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トヨタの「人づくり」が通じない 新興国の壁 トヨタ自動車

トヨタの「人づくり」が通じない 新興国の壁 トヨタ自動車(下)
ナカニシ自動車産業リサーチ代表 中西孝樹

「1000万台を超える未知の世界で持続的に成長を遂げるためには、人材育成と同じスピードで成長し、身の丈を超える無理な拡大を絶対に避ける『覚悟』が必要」――。5月8日の決算発表で、豊田章男社長のこの発言が印象的でした。屋久島の杉のごとく、「年輪」を重ねるような持続的な成長を人材育成のペースと合わせて目指す考えのようです。

インドでは苦戦(5月、インド・ムンバイのトヨタ販売店)

インドでは苦戦(5月、インド・ムンバイのトヨタ販売店)

 堅実さを肝に銘じた経営方針はトヨタ本来の姿であり、その心構えを、社員を含めステークホルダーに向けて発信することへ異論はありません。ただし、次の成長という高みを目指すことが、組織の活力の維持には不可欠だと考えます。トヨタは国を背負い、様々な社会的要求に応え続ける宿命にあるのであれば、真の競争力に裏付けされた持続的成長を満足いく形で実現せねばならないのです。

■中国、インド苦戦なぜ

 トヨタ自動車がグローバルで成長していくためには、第一に新興国市場で競争力を確立すること。第二に先進・先端技術で競合メーカーを凌駕すること。第三に、お家芸とも言える「ものづくり」の力を維持しつつ、ライバルに勝つコスト力に磨きをかけることが必要だと考えます。この大きなブレークスルーとして2015年に導入されるトヨタ・ニューグローバル・アーキテクチャ(TNGA)と銘打った新しい設計概念に基づくプラットホーム(車台)戦略があります。また、同時に次世代ハイブリッドシステムも導入する計画です。先進国における競争力強化は、これらの次世代技術に磨きをかけることで相応の効果が期待できます。

中西孝樹氏

中西孝樹氏

 ところが、最も高い成長ポテンシャルがある新興国では、トヨタの地位はまだまだ満足のいく姿を示せていません。初めて自動車を購入する人が多くを占める新興国では、低価格の「エントリーカー」分野で競争力ある製品が不可欠で、低コスト生産のノウハウが競争力を左右します。しかし、トヨタは中国、インド、ブラジルといった新興国で成功しているとは言い難い。なぜ、トヨタは出遅れたのか、遅れを取り戻す条件は何なのでしょうか。

 トヨタの新興国ビジネスには、トヨタが得意とする「人づくり」の経営が思ったような成果を生み出せないジレンマがあるようです。トヨタの経営システムの根幹をなす「人づくり」とは、同等の価値観を共有し、「トヨタウェイ」を実践する社員を育成すること。トヨタでは仕事の半分以上が後進教育のための時間とも言われ、どれだけ人を育てたかで出世が決まるとも言われています。この「人づくり」経営は、タイやインドネシアなどの東南アジア、そして米国では見事に強さに結実することができました。特に、20年近くも時間を掛けながらも、米国で高い成功を収めたことにトヨタは大きく自信を深めたと考えられます。

■「親切すぎる」トヨタ

 ところが、中国やインドではなかなか人が定着しない。これはなぜなのか。誤解を恐れずにいえば「トヨタが親切すぎるから」です。トヨタと同等の価値観を共有した現地化を推進するためには、現地社員やマネジャーをしっかり教育する必要があります。トヨタは日本人社員を送り込んで、徹底的に教えこもうとします。

中国では「トヨタウェイ」が浸透しにくい(北京国際モーターショーのトヨタブース、共同)

中国では「トヨタウェイ」が浸透しにくい(北京国際モーターショーのトヨタブース、共同)

 日本なら「面倒見がいい」と好意的に解釈されるでしょうが、例えば中国では「いつも日本人社員が上にいる。風通しが悪く、出世が遅れる」と否定的に見る社員が少なくないのです。割り切って、さっさと現地に任せてしまう独フォルクスワーゲン(VW)などとは対照的です。

 海外の異文化に「トヨタウェイ」を浸透させることは非常に困難で、それは理想論であるのかも知れません。しかし、トヨタは愚直に何年もの時間を掛けながらそれを理解し、会得していく社員を一人でも増やそうと努力をする会社のようです。

 凄まじいスピードで成長し、かつ変化を遂げる新興国市場において、「人づくり」を経営の中核におくグローバル化が成功できるか否か、今後のトヨタを占う上で非常に重要となってきそうです。現実には、トヨタ的な「人づくり」がうまくいかない地域・国というのはあるのかもしれません。その典型は、中国、インドではないでしょうか。

 トヨタは出遅れた国でゼロベースから分け入っていくビジネスが不得意のようにも映ります。アメリカとアジアの成功には、商用車「ハイエース」やピックアップトラックのような根本的な成功体験がありました。そのような成功体験がある国をガンガン攻めるのは得意のようですが、インドのように不得意な市場はなかなか軌道に乗らない。トヨタの経営システムは柔軟性にやや難点があるのかもしれません。

