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2014年9月

雇用延長、対策多様に 高齢者の給与上積み

雇用延長、対策多様に 高齢者の給与上積み
現役の労働時間減、賃金評価見直しも

希望する高齢者の継続雇用を義務付ける「高年齢者雇用安定法」が施行されて4カ月あまり。60歳を超えて働き続ける人の年収を増やすため、雇用・賃金制度の見直しが多様化している。NTTグループは現役世代の賃金上昇を抑制して捻出。YKKグループは賃金体系全体を見直す。20~50歳代へのしわ寄せにもつながる制度には慎重論もあるが、労働力不足や技能伝承の観点からも高齢者の待遇改善が進んでいる。

 高齢者の賃金引き上げの動きが広がるのは年金の支給開始年齢が段階的に引き上げられるため。もっとも総人件費を大きくは増やせず、原資捻出に向けた対策が広がる。

 1つは現役世代の賃金を抑制する手法だ。NTTグループは10月、再雇用する60歳以上の従業員の年収をこれまでの200万円台前半から300万~400万円に引き上げる。原資確保に向けて現役世代の賃金体系で年功要素が強い基準内賃金を圧縮、成果部分を強める制度を取り入れる。成果部分の比重が高まる40歳前後から上の世代の賃金上昇は従来より緩やかになる。

山崎パンは年収倍に

 山崎製パンは4月から60歳の定年後に再雇用した従業員に現役世代とほぼ同じような働き方を求める一方、年収を従来の約2倍に相当する300万円強とする賃金制度を導入した。1日8時間・週5日勤務を原則とし、残業や深夜の交代勤務を課す。

 同時に現役世代の総労働時間の削減に取り組む。年間休日数を2014年度は12年度比で2日増やし、残業時間を削減。結果的に現役世代の賃金は減り、再雇用者の年収が増える仕組みにする。

 山崎パンは毎年300人近い定年退職者が見込まれており、現役世代の割合が減少する見通し。「従来のままでは工場のシフト勤務が難しい。高齢者を戦力と位置付けつつ、現役世代の過大な負担を減らし、世代間で異なる仕事量と賃金を平準化する」と人事第一部の原田周二部長代理は言う。

 現役世代への影響を回避しようという取り組みもある。サントリーホールディングスは4月から60歳以上の社員の年収引き上げを開始、60歳到達前の5割弱にとどまっていた水準を6~7割に上げた。65歳までの全社員が新制度の対象になる5年後には人件費が十数億円増える見通しだが、経費削減などで吸収する。

YKK、定年延長に切り替え

 賃金制度の抜本的な見直しが3つ目の手法だ。雇用延長の制度は(1)再雇用(2)定年の引き上げ(3)定年の廃止がある。YKKグループは多くの企業が選択する再雇用制度を見直し、4月から定年延長に切り替え始めた。65歳までの雇用を前提とした賃金体系を年金の支給開始年齢が65歳となる25年までに整備する。

 人件費の増加を抑制するため人事評価を見直す。能力給の運用を弾力化、従来はほとんどなかった実力不足による降給を数年後をメドに開始し、評価を適正化する。もっとも突然の降給には現場の動揺も予想される。このため「能力要件書」と呼ぶ判断基準を社員に明示して理解を求める。

 「65歳定年時代」に向け、高齢者の活力を生かそうという企業の制度設計見直しは広がっている。IHIは59歳になった時点で定年を60歳から65歳の間で選ぶことができる「選択定年制」を導入。三菱電機は13年度から雇用を延長した社員の給与を12年度の年収ベースから約2割引き上げた。

高年齢者雇用安定法

正式名称は「高年齢者の雇用の安定等に関する法律」。従来は定年を60歳以上にするように企業に努力義務を課してきたが、1998年から「60歳定年」を義務化した。2000年の改正で、定年の引き上げ、継続雇用の導入などによる65歳までの雇用の確保を企業の努力義務とした。さらに04年の法改正で、厚生年金の支給開始年齢引き上げに併せ、65歳までの雇用を段階的に義務付けた。

雇用延長[ Employment extension ]

現在、多くの企業で定年としている60歳を過ぎても働けるようにすること。2004年に成立した改正高年齢者雇用安定法で、2006年4月から段階的に雇用延長することが義務付けられた。厚生年金の支給開始年齢が65歳に引き上げられるのに伴い、年金支給までの空白期間を埋めるのが狙い。13年度以降は65歳とする。雇用延長の手段としては定年制の廃止、定年年齢の引き上げ、定年退職後の再雇用などがある。

