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空の快適性、日本勢巻き返す エアライン満足度調査

空の快適性、日本勢巻き返す エアライン満足度調査

 「日経ビジネス」が2年ぶりに実施したエアライン満足度ランキング。エグゼクティブ約6600人が選んだ満足度の第1位は、シンガポール航空だった。2年前の調査ではベスト3圏外だった日本勢も、今回は2位と3位に返り咲き、失地回復を果たした。だが安心してはいられない。ベスト5にはある「異変」が潜んでいた。世界の航空業界を脅かす新興勢力の台頭だ。新興勢力は刻々と勢いを増して、航空勢力図を塗り替えている。ついに始まった航空下克上。ANAとJALは、生き残ることができるのか。

 早朝の羽田空港国際線ターミナル。シンガポール航空のチェックインカウンターに若い男女が訪れた。シンガポール経由でインドネシアのロンボク島に行き、結婚式を挙げるという。

 2人のパスポートを見たスタッフは思わず顔を見合わせた。新婦のパスポートの有効期限切れまでの期間が半年を切っていたのだ。通常、インドネシアに入国するには、6カ月のパスポート残存有効期間が必要になる。このままでは新婦だけがインドネシアに入れず、式は挙げられない。2人は途方に暮れていた。

 「それでは結婚式ができなくなります。何とかなりませんか」

 この要求は、明らかに航空会社の裁量を超えている。だが、スタッフは「NO」とは言わなかった。「ご希望に沿えないかもしれませんが、何とかしてみます」。

 2人がロンボク島の空港に着くのは約13時間後。わずか半日の間に解決策を見つけねばならない。

 スタッフたちは一斉に動き始めた。国内のインドネシア大使館や現地のインドネシア入国管理局、挙式予定のホテル、ウエディングプランナー。あらゆる関係者に連絡を取り、2人が入国する手立てを探った。

 「身元が保証できるなら例外的に入国を認めましょう」

 入国管理局の話を受け、スタッフは挙式予定のホテルと交渉。身分保証書を書いてもらい、現地スタッフが入国管理局に書類を提出した。

 果たして入国は認められ、翌日、カップルは無事に式を挙げられた。

 「どんな場合でもお客様の希望に寄り添い、最大限の努力をすること。我々は決してNOとは言わない」

 日本支社長のデイヴィッド・リム氏は、自社の強みをこう語る。

■2位に大差を付け、首位守ったシンガポール航空

 日経ビジネスが2年ぶりに実施した「エグゼクティブが選ぶエアライン満足度ランキング」で、総合1位を獲得したシンガポール航空。スコアを分析すると、「サービス」部門は、ランキング内にある29社中最高得点に達し、残る4項目でも満遍なく高得点を獲得している。2年前の調査同様、2位から30点以上の差を付けて1位についた。

 冒頭のような「NOと言わない接客」を評価する声が集まるほか、「座席」部門も、29社中2位と高スコアだった。

 同社は超大型機のエアバス380に、ファーストクラスを上回るクラス「スイート」を設けて話題を集めた。座席と通路を隔てる専用ドアを設けて、ホテルの客室のようなプライベートな空間を作る豪華シートだ。贅(ぜい)を尽くしたハードと乗客に寄り添う細やかな接客。これらを兼ね備えたことが、トップになった大きな理由だ。

シンガポール航空がエアバス380で導入した最上位クラス「スイート」

シンガポール航空がエアバス380で導入した最上位クラス「スイート」

 シンガポール航空を追うのが、2位の全日本空輸(ANA)と3位の日本航空(JAL)。2年前の調査ではANAが4位、JALは6位と、両社ともベスト3圏外だったが、失地回復を果たした。

 日本勢2社が評価されたのは「サービス」「運航の安全性・正確性」の2項目。これらはいずれも、この2年で日本勢が強さを磨いてきた項目でもある。

 例えばサービス面ではANAが努力を重ねてきた。最も影響力を持つ英調査会社スカイトラックスの格付けで、ANAは2013年以降、2年連続で最上位の5つ星を獲得している。

 「5つ星エアラインを目指す」と同社が宣言し、本格的なサービス改革に乗り出したのは2012年のこと。当時の5つ星は、シンガポール航空などの6社だけ。その一角に入るべく、新プロジェクトを立ち上げた。

【調査概要】
約40万人の「日経ビジネスオンライン」読者にメールで調査を依頼。過去3年間に利用したエアラインについて、「サービス(客室乗務員の対応・機内食・エンターテインメント)」「座席」「運航の安全性・正確性」「路線ネットワークの広さ・加盟しているアライアンス」「コストパフォーマンス・マイレージ」の5項目で採点してもらった。それぞれの項目につき「非常に満足(+100点)」「満足した(+50点)」「普通(±0点)」「やや不満(▲50点)」「非常に不満(▲100点)」で採点したものを平均化し、合計スコアを算出。ランキングのスコアは計6634人(会長・社長697人、その他役員773人、部長1909人、課長2309人、係長946人)の回答を反映した。調査対象は東京、名古屋、大阪のいずれかにデイリーで就航、または上記3都市の複数に乗り入れている国際線58社。回答数が100人未満の航空会社はランキングの対象外とした(ファースト&ビジネスクラス、エコノミークラスのランキングは除く)。調査は日経BPコンサルティングに委託した。注:▲はマイナス

