« 2014年1月 | トップページ | 2014年3月 »

2014年2月

お風呂で溺死の危険も? マラソン後の危ない入浴とは

お風呂で溺死の危険も? マラソン後の危ない入浴とは

 健康のために始めたマラソンなのに、無理するとケガや病気の原因になることも。ランニングを心から楽しむためには、正しい知識と事前の準備が欠かせない。

 マラソンで25キロ以上走ったときに発症する可能性の高い疾患や異常を調べてみた。脱水症状や振動性胃腸障害、腱や関節などの損傷、皮膚や爪の擦過傷など、筋肉の外傷から内科系疾患までさまざまだ。原因は、長時間の運動による体力の消耗や疲労のほか、4万~5万歩、ジャンプ運動する衝撃だ。背骨が圧迫され、走る前より身長が1~2センチ縮み、首の痛みや腰痛が起きることも。胃腸が揺らされ、傷ついて出血したり、振動で腸内にガスが溜まって左脇腹が痛くなったりもする。運動中は筋肉に血流がいくため、腎臓や膵臓などが機能障害を起こすことも。足裏の毛細血管内の赤血球が壊れ、スポーツ貧血を起こす場合もある。

 レース後も危ない。賀来医師は、完走後の入浴に注意が必要と指摘する。フルマラソン後、多くの人は脱水症状にあり、そのまま入浴すると血管が拡張して脳や心臓への血流が減る。意識を失って溺死したり、水圧も加わって心臓への負担が増し、心筋梗塞を起こしたりするのだ。

 ここまでフルマラソンの過酷さや恐ろしさを書いてきたが、適切なトレーニングやメディカルチェックを受けて万全の状態で臨めば、健康効果を期待できる。

 体力アップやダイエットだけでなく、心肺機能や臓器が強化されるのだ。では、適切なトレーニングとはどの程度なのか。

「人にもよりますが、ぐったりして次の日に疲労が残るほどの運動は体への負担が大きい。健康効果が期待できるのは、心拍数は安静時の2~2.5倍程度、120~180程度が目安です」(賀来医師)

| | コメント (0)

日本の管理職、年収「割安」 中国・タイを下回る

日本の管理職、年収「割安」 中国・タイを下回る

 日本企業の管理職の年収が海外に比べて「割安」になってきた。新興国の賃金が上昇、為替の円安傾向もあって相対的な水準が下がっている。民間調査では部長級の年収は中国より低いとの結果も出た。事業のグローバル化で日本企業の外国人採用は増えるとみられるものの、管理職の賃金水準の低さは優秀な人材確保への障害になりかねない。

本部長級は大差

 72万6千元(約1200万円)。石油大手、中国石油天然気集団の管理職の平均年収だ。低人件費を原動力に「世界の工場」となった中国だが、管理職の年収は意外に高い。北京師範大学の調べでは、中国上場企業の部長以上の高級管理職の平均年収は2012年に63万6100元(約1050万円)。一般的な都市住民の平均可処分所得の25倍に達する。しかも08年から2割も伸びた。

 世界に9000社の顧客を持つ人事コンサル大手の米ヘイコンサルティンググループは各国の役職階級別の年収(基本給、年間一時金、手当)を調査し、日本の課長級を1として指数化した。これによると日本の部長級は1.36なのに対し中国は1.64。本部長・事業部長級では1.68対2.57とさらに差が開くことが分かった。

 中国だけではない。タイも課長級では0.49と日本の半分だが、部長級では1.35とほぼ同等の水準になり、2.24にまで伸びる本部長級で日本を大きく逆転する。日本は米国やドイツと比べても、部長級から差をつけられている。指数は年収水準の額面を比較しており、物価の違いなどは考慮していない。

円安基調も響く

 為替の円安基調も日本の管理職年収を目減りさせている。ヘイグループの調査は13年時点の年収を1ドル=102円で計算した。1ドル=83円で算出した12年の調査では、本部長級でも中国企業より日本企業の年収が上回っていた。

 調査は肩書の名称ではなく、仕事の権限などから日本の「課長」「部長」などに相当する役割の社員を抽出し比較した。国によって各役職階級の人員構成などには違いがある。

| | コメント (0)

世界遺産は期限付き? 富士山に課された2年の宿題

世界遺産は期限付き? 富士山に課された2年の宿題

世界遺産に登録された富士山

世界遺産に登録された富士山

 昨年6月、世界文化遺産に登録された富士山。それから半年以上が過ぎたが、地元関係者は対応策に追われている。環境対策の宿題が課されており、怠ると登録が取り消される可能性もあるからだ。提出期限は2016年2月1日で、2年を切った。ただ、対策をどこまで求めているかは不明確で、山梨県は手探りの対応を続けている状態だ。