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「雇用義務65歳」の高年法、賃金制度の再設計迫る

今年4月施行の改正高年齢者雇用安定法(高年法)が、企業にじわじわと人事・賃金制度の再設計を迫ることになりそうだ。同法は希望する社員を最終的に65歳まで雇用することを義務づけており、60歳を“終点”とした従来の賃金カーブのままでは、その後の労働意欲が低下しかねないためだ。単に高年法を守るだけでなく、長期的な視点から少子高齢化時代にふさわしい人事・賃金制度を考え、必要な改革に着手すべきだろう。

■3兆円に迫る企業負担

東京ガスは50歳の社員に、再雇用制度を含む「セカンドライフ支援制度」を紹介する研修を実施している。講師も再雇用者が務めた(2013年5月、東京都港区の本社で)

東京ガスは50歳の社員に、再雇用制度を含む「セカンドライフ支援制度」を紹介する研修を実施している。講師も再雇用者が務めた(2013年5月、東京都港区の本社で)

 高年法は企業に対して(1)定年後の再雇用(2)定年延長(3)定年制廃止――のいずれかの方法で65歳までの雇用確保を求めている。実際には(1)を選んで1年の有期契約を結び、更新していく企業が多い。従来は労使協定で継続雇用の基準を設ければ、企業が雇用する社員を選別できたが、今年4月施行の改正で原則として希望者全員の雇用が必要になった。雇用義務のある年齢は、厚生年金の支給開始年齢の引き上げに合わせて段階的に上がる。13年度に61歳になった後は3年で1歳ずつ上がり、2025年度に65歳となる。

 企業の負担はどの程度増えるのか。日本総合研究所の試算では、希望者全員の雇用義務づけにより、企業の人件費負担は2030年時点で約2兆8500億円増える。

 改正による義務づけには批判的な意見もある。企業法務に詳しい弁護士からは「年金財政悪化のツケを企業に回すようなもの」「高齢者の働き方、生き方の多様化を損なう」といった声が出ている。景気が悪くなった時には、新卒採用の抑制などで若者へのしわ寄せが大きくなる恐れもある。

 とはいえ、少子高齢化が進む日本で、経験豊富な高齢者に能力を最大限発揮してもらうことは長期的に重要な経営課題だ。60歳到達後に賃金が大きく落ち込むと「それなりに働けばいい」とやる気が萎える高齢社員が増え、職場全体の士気にも影響しかねない。

 賃金の落ち込み問題を改善しようと、人事・賃金制度を全社的に見直す動きもある。方法は(1)賃金カーブの見直し(2)ポストで賃金が決まる職務給制度への移行――の2つに大別できる。

 NTTグループは前者だ。今年10月、30歳代から60歳定年までの中堅、ベテラン層の賃金から年功的要素を減らし、平均賃金カーブの上昇を緩やかにする。一方、定年後に再雇用する社員の年収は来年4月、今の200万円台から300万~400万円に引き上げる。

 NTTの人事制度担当者は「定年の前も後も、仕事の成果などを賃金に反映させて生産性を高めるため」と狙いを説明する。ただ、中堅以降の賃金カーブ見直しが再雇用者の処遇改善の原資になっていることも事実だ。

■賃金原資、世代間でどう分配

 こうした世代間の賃金配分変更について、今年4月に65歳定年制を導入したサントリーホールディングスは「原資を減らされる世代の納得が得られない」(人事部の呉田弘之部長)と否定的だ。同社では再雇用制度からの転換で60歳以降の処遇を改善しており、十数億円の人件費増となるもようだが、60歳以前の賃金体系は変えなかった。「シニアを中心とする社員の活躍で人件費増加分を上回る収益を上げてもらう」(呉田氏)という。

 NTTのような賃金カーブ見直しを決めた企業はまだ少ないようだが、他社から同社への問い合わせは「非常に多い」(NTTの人事担当者)。ポイントは年功賃金の要素が残っている会社の場合、生産性と賃金のカーブにズレが生じていないかどうかだ。60歳に到達した直後に賃金がガクンと減るのは、裏返せば60歳前の賃金が生産性に比べて高いからかもしれない。生産性と賃金のズレは会社によって異なる。まず検証し、ズレが大きい場合は修正を検討すべきだろう。

 もう一つの方法は、仕事の難しさや責任の大きさなどを分析し、ポストによって賃金を決める職務給制度に移行することだ。年功要素を排除できるので、ポストが変わらなければ60歳を過ぎても賃金は下がらない。

