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仲居さんにセンサー装着 がんこフードの「科学接客」

仲居さんにセンサー装着 がんこフードの「科学接客」

 東京・銀座の和食店、がんこ銀座四丁目店。街の喧騒から隔離されたくつろぎ空間は、商談の場としても人気が高い。ここが、過去数回にわたり科学的・工学的アプローチによる「おもてなし研究のフィールド」になった。顧客が望む十分な接客ができているのか。それをつかむため“仲居さん”にセンサーを付け、行動を分析。おもてなしのレベルを高め、夜間の注文件数を4倍に伸ばすことに成功した。

がんこ銀座四丁目店(写真:村田和聡)

がんこ銀座四丁目店(写真:村田和聡)

 サービス業では、顧客の評価に直結する接客の善しあしが、現場スタッフの経験や気配りで決まりがちだ。そんな属人化している接客現場にセンサーを導入し、変革を進めているのが、がんこフードサービス(大阪市淀川区)である。センサー経由で集めたデータを、顧客サービスの改善に役立てている。

 顧客をもてなす時間が十分取れていないのではないか。和食店、がんこ銀座四丁目店での接客業務について、がんこフードサービスの新村猛副社長は不安を抱いていた。2010年後半のことだ。

 東京・銀座の中心地に店を構える銀座四丁目店。落ち着いた雰囲気の和室で、寿司や天ぷらなど様々な料理を楽しめるとあって、先々まで接待や宴会の予約で埋まる。夜の宴会では、顧客からの注文がひっきりなしに入り、接客スタッフは大忙しだ。

 こんな状況で果たして接客に十分な時間を取れているか。それを科学的に検証するため、新村副社長は自身が研究顧問を務める産業技術総合研究所(産総研)サービス工学研究センターに協力を要請。銀座四丁目店で、スタッフの接客状況の把握に乗り出した。

■副社長がグロースハッカー

帯の結びを形作る「帯枕」にセンサー(写真左下)を仕込んで行動を分析。(店内写真:村田和聡)

帯の結びを形作る「帯枕」にセンサー(写真左下)を仕込んで行動を分析。(店内写真:村田和聡)

 実は新村副社長は、サービス工学分野で博士号を取得する研究者。工学的手法を用いてサービスの現場を改善したり、統計学を駆使して需要予測をしたりすることで、和食店舗のサービス向上を進める「グロースハッカー」としての顔を併せ持つ。

 グロースハッカーとは、データを駆使して、企業や事業、サービスを短期間でどんどん改善し、成長させる仕掛け人を指す。米フェイスブックなどには統計学やプログラミングのスキルを備え、直面する事業課題を素早く解決する人たちが多数在籍し、注目を集める。まさにグロース(成長させる)ハッカー(高度な専門知識を使って成果を出す人)である。

 新村副社長の要請を受けて動いたのが、サービス工学研究センターの蔵田武志行動観測・提示技術研究チーム研究チーム長。GPS(全地球測位システム)を利用できない屋内のサービス現場をセンサーで捉え、拡張現実で分析するエキスパートである。

接客スタッフの行動をPC上で可視化。緑色の線がスタッフの動線

接客スタッフの行動をPC上で可視化。緑色の線がスタッフの動線

 着物に身を包んだ接客スタッフである“仲居さん”にセンサーを装着し、その行動を1週間記録することにした。接客スタッフそれぞれの行動データをPC(パソコン)に取り込み、3D(3次元)のコンピュータグラフィックス(CG)で再現した店舗に、スタッフの動きを可視化。POS(販売時点情報管理)データも組み合わせ、「接客スタッフがどの時間帯にどこにいて、どれだけの注文を受け付けたのか」を2011年1月に分析した。

 その結果、夜の時間帯にスタッフが接客エリアにいる割合は、40%を割ることが分かった。本来なら接客に専念するはずだが、忙しさのあまり、調理場から料理を運ぶ配膳係の仕事を手伝っていたのである。

 「接客時間がかなり少ない…」。結果に愕然とした現場関係者は、直ちに対策を講じた。調理場から料理を運ぶ配膳係を増員し、役割分担を改めて明確にした。

産総研と実施したセンサーによる行動分析を通して接客戦術を見直し、成果を出す

産総研と実施したセンサーによる行動分析を通して接客戦術を見直し、成果を出す

 さらに午後2~5時は、注文が少ない時間帯であるという調査結果に着目。その時間帯は、接客を最小限にとどめて、夜の繁忙時間のための準備に振り向けることにした。

■接客強化で注文件数が4割アップ

 改善の効果はてきめんだった。夜間の接客時間を多く取るようにしたことで、注文の件数は以前よりも約4割増えた。接客エリアの滞在時間をあえて減らした午後2~5時の注文件数も減らなかった。