世界遺産登録抹消は2件

 宿題を課したのは、イコモス(ICOMOS)。一般には聞き慣れない団体だが、世界遺産の関係者にはよく知られている。「International Council on Monuments and Sites」の頭文字をとった略称で、国際記念物遺跡会議と訳される。ユネスコに代わって世界遺産に値するかどうかを実質的に審査する非政府組織(NGO)で、世界遺産登録を目指す場合に最大の関門になる重要な役割を担う機関だ。

 富士山の場合、世界遺産登録で関係者の仕事は終わりではなかった。昨年4月30日にイコモスが富士山の世界文化遺産登録を適当と勧告したため、世界遺産登録が事実上決まり、日本中が沸き立った。その陰で他の世界遺産にはない注文がついた。富士山の様々な環境問題を指摘し、2016年2月1日までに「保全状況報告書」という環境保全策を提出せよというのだ。

 富士山のように保全状況報告書の提出を求められるのは異例。文化庁世界文化遺産室は「世界遺産登録後に何らかの問題が生じて、報告書を求められることはあるが、富士山のように登録時点で報告書を求められたケースは他に知らない。半ば、条件付き登録のようなもの」と説明する。

 海外を見ると、実際に世界遺産の登録が取り消されたことがある。ドイツのドレスデン・エルベ渓谷は渓谷の中心部に橋を架けたため、09年に取り消された。07年にはオマーンがアラビアオリックスの保護区の登録取り消しを申し出て認められた。石油資源開発を優先させたためとみられる。

 山梨県の横内正明知事は「世界遺産の登録取り消しは理論的にはありうる。しかし、ドイツのエルベ渓谷の架橋のように世界遺産の根本的価値が失われた際には取り消しになるのであって、富士山では考えられない」とみているが、「勧告へいいかげんに対応するとまずい」と警戒する。また、環境対策は重要だが、観光産業への打撃も懸念され、世界遺産の代償として両刃の剣になる可能性もある。

 ただ、イコモスの勧告は「えらく難しい文章で、一回読んでもわからない」(横内知事)。和訳でA4判23ページにわたる勧告は数々の課題を指摘しているが、「もともと学術的な文章で、何をどこまでやればよいというものを示していない」(文化庁文化財部)という中身だ。環境対策を実践する立場にある山梨県と静岡県は1月22日、この勧告の文章から課題を抜き出した。

ポイントは登山絡み

富士山の登山者

富士山の登山者

 焦点となるのは登山絡みの対策だ。勧告は「来訪者(登山者)の増加は、斜面の流亡に関連して相当の問題を引き起こしている」と指摘。登山者の受け入れ能力の研究のほか、登山道や登山道を落石から守る防護壁、山小屋、山小屋に物資を運搬するトラクター(ブルドーザー)が通る道(ブル道)の改善、5合目の売店など建物群のデザイン改善を求めた。課題は山積だ。

 勧告後に山梨県が踏み込んだのがマイカー規制だ。勧告も「自動車・バスからの排ガスが懸念されている」と指摘しているが、マイカー規制の狙いは自動車対策よりむしろ登山者の抑制効果といっていい。世界遺産登録で増えると見込まれた昨年7~8月の登山者は山梨側でマイカー規制を一昨年の15日から31日へと倍増させたため、5%強減の約23万人(6合目通過人数)になったからだ。入山料は山梨県側で7月1日から9月14日まで1000円を徴収することが決まったが、登山者削減ではなく安全対策が目的。1000円では削減効果は弱い。

富士山入山料は1000円。取材に応じる(左から)山梨・横内正明、静岡・川勝平太の両県知事(共同)

富士山入山料は1000円。取材に応じる(左から)山梨・横内正明、静岡・川勝平太の両県知事(共同)

 昨年12月20日のマイカー規制を決める地元関係者を集めた会議で山梨県は強行策に出た。富士山関連の会議では他に例のないマスコミシャットアウトを実施。観光施設が集中する富士河口湖町、鳴沢村が観光客減を懸念して反対するのを押し切り、昨年の31日よりも22日多い7月10日~8月31日の53日間という史上最長のマイカー規制を決めた。和をもって貴しとする山梨県にはなかった事態だ。

