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ITで攻めるJAL 機内ネット「一石三鳥」戦略

ITで攻めるJAL 機内ネット「一石三鳥」戦略

 日本航空(JAL)がIT(情報技術)の力を借りて、飛行機内のサービス向上を急ピッチで進めている。7月から国内線でも機内インターネットサービスを開始。単にネットにつなぐ「土管」としてだけでなく、全国各地の観光案内やオリジナル動画を流したりショップの割引クーポンを届けたりする。乗客が持つスマートフォン(スマホ)を接点にした高付加価値戦略を打ち出し、「機内の過ごし方の多様化」「乗客数の増加」「各地の観光産業との連携強化」をまとめて実現しようというわけだ。いわば「一石三鳥」を目指すJAL。格安航空会社(LCC)などとの激烈な航空戦争の中、新機軸で勝負に出る。

■「つながないが、つながる安心感」で乗客増狙う

乗客はスマホやタブレットを機内で使い、ネット接続や動画、観光情報の閲覧が可能になる(1月30日、東京・港)=日本航空提供

乗客はスマホやタブレットを機内で使い、ネット接続や動画、観光情報の閲覧が可能になる(1月30日、東京・港)=日本航空提供

 「今までの常識にとらわれず、JALは新しい空の過ごし方を提案していきたい」。1月30日、都内のホテルでネット接続を含む機内サービスの向上策を発表した植木義晴社長はこう宣言した。

 ボーイング777型機や同767型機、同737-800型機など中~大型機のほぼ全機で、普通席の座席を刷新。全席を本革張りとするほか、背もたれを薄くして自席と前席との間隔を5センチ広げる。体が滑らない工夫も施すきめの細かい配慮もある。ファーストクラスも、羽田-伊丹などの幹線で使われる767で搭載機を増やす。

 JALが新座席とともに、次世代の機内サービスの柱と位置付けるのが、国内線初となる機内ネットだ。乗客は無線LAN(構内情報通信網)でスマホやタブレット(多機能携帯端末)をネットにつなぐことができる。導入にあたって機外にアンテナを設け、人工衛星を介して地上と接続できるようにする。通信速度は最大で毎秒20メガビット(メガは100万)だが、機内の利用者全員で共有するので実際のスピードはもう少し遅くなる。

 料金は飛行距離により異なり、スマホは1フライトあたり500~700円、パソコンは同500~1200円。30分400円の時間制メニューも用意し、短時間だけ使えれば十分という乗客のニーズにも応える。

 JALは2012年7月から、北米線や欧州線などの長距離国際線で機内ネットサービスを展開している。1フライト当たりの利用者数は20人程度という。座席数が250弱であることを踏まえると少ないが、事業の企画を担当した末崎裕介マネジャーは「十二分に投資回収できている」と言い切る。実際に使う機会がなかったとしても「使わざるをえない状況になったとき、すぐにつながる安心感が重要。JALを選ぶ動機になっている」(末崎マネジャー)と、乗客数増加に寄与しているとみる。

 国際線での手応えを得て国内線への展開を検討し始めた際、熱心に売り込んできた会社があった。米国内線の機内ネット向けシステムで最大手の米ゴーゴーだ。彼らのうたい文句は「ネット接続だけでなく動画配信機能も用意する」というものだった。

■国内線初の機内ネット、短距離に合う娯楽提供

新しい普通席は、前席との間隔が5センチ拡大。本革を採用した上で、滑りにくい工夫も施した(1月30日、東京・港)=日本航空提供

新しい普通席は、前席との間隔が5センチ拡大。本革を採用した上で、滑りにくい工夫も施した(1月30日、東京・港)=日本航空提供

 国際線の場合、各座席に個人用テレビを備え映画やゲームを提供するのが標準的だ。一方で国内線は、スターフライヤーを除き個人用テレビは非搭載。機内エンターテインメントといえば音楽と機内誌、大画面スクリーンでの番組上映程度だった。