 それまでもサービス向上のために様々な取り組みを進めていたが、その多くが付加価値の高いサービスを追い求める内容だった。だが「サービス水準を上げるなら、お客様に不満を抱かせないことの方が大事だと考え直した」とCS&プロダクト・サービス室の小沢ちあき・主席部員は説明する。高付加価値サービスでプラス評価を稼ぐより、小さな不満によるマイナス評価を潰そうと発想を転換したのだ。

 「予約の電話がつながりづらい」「ラウンジが混む」「座席の間にゴミがある」。それらの不満を解消できれば、大きなコストをかけずに満足度は上がる。「5つ星プロジェクト」では慢性的な問題に踏み込み、課題ごとに責任者を決めて、期限を定めて成果を追わせた。

 運航の安全性・正確性では、JALの取り組みがユニークだ。同社も米リサーチ会社フライトスタッツの調査で、2012年から2年連続、定時到着率世界一の表彰を受けている。

 定時性を高めるのに最も大切なのは、部門を越えた社員同士の連携だ。予約担当者から地上係員や整備、客室乗務員などがスムーズに作業を連携させない限り、定時運航は実現できない。

 その点、JALでは経営破綻後、部門をまたいだ社員の語り合いが義務付けられ、現場には強い連帯感が生まれた。これによって定時性が高まった。

 ただ一方で、JALは破綻時に路線を大幅に縮小している。そのため「路線ネットワーク・アライアンス」部門のスコアはANAより11ポイントも低い。この差が2位と3位を分けた。

■前回調査では圏外、4位に躍り出たトルコの航空会社

 サービスに定評のあるシンガポール航空が1位につき、アンケート回答者が多く利用する日本勢が2位と3位で後を追う。ベスト3の顔ぶれだけを見れば、今回の調査結果に大きな驚きはないはずだ。

 だが少し目線を広げると、ある「異変」に気付く。4位のターキッシュエアラインズ(旧名トルコ航空)と5位のエミレーツ航空の存在だ。

 2年前の調査にターキッシュの名前はない。回答数が100に満たず、ランキング圏外になったからだ。エミレーツは前回の2位から順位を落としたが、それでもベスト5に食い込んだ。

 両社とも、日本への定期便は1日3便だけ。日本やアジアの航空会社に比べれば、その存在感は希薄でしかるべきだろう。それにもかかわらず、なぜ4位、5位にランクインしたのだろうか。

エミレーツ航空では、時差による体調不良の軽減に効果があるという照明システムを採用

エミレーツ航空では、時差による体調不良の軽減に効果があるという照明システムを採用

 ターキッシュは「コストパフォーマンス・マイレージ」、エミレーツは「座席」の項目で首位になった。

 ターキッシュは、長距離線でもファーストクラスを設けていない。しかし、だからといってサービスの質が劣るわけではない。ビジネスクラスとプレミアムエコノミーには、機内食の専任スタッフがついて、シェフが調理、盛り付けて料理を出す。客室乗務員があらゆる作業と並行して、料理を盛り付け、配膳する他の航空会社と比べれば、サービスの質は歴然としている。

ターキッシュエアラインズのビジネスクラスとプレミアムエコノミークラスでは「フライングシェフ」が機内食を調理する

ターキッシュエアラインズのビジネスクラスとプレミアムエコノミークラスでは「フライングシェフ」が機内食を調理する

 機内では、無線インターネットの接続が無料。機内エンターテインメントでは、スポーツ中継などのテレビ番組もリアルタイムで視聴できる。そのうえイスタンブールで乗り継ぐ乗客には、市内のホテル宿泊や観光ツアーを無料で提供する。それもこれらのサービスを、上位だけでなく全クラスに提供するのだ。「コストパフォーマンス」で首位になった理由はここにある。

 一方のエミレーツは、「座席」の項目でトップ。エミレーツのエアバス380では、機内に上位クラス向けの専用ラウンジを設けたり、ファーストクラスにシャワースパを備えたりして豪華さをアピールする。ビジネスクラスの座席にはミニバーまである。

 ただしエミレーツは、他社と共同でマーケティングをする航空連盟(アライアンス)に入っていない。そのため、「路線ネットワーク・アライアンス」と「コストパフォーマンス・マイレージ」の2つの項目で、大きくスコアを落としている。

 両社が評価された項目は異なるが、その戦略はよく似ている。徹底してサービスを磨くのは、両社が拠点とするイスタンブールやドバイへ飛びたい乗客を獲得するためだけではない。拠点とする空港からは、ターキッシュが250都市以上、エミレーツが140都市以上に飛んでいる。つまり、両都市の「その先」にまで乗客を運ぶのが、2社に共通する戦略だ。

 各航空会社が持つ都市間の直行便から、一段上のサービスで根こそぎ顧客を奪っていく。日本の直行便が少なくとも、拠点以遠の目的地の豊富さゆえに、数十便に匹敵する存在感を持つ。これがターキッシュとエミレーツが上位に食い込んだ要因だ。

 このランキングは、日本で実施され、主として日本人の乗客が回答したものである。それでもこのランキングに表れた小さな「異変」は、世界の航空業界で今、まさに起きているそれと相似をなしている。

 世界の空を統べるのは誰か。異変の向こうを眺めれば、既存キャリアと、それに挑む新興勢力の激しい争いが浮かび上がる。

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