 入山料の議論の際には「関係者の意見をよく聞いて」が口癖だった横内知事の口から、マイカー規制について同じ言葉は聞かれなかった。横内知事は「賛否は分かれていたが、マイカー規制はどこかで決めざるをえなかった」と話す。マイカー規制は山梨県道路公社が経営する5合目と麓を結ぶ有料道路、富士スバルラインで実施される。マイカーが減って年間8000万円の減収が見込まれ、「道路公社がつぶれてしまう」(県土整備部)のを防ぐため、県は乗客が増えて増収になるバスの通行料金を4月1日から4割上げて吸収する。ただ、静岡側では5合目に行く道路は無料のため、山梨県はバスが静岡側にシフトしてしまうのを懸念しており、こうしたリスクを抱えての決断だ。

マイカー規制は両刃の剣か

デザインに統一感が無い富士山5合目(山梨側)の建物

デザインに統一感が無い富士山5合目(山梨側)の建物

 山梨側の7~8月の登山者は2010年の26万人に比べ約3万人減った計算になるが、横内知事は「昨年並みの23万人なら大丈夫。それよりも1万~2万人少ない21万~23万人ぐらいが許容範囲」とみる。ただ、マイカー規制という中核のイコモス対策は観光産業に打撃を与える可能性が大きい。

 渡邊凱保・富士河口湖町長は「マイカー規制の影響は昨年8月に既に出ている」と地元の観光業への影響を懸念する。昨年8月は24日間のマイカー規制が実施され、一昨年より倍増した。温泉施設の利用者が支払う同町の入湯税は8月に7%減った。世界遺産登録が事実上決まった後の5~10月全体は3.3%増だっただけに、観光のピークとなる8月の落ち込みは気がかり。今年8月は全日マイカー規制がかかる。5合目の売店の関係者も「昨年は8月が減収。お盆が特に減った。マイカー規制の影響が心配」と語り、影響はかなり大きそうだ。

 今後、イコモス勧告への対応はどうなっていくのか。これまでイコモスと接触して勧告の説明を求めたり、意向を確認したことはない。「何も無いのではイコモスに打診のしようがないが、対応案が固まった段階で、イコモスとの事前調整は必要かもしれない」と文化庁文化財部は考える。

 山梨県は5合目の売店などの建物群のデザイン改善に向け、リフォームへの補助を検討している。マイカー規制のほか、景観に配慮して大規模な太陽光発電の規制にも乗り出す。富士五湖でのモーターボート抑制に向け、利用届け出を1回限りから毎年提出に切り替える。一方、他の山には見られない山小屋に物資を運ぶトラクターは急病人の運搬などの機能を重視して規制しない方針。登山道を守る防護壁への対応もこれからだ。山梨県が見込む登山者21万~23万人規模をイコモスがどう見るかなど不確定要素は多い。2016年2月1日でイコモスの呪縛が解けるか予断を許さない。(甲府支局長 清水英徳)

| | コメント (0)

日本の不都合な真実、目隠ししたのは誰か

日本の不都合な真実、目隠ししたのは誰か

 グローバルに市場が荒れ模様になるなか、投資家のアンカー(いかり)になった資産がある。米独そして日本の国債である。ならば国債への志向は盤石なのだろうか。

グローバル市場の混乱
13年5月~ 14年1月~
引き金バーナンキFRB議長の量的緩和縮小示唆 米景気指標の振れ、アルゼンチンの通貨不安
中国経済の減速、「影の銀行」 中国経済の減速、「影の銀行」問題
新興国経常赤字国でトリプル安 経常赤字国の通貨安に選別色
米  国株安、長期金利上昇 株安、資金逃避で長期金利低下
日  本株安、長期金利上昇、円反発 株安、長期金利低下、円反発
幕引き米の緩和時期先送り(市場配慮) 米景気の底堅さ確認(?)

 10年物米国債を例にとれば、1月の米連邦公開市場委員会(FOMC)が金融の量的緩和の規模縮小を続けると決めたにもかかわらず、利回りは一時2.5%台に低下(相場は上昇)した。

 新興国ばかりでなく米国株も荒れるなか、米国債が投資資金の受け皿になった。市場が落ち着きを取り戻せば、国債を避難所としていた資金も離れ、利回りもいくぶん上昇するだろう。

 それでも、投資家のリスク許容度が低下したので、安全資産である米国債を粗末にすることはあるまい。この点が、債券を起点としてグローバルな市場波乱が起きた昨年5~6月との違いである。