 調査では、接客スタッフの店内の移動距離も測定した。トータルの移動距離は、改善の前後で変わらず。スタッフの作業負担を増やさず注文の件数を拡大できたわけだ。

 その後も改善活動を続けた。センサーによる接客スタッフの位置情報と、POSデータによる注文の受付件数を分析し、接客スタッフの最適な配置計画に役立てた。

ベテランは持ち場とそれ以外の注文も受け付けるので「守備率が高くて専念率が低い」。新人は持ち場でも他でも受け付ける注文数が少ないので「守備率と専念率が低い」。理想は自分の持ち場だけで全注文を受け付ける「守備率と専念率がともに高い」状況である

ベテランは持ち場とそれ以外の注文も受け付けるので「守備率が高くて専念率が低い」。新人は持ち場でも他でも受け付ける注文数が少ないので「守備率と専念率が低い」。理想は自分の持ち場だけで全注文を受け付ける「守備率と専念率がともに高い」状況である

 接客スタッフ個々に、担当する持ち場を決めたことで、それまで多くの顧客から注文を受け付けていたベテランの負担が激減。その一方で新人スタッフの当事者意識が高まり、顧客からの注文を“取りこぼす”ことがなくなった。「センサーによる行動履歴データとPOSデータの組み合わせが奏功した」と蔵田研究チーム長は話す。

■准教授の協力で「シミュレーター」開発

 がんこフードサービスの工学的アプローチはこれだけにとどまらない。2013年から、料理の注文を受け付けてから配膳するまでの時間、すなわち“リードタイム”の短縮に挑んでいる。

 注文した料理がなかなか来なければ、顧客は「いつまで待たせるんだ」といらだつもの。レストランが対象のサービス工学の研究でも、「リードタイムが短いほど顧客満足度は上がるが、長くなるほど顧客満足度は下がる」と分かっている。

 新村副社長はリードタイム短縮のため、再び外部のプロの力を借りた。オペレーションズリサーチの専門家、神戸大学の藤井信忠大学院システム情報学研究科システム科学専攻准教授の協力を得て、「調理場シミュレーター」を開発し、店舗設計に生かしている。

 調理場シミュレーターで、オーブンやフライヤーといった調理設備を配置した調理場をPC上に再現し、そこに料理人を配置。店舗のPOSデータに基づく1日の注文データを投入し、料理人に負担をかけず、効率よく調理できるかどうかをシミュレーション。改装する店舗や新店舗の調理場レイアウトの設計と料理人の配置に役立てている。

調理場シミュレーターで料理提供のリードタイムを短縮。従業員と装置を配置し、実店舗の注文データを投入してスムーズに料理を提供できるかどうかを検証

調理場シミュレーターで料理提供のリードタイムを短縮。従業員と装置を配置し、実店舗の注文データを投入してスムーズに料理を提供できるかどうかを検証

 店舗の改装で成果を出したのは、2013年末にリニューアルした大阪市北区のがんこ曽根崎本店だ。

 調理場シミュレーターを活用したところ、「フライヤーがフル稼働し続けている」「持ち場によって料理人の忙しさが違う」など様々な課題が見つかった。調理設備の台数や位置、料理人の役割分担を見直した。

 こうして最適解を見つけ出し、曽根崎本店の調理場を改善。リードタイムを以前に比べて2割ほど短縮した。「出来立ての温かい料理が楽しめる、とお客様からも好評だ」と新村副社長は笑顔で話す。

 京都市伏見区に新規出店した京都下鳥羽店も、シミュレーターを使って調理場を設計した。シミュレーションを9回繰り返して調理場レイアウトを決め、2013年9月に開店。運営が軌道に乗った時点で、1時間に料理人1人が生み出す売上高を調査し、シミュレーターを使わずに設計した店舗の実績と比較してみた。

 すると、調理場の設計にシミュレーターを使っていない店舗に比べ、売上高が3割高いことが分かった。料理提供のリードタイムを縮め、顧客満足度と売り上げの両方を高めたがんこの取り組みは、リアルな現場におけるグロースハックの好例といえる。

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