 個人用テレビ付きの座席を装着すると、重量増に伴って燃費が悪化し、設置・保守コストも上昇する。短距離ゆえに映画も上映できず、費用対効果も期待できない。JALも当初はそう考えていた。

 ただゴーゴーの売り込みに耳を傾けるうち、「動画配信ができれば機内の過ごし方の選択肢を増やせるし、(仕事でやむなく使うビジネスパーソン以外にも)機内ネットの利用者の裾野を広げられる」(末崎マネジャー)と判断。国際線ではパナソニック米子会社のシステムを使っていたが、国内線ではゴーゴーに白羽の矢を立てた。

 新サービスでは機内にコンテンツ配信サーバーを設置。機内エンタメ用に数十分の番組を独自に制作し、スポーツやグルメ、音楽、アニメなどの計10作品程度を用意する。一部有料のものもあるが大半は無料だ。

 末崎マネジャーらのチームは、動画配信だけで発想を止めなかった。「このシステムで、JALらしい独自サービスを作れないか」。そこで思いついたのが、従来は小冊子で作っていた観光案内をウェブページとして機内サーバーから配信し、スマホで乗客に閲覧してもらおうという案だ。JAL便の運航している全国各地の観光地や遊園地、レストラン、温泉、土産物店を紹介。たびたび更新して季節ごとのイベント情報も届ける。店舗の紹介ページでは割引クーポンを入手できようにし、メールで乗客がスマホへ転送する工夫も設けた。

 従来は夏季の沖縄線など観光需要が大きい便で、キャンペーンとして割引クーポン付きの小冊子を配布していた。しかし紙の冊子は製本代や汚損ロスがあり配布の手間もかかる。ウェブページとしてスマホへ配信すれば、各便の目的地にかかわらず全国各地の情報を見てもらえるし、配布のコストや手間もかからない。

 もちろん持ち帰れる小冊子と違って、機内でしか見られないデメリットもある。そこで考え出したのが、機内サーバーから衛星回線を使ってメールでクーポンを配布する仕組みだ。乗客が普段使うメールアドレスへクーポンを届けることで「飛行機を降りた後に、高い確率で読み返して店舗を訪れてもらえる」(末崎マネジャー)。クーポンを提供した広告主としても、集客に結びつく機会が高まる。

 ウェブサイトの編集は観光ガイド「るるぶ」シリーズで知られるJTBパブリッシングに委託した。ゴーゴーとは、機内サーバーで動画以外のコンテンツも配信できるよう共同で機能拡張に取り組んだ。

 JALは東日本大震災の後に「東北応援プロジェクト」を立ち上げ、東北各地の観光地の紹介やパックツアーの企画をするなど、各地の観光産業との連携に熱心に取り組んでいる。スマホによるクーポン配布という機能を活用し、これまで接点の少なかった各地の自治体や観光産業との結びつきを強化したい考えだ。

■77機を一気に改装、なるか「一石三鳥」

 JALは会社更生法の申請前後の数年間、不採算路線からの撤退と燃費の悪い機材の退役に追われ、座席への投資が滞っていた。1000円の追加料金で座れる上級席「クラスJ」で差異化を図っているものの、全日本空輸(ANA)はJALを横目に最新鋭のボーイング787型機を大量に就航させ、機内の快適さを一気に高めた。

 新興航空会社のスカイマークも1機丸ごとクラスJ相当の機材を投入。乗客を奪い合ってきた鉄道でも、東日本旅客鉄道(JR東日本)が東北新幹線で最上級席「グランクラス」を新設している。うかうかしてられない状況だけに、JALが今回の機内サービスの向上策に懸ける思いは強い。5月から15年度にかけて、77機もの機体を一挙に改装しネットなど機内の娯楽を武器に巻き返しを図る。

 7月から提供する機内ネットは、直後に始まる観光需要の高い夏休みシーズンにいきなり消費者の厳しい目にさらされる。一石三鳥戦略は吉と出るか凶と出るか。植木社長の唱える「新しい空の過ごし方」の真価がさっそく問われることになる。

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