 日本の場合も、10年物国債の利回りが0.6%まで低下した。外国人投資家が株式を売った資金で、国債を購入した。安全資産としての国債に、マネーが流れ込んだ。ここまでは米国と同じだが、日本経済の対外環境をみると、改めて気がかりな事実が浮かび上がる。

 経常赤字の穴埋め問題だ。日本の経常収支は昨年10月以降、赤字となっている。貿易赤字の拡大が主因で、2013年の貿易赤字額は11.4兆円と前年比65%増えた。

 今年は1月上中旬の貿易赤字がすでに2兆円に乗せ、前年同期比71%増となっている。今年1月の経常収支が赤字となり、赤字幅も昨年1月の3000億円強を上回るのは必至である。

 経常収支は国内の貯蓄投資バランスに一致するので、経常赤字になれば海外からの資本流入で埋め合わせるほかない。昨年は1年間で15兆円を超えた外国人投資家の日本株買い越しが、その役目を果たした。

 ところが今年に入りその流れが逆転した。外国勢は1月に日本株を1兆円売り越したのである。その結果、日本株が値崩れした。だが、より深刻な事態は株式投資以外の資金流入も途絶え、経常赤字の穴埋めが出来なくなることだ。

 今のところ、その事態は取り越し苦労で済んでいる。外国勢は日本株を売る一方で、中長期債の買い越しに転じたからだ。加えて、新興国通貨を売った資金が日本の短期債へと流れ込んだ。外国勢による短期債の買越額は、1月には4.5兆円にのぼった。

 これだけの短期資金が入ってくれば、円高になるのは避けられない。案の定、円相場は1ドル=100円突破をうかがう勢いをみせたが、その半面で経常赤字の資金繰りがついたのだから、文句をいえた義理ではない。

 グローバルな金融不安が一段落すれば、こうした短期資金は潮が引くように去って行く。すると、経常赤字という「不都合な真実」だけが残る。

 (1)貿易赤字を減らし経常収支を黒字にするよう努める(2)外国勢の対日投資をつなぎ留めるべく政府と企業が努力を重ねる。官民問わず直面しているのはこの課題である。

 新興国の問題点をあげつらう、上から目線の解説はもういい。今の日本は財政と経常収支の「双子の赤字」に直面している。そのことを忘れてはならない。

| | コメント (0)

外資系ホテル、開業ラッシュ 訪日客増え地方展開 国内勢との競合激化も

外資系ホテル、開業ラッシュ 訪日客増え地方展開
国内勢との競合激化も

 外資系高級ホテルの新規開業が相次ぐ。米マリオット・インターナショナルは2014年、京都市などで4軒の開業を計画。シンガポールを本拠とする高級リゾートホテルのアマンリゾーツグループも今年以降、日本で複数のホテルを展開する予定だ。各社は訪日外国人の増加などを背景に、日本での宿泊需要はさらに伸びるとみる。東京だけでなく地方への進出意欲も増しており、国内勢との競合も激しさを増しそうだ。

開業したザ・リッツ・カールトン京都のレストラン(京都市)=共同

開業したザ・リッツ・カールトン京都のレストラン(京都市)=共同

 米マリオットは7日、京都市にザ・リッツ・カールトン京都を開業した。客室は134室で、和の雰囲気を前面に出した。同社は3月には大阪マリオット都ホテル(大阪市)も開く。年間4軒の開業は日本進出後の最多となる。米ヒルトン・ワールドワイドは7月に沖縄県内で2軒目となるヒルトン沖縄北谷(北谷町)を開くほか、16年にも金武町に3軒目を開く。

 部屋数を抑えた小規模リゾートを東南アジアなどで展開し、人気の高いアマンリゾーツも年内開業予定のアマン東京(東京・千代田)に続き、15年秋には京都市への進出を計画。米ハイアット・ホテルズ・アンド・リゾーツは今夏、日本初登場となるホテルブランド「アンダーズ」を東京都港区で開業する予定だ。

 外資系の大手ホテルチェーンは数千万人規模の顧客基盤があり、高い集客力を持つ。地方の国内資本のホテルでは、外資系ブランドに転換して外国人などを取り込もうという動きも広がる。英インターコンチネンタル・ホテルズ・グループは傘下企業を通じて今春から、金沢市の金沢スカイホテルの運営を受託。15年春の北陸新幹線の金沢―長野間の開通を控え、ブランドを「ホリデイ・イン」に変更する。