 これを打開し、新興国での競争力を高めるには、グループの軽自動車メーカー、ダイハツ工業を活用するのが有効と考えられます。新興国ビジネスを担当する「第2トヨタ」を率いる伊原保守副社長はダイハツの活用をはっきりと打ち出しています。

ダイハツとの協業が新興国開拓のカギ(ダイハツがインドネシアで発売した小型車「アイラ」)

ダイハツとの協業が新興国開拓のカギ(ダイハツがインドネシアで発売した小型車「アイラ」)

 ただ、ダイハツとの協業の必要性は昔から指摘されているのに、なかなかうまくいかない。これはなぜなのか。

 トヨタはもともと自前主義が強いので、ダイハツに任せきるという行動をなかなか取れなかったことがひとつの要因としてあります。また、ダイハツの経営資源が限られていたという問題もありました。さらに、トヨタ社内で「ダイハツ様」と揶揄(やゆ)されたほど、ダイハツのプライドが高かったことも要因です。しかし、両社の協業は新たなステージに向かい、「第2トヨタ」躍進の原動力のひとつとなりそうです。

■パワートレイン刷新でライバルに後れ

 インドネシアではトヨタとダイハツの協業は大変うまくいっており、現地の低価格エコカーの市場で主導権を握っています。「ガラパゴス軽自動車(ガラ軽)」と揶揄される日本の軽自動車の生産・開発ノウハウをうまく活用していることが要因です。この低コストモデルは世界展開の可能性があります。インドネシアの次はタイ、インド。その先に中国、ブラジルなど多くの新興国への展開もあり得るでしょう。トヨタが新興国をターゲットにする新ブランドを立ち上げるシナリオも考えられます。

 先進・先端技術で競合メーカーを凌駕することは一見トヨタのお家芸ですが、実はハイブリッド成功の陰で、従来型のパワートレイン(エンジンなど駆動系)やモジュールを多用する先進的なプラットホームの刷新で出遅れたことは否めません。ハイブリッド技術ではトヨタはライバルを大きく引き離しているのは誰もが認めるところです。しかし、内燃機関そのものの強化、例えばエンジンの直噴化、高効率化、小排気量過給(いわゆるターボ)などの導入などで遅れています。ハイブリッドで成功しすぎたトヨタにやや慢心があったうえ、リーマン・ショック後の大幅赤字で守りの経営を迫られたため、対応が遅れたのです。

トヨタは中国へハイブリッド(HV)技術の移転を急ぐ(中国江蘇省にあるトヨタのHV研究開発拠点、共同)

トヨタは中国へハイブリッド(HV)技術の移転を急ぐ(中国江蘇省にあるトヨタのHV研究開発拠点、共同)

 ライバルは内燃機関の刷新でどんどん先を行きます。欧州メーカーはもちろん、国内メーカーでもホンダはガソリンエンジンの直噴化を完了し、小排気量過給エンジンもサイズごとにそろえる段階に来ています。トヨタが同様のレベルに達するには2018年頃までかかるでしょう。しばらくは旧世代のパワートレインで世界のライバルと戦わないといけないわけです。

 ハイブリッド比率の高い日本市場では競争力を落とすことはないでしょう。しかし、日本以外の市場で、ハイブリッド一本で戦えるかどうかは疑問です。米国と中国では小排気量過給エンジンの存在感が急速に増しているからです。

■中国での成長の切り札とは…

 特にトヨタにとって、中国は厳しい戦いになる懸念があります。中国はハイブリッド車に補助金を出すとも伝えられていますが、まだ不透明です。環境問題と国家安全保障問題を抱える中で、短期間で加速度的に燃費を改善するには、多くのメーカーがメリットを受けやすい小排気量過給エンジンの普及に弾みをつけるのは当然だと考えられます。現在、中国でのターボエンジン比率は15%程度と言われていますが、2020年には50%まで上昇する可能性があります。

 トヨタは知的財産権(IP)を中国に残す形で中国とハイブリッドシステムを共同開発し、補助獲得とコスト削減を実現し普及に弾みを付けようとしています。これがトヨタの中国での成長の切り札となりえます。中国としてもハイブリッドのIPを手中にすることは魅力的であり、軌道に乗れば中国でハイブリッドが市民権を得られる可能性があります。

 ハイブリッドを世界の主流に育成することは単にトヨタの成長のみならず、日本のものづくりの維持にもつながることです。トヨタの掲げる「国内300万台生産」を維持するには、日本から輸出しても儲かる付加価値の高いクルマを生みだすことが必要です。世界でハイブリッドが受け入れられる時代には、現地生産化もどんどん視野に入ってくるわけで、トヨタは更に先端の技術革新に取り組むでしょう。2015年にも市販予定の燃料電池車はその最有力候補です。ハイブリッドから燃料電池車へリレーされることで、国内生産も維持できるわけです。このようにグローバルで成長し、技術開発で先行して初めて、トヨタは国を背負い様々な社会的要求に応えることができるのです。

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