目線」を持って仕事をしなければならないとしたら、本当の経営者はいったい何の仕事をするのでしょうか。

会社の立場で物事を考え、意思決定をするのは、経営者の仕事のはずです。それを雇われにすぎない従業員に求めるというのは、ある意味で経営者の「甘え」とも言えるのではないでしょうか。

■経営者目線の真の意味

日頃から社員に「経営者目線を持て」と言っている経営者であっても、社員が本当に経営者のように振る舞い始めたら、それはそれで困るはずです。

たとえば、経営者目線を持った社員が経営戦略を自ら考えて、社長に直訴しに行っても、普通は相手にしてもらえないでしょう。「お前は黙って自分の仕事をやっておけ」と、言われてしまうかもしれません。経営者がするような意思決定を現場の従業員が勝手にし始めたら、大騒ぎになるでしょう。

どんなに「経営者目線を持って仕事をしろ」と言ったところで、結局は「言われたとおりの仕事をするしかない」という、従業員としての側面は残っているのです。

結局、日本の会社で求められる「経営者目線」というのは、会社にとって都合がいい精神論でしかありません。

「今は会社の業績がよくないから、残業代が出ないのも仕方がない。それが会社のためだ」というような「経営者目線」を持つことは大歓迎ですが、具体的な経営戦略の範囲まで社員が口出しするようなことは、求められていないのです。

だいぶご都合主義的な経営者目線だということです。

■「従業員目線」を持ち続けよう

会社員に本当に必要なのは、「経営者目線」ではなく、「従業員目線」だと僕は思っています。

日本の会社では、何かと「経営者目線」を要求されることが多いので、気がつくと自分が「雇われ」であるということを忘れてしまいがちです。仕事にコミットすればするほど、ついつい会社の利益のことばかり考えてしまいます。

しかし、会社員は、会社に労務を提供して、その見返りとして給料を受け取るという関係であるにすぎません。いくら会社の利益になるからといって、自分の給料に見合わない働きを強制されることはおかしいのです。

どこかで「あくまで自分は雇われ」という気持ちで線引きをしておかないと、どこまでもどこまでも会社にコミットしてしまい、気づくと取り返しがつかないぐらいすり減ってしまうかもしれません。

会社の業績に一喜一憂し、私生活を投げ打って仕事をすべきなのは経営者であって、従業員ではありません。もちろん、「雇われ」としての仕事すらきちんとこなさないというのであれば、批難されても仕方がないですが、給料分の働きさえしていれば、文句を言われる筋合いはないのです。

難しいことは経営者の方々に考えてもらって、給料分働いたら、さっさと家に帰ろうではありませんか。

■「経営者目線を持て」と言われてしまったら

心の中では「従業員目線」を常に忘れずに持ち続けることにしたとしても、現実に「経営者目線を持って仕事をしろ」という圧力自体はかかり続けるかもしれません。

そういうときは、とりあえず「経営者目線を持っているフリ」だけしておいて、適当に話を合わせておくのが得策です。本当に心から経営者目線を持つ必要はありません。

そこで最後は、経営者目線を持っているフリをするためのコツを伝授しましょう。実はこれは、そんなに難しくありません。

経営者が言っていることを、自分もそのまま同じように言えばいいのです。

たとえば、社長が「人材の育成が大きな課題だ」と、日頃、言っているのであれば、自分も「我が社は、人材の育成にもっと力を入れなければならないと思います」と、同じ内容の発言をすればいいのです。それだけで、自分も「経営者目線」を持ったことになります。

間違っても、自分のアタマで考えてはいけません。それで経営者と正反対のことを言えば、「もっとよく考えろ」と注意されてしまいます。会社で現実に求められる「経営者目線」というのは、結局は「経営者の方針に賛成する」ということです。経営者と同じことを言っておけば、怒られることはまずありません。

そうやって適当に理念だけ賛成しておいて、実際には従業員として行動すればいいのです。

「人材育成の必要性については、私も日頃からよく考えているので、可能であれば私もそのミーティングに参加したいのですが、今日はどうしても外せない予定がありまして……残念です」

と、会社を憂うフリをすることで、逆に帰りやすくなる。そんなことも、あるかもしれません。