 13年の訪日外国人は過去最高の1036万人となった。政府は東京五輪が開催される20年には2000万人まで伸ばしたい考えで、外資系ホテルの関係者も「日本市場は長期的にも成長が見込める」(米マリオット)と期待する。

 国内景気の回復に外国人による押し上げ効果が加わり、東京都心の主要ホテルの13年の平均客室稼働率はバブル期の1991年を2ポイント強上回る84.8%に達した。外資系の新設ラッシュが続いても「当面はホテルの客室単価に影響が出ることはない」(ホテル業界に詳しい米不動産サービス、ジョーンズラングラサールの沢柳知彦執行役員)とみる関係者は多い。

 ホテル業界では、今回はパークハイアット東京(東京・新宿)などが開業した92~94年、マンダリンオリエンタル東京(東京・中央)などがオープンした05~07年に続く3回目の外資系ラッシュとされている。過去2回が東京都心への進出が大半だったのに対して、今回は展開が全国に広がっている。

| | コメント (0)

ITで攻めるJAL 機内ネット「一石三鳥」戦略

ITで攻めるJAL 機内ネット「一石三鳥」戦略

 日本航空(JAL)がIT(情報技術)の力を借りて、飛行機内のサービス向上を急ピッチで進めている。7月から国内線でも機内インターネットサービスを開始。単にネットにつなぐ「土管」としてだけでなく、全国各地の観光案内やオリジナル動画を流したりショップの割引クーポンを届けたりする。乗客が持つスマートフォン(スマホ)を接点にした高付加価値戦略を打ち出し、「機内の過ごし方の多様化」「乗客数の増加」「各地の観光産業との連携強化」をまとめて実現しようというわけだ。いわば「一石三鳥」を目指すJAL。格安航空会社(LCC)などとの激烈な航空戦争の中、新機軸で勝負に出る。

■「つながないが、つながる安心感」で乗客増狙う

乗客はスマホやタブレットを機内で使い、ネット接続や動画、観光情報の閲覧が可能になる(1月30日、東京・港)=日本航空提供

乗客はスマホやタブレットを機内で使い、ネット接続や動画、観光情報の閲覧が可能になる(1月30日、東京・港)=日本航空提供

 「今までの常識にとらわれず、JALは新しい空の過ごし方を提案していきたい」。1月30日、都内のホテルでネット接続を含む機内サービスの向上策を発表した植木義晴社長はこう宣言した。

 ボーイング777型機や同767型機、同737-800型機など中~大型機のほぼ全機で、普通席の座席を刷新。全席を本革張りとするほか、背もたれを薄くして自席と前席との間隔を5センチ広げる。体が滑らない工夫も施すきめの細かい配慮もある。ファーストクラスも、羽田-伊丹などの幹線で使われる767で搭載機を増やす。

 JALが新座席とともに、次世代の機内サービスの柱と位置付けるのが、国内線初となる機内ネットだ。乗客は無線LAN(構内情報通信網)でスマホやタブレット(多機能携帯端末)をネットにつなぐことができる。導入にあたって機外にアンテナを設け、人工衛星を介して地上と接続できるようにする。通信速度は最大で毎秒20メガビット(メガは100万)だが、機内の利用者全員で共有するので実際のスピードはもう少し遅くなる。

 料金は飛行距離により異なり、スマホは1フライトあたり500~700円、パソコンは同500~1200円。30分400円の時間制メニューも用意し、短時間だけ使えれば十分という乗客のニーズにも応える。

 JALは2012年7月から、北米線や欧州線などの長距離国際線で機内ネットサービスを展開している。1フライト当たりの利用者数は20人程度という。座席数が250弱であることを踏まえると少ないが、事業の企画を担当した末崎裕介マネジャーは「十二分に投資回収できている」と言い切る。実際に使う機会がなかったとしても「使わざるをえない状況になったとき、すぐにつながる安心感が重要。JALを選ぶ動機になっている」(末崎マネジャー)と、乗客数増加に寄与しているとみる。

 国際線での手応えを得て国内線への展開を検討し始めた際、熱心に売り込んできた会社があった。米国内線の機内ネット向けシステムで最大手の米ゴーゴーだ。彼らのうたい文句は「ネット接続だけでなく動画配信機能も用意する」というものだった。

■国内線初の機内ネット、短距離に合う娯楽提供

新しい普通席は、前席との間隔が5センチ拡大。本革を採用した上で、滑りにくい工夫も施した(1月30日、東京・港)=日本航空提供

新しい普通席は、前席との間隔が5センチ拡大。本革を採用した上で、滑りにくい工夫も施した(1月30日、東京・港)=日本航空提供

 国際線の場合、各座席に個人用テレビを備え映画やゲームを提供するのが標準的だ。一方で国内線は、スターフライヤーを除き個人用テレビは非搭載。機内エンターテインメントといえば音楽と機内誌、大画面スクリーンでの番組上映程度だった。

 個人用テレビ付きの座席を装着すると、重量増に伴って燃費が悪化し、設置・保守コストも上昇する。短距離ゆえに映画も上映できず、費用対効果も期待できない。JALも当初はそう考えていた。

 ただゴーゴーの売り込みに耳を傾けるうち、「動画配信ができれば機内の過ごし方の選択肢を増やせるし、(仕事でやむなく使うビジネスパーソン以外にも)機内ネットの利用者の裾野を広げられる」(末崎マネジャー)と判断。国際線ではパナソニック米子会社のシステムを使っていたが、国内線ではゴーゴーに白羽の矢を立てた。

 新サービスでは機内にコンテンツ配信サーバーを設置。機内エンタメ用に数十分の番組を独自に制作し、スポーツやグルメ、音楽、アニメなどの計10作品程度を用意する。一部有料のものもあるが大半は無料だ。

 末崎マネジャーらのチームは、動画配信だけで発想を止めなかった。「このシステムで、JALらしい独自サービスを作れないか」。そこで思いついたのが、従来は小冊子で作っていた観光案内をウェブページとして機内サーバーから配信し、スマホで乗客に閲覧してもらおうという案だ。JAL便の運航している全国各地の観光地や遊園地、レストラン、温泉、土産物店を紹介。たびたび更新して季節ごとのイベント情報も届ける。店舗の紹介ページでは割引クーポンを入手できようにし、メールで乗客がスマホへ転送する工夫も設けた。

 従来は夏季の沖縄線など観光需要が大きい便で、キャンペーンとして割引クーポン付きの小冊子を配布していた。しかし紙の冊子は製本代や汚損ロスがあり配布の手間もかかる。ウェブページとしてスマホへ配信すれば、各便の目的地にかかわらず全国各地の情報を見てもらえるし、配布のコストや手間もかからない。

 もちろん持ち帰れる小冊子と違って、機内でしか見られないデメリットもある。そこで考え出したのが、機内サーバーから衛星回線を使ってメールでクーポンを配布する仕組みだ。乗客が普段使うメールアドレスへクーポンを届けることで「飛行機を降りた後に、高い確率で読み返して店舗を訪れてもらえる」(末崎マネジャー)。クーポンを提供した広告主としても、集客に結びつく機会が高まる。

 ウェブサイトの編集は観光ガイド「るるぶ」シリーズで知られるJTBパブリッシングに委託した。ゴーゴーとは、機内サーバーで動画以外のコンテンツも配信できるよう共同で機能拡張に取り組んだ。

 JALは東日本大震災の後に「東北応援プロジェクト」を立ち上げ、東北各地の観光地の紹介やパックツアーの企画をするなど、各地の観光産業との連携に熱心に取り組んでいる。スマホによるクーポン配布という機能を活用し、これまで接点の少なかった各地の自治体や観光産業との結びつきを強化したい考えだ。

■77機を一気に改装、なるか「一石三鳥」

 JALは会社更生法の申請前後の数年間、不採算路線からの撤退と燃費の悪い機材の退役に追われ、座席への投資が滞っていた。1000円の追加料金で座れる上級席「クラスJ」で差異化を図っているものの、全日本空輸(ANA)はJALを横目に最新鋭のボーイング787型機を大量に就航させ、機内の快適さを一気に高めた。

 新興航空会社のスカイマークも1機丸ごとクラスJ相当の機材を投入。乗客を奪い合ってきた鉄道でも、東日本旅客鉄道(JR東日本)が東北新幹線で最上級席「グランクラス」を新設している。うかうかしてられない状況だけに、JALが今回の機内サービスの向上策に懸ける思いは強い。5月から15年度にかけて、77機もの機体を一挙に改装しネットなど機内の娯楽を武器に巻き返しを図る。

 7月から提供する機内ネットは、直後に始まる観光需要の高い夏休みシーズンにいきなり消費者の厳しい目にさらされる。一石三鳥戦略は吉と出るか凶と出るか。植木社長の唱える「新しい空の過ごし方」の真価がさっそく問われることになる。

| | コメント (0)

« 2014年1月 | トップページ | 2014年3月 »