 今年度、再雇用制度から定年延長に転換したばかりのYKK。同社も職務給に近い役割給を管理職などに採り入れている。企業からみた職務給制度の問題点は「運用を事業部などの現場任せにすると、ポストが自己増殖しやすいこと」(コンサルティング会社タワーズワトソンの永田稔ディレクター)だ。YKKは役割を点数化し、合計値が部門や会社の業績に連動しているかをチェックしている。定年延長後の数年間で人件費などがうまく管理できるとの見通しが立てば、定年制廃止に踏み切る考えだ。

 YKKには「公正」を最重要視する経営理念があり、吉田忠裕・会長兼最高経営責任者(CEO)は年齢や性別、国籍などで差別しない人事制度の構築を求めている。同社の寺田弥司治・執行役員人事部長は「会長からは『なぜ定年があるのか』と問いただされている」と苦笑しつつ、「定年制廃止は高齢者優遇ではなく、ポストを巡る世代間競争を促すもの」と話す。

■バブル世代対応のニーズも

 タワーズワトソンの永田氏によると、雇用延長対策とは別の動機で職務給制度に移行する企業も多いという。一つはバブル世代対策。年功的要素が残る職能給制度の採用企業が、バブル期の1990年ごろに大量入社した社員の人件費負担に悩み、職務給に移行するケース。もう一つはグローバル化。欧米の子会社が職務給制度を採用しているため、日本の本社がこれに合わせる例が増えている。これらの理由で職務給に移行しながら「雇用延長にも役立つと考える企業が多い」(永田氏)という。

 賃金制度を急激に変更すると社内が混乱するので、職務給と職能給の両方を採り入れながら、徐々に職務給に軸足を移す企業もあるようだ。厚生労働省の2012年就労条件総合調査によると、基本給の決定要素を複数回答可で企業に尋ねたところ、管理職では「職務・職種など仕事の内容」が「職務遂行能力」(職能)をわずかに上回った。どんな制度にも一長一短がある。どんな働き方をしてもらいたいのか、経営者は社員へのメッセージを込めながら、自社にふさわしい人事・賃金制度を整備する必要がある。

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パイロット、世界で争奪戦に 20年で50万人不足

 世界の航空会社の間でパイロットの争奪戦が始まった。アジアや北米、欧州での旅客需要が増え、今後20年で現在の規模に匹敵する50万人が新たに必要となる見通しだ。米航空3強は米国内からパイロットの囲い込みに着手。日本の2社や新興勢も世界規模での人材育成に取り組む。各国政府も自国の航空会社を後押ししている。

 米航空業界は2001年の同時テロから燃料費が高騰し、08年には金融危機が発生して旅客需要が激減した。この10年ほどはパイロットを含むリストラを優先してきた。だが、アメリカン航空とUSエアウェイズが合併して3強に絞られ、業界が安定してきた。

 「空の旅のニーズは世界規模に広がった。パイロットの確保は今後の航空会社の競争力のカギになる」。米ユナイテッド航空のジム・コンプトン副会長はこう強調する。

 成長するアジア市場の開拓などをにらみ、パイロットの囲い込みを始めた。ユナイテッドはまず一時帰休させていたパイロットを全員、復帰させた。旅客需要が好調な米国内ではパイロット不足のため一部路線の縮小を迫られており、人員増を急ぐ。アメリカンも今後5年間で1500人のパイロットを新規に雇い入れる。デルタ航空も新規機体の導入などに合わせパイロットを増やす。

 定年延長を探る動きもあるが、パイロット側には波紋が広がっている。ルフトハンザ・ドイツ航空は65歳までの定年延長に伴う経過措置を巡って組合と対立。約5千人のパイロットがストライキを辞さない構えをみせている。

 米航空機大手ボーイングによると、今後20年間で新たに50万人近くのパイロットが必要になる。現在と比べほぼ倍増する計算だ。増加分のうちアジア太平洋、北米、欧州の三大市場で4分の3を占める。

 高度な専門技術が必要なパイロットは育成に多大なコストや時間がかかる。将来の需要増を見越し、航空会社の間でパイロット育成を新たなビジネスに育てようという動きも広がっている。

 ANAホールディングスは米国でパイロット訓練会社のパンナムを買収、自社の不足分を補う一方、米航空会社などにも送り込む。最大の需要地であるアジアでも4月からタイで訓練ビジネスを始める。新興勢でも中東のエミレーツ航空が本拠を置くアラブ首長国連邦(UAE)ドバイの空港に訓練校を設置。15年から毎年160人のパイロットを輩出する計画だ。

 欧州航空機大手エアバスは顧客である航空会社に対し、パイロット育成費用の一部を肩代わりする形で、機体の納入費用を実質的に値引きする新たな提案を始めた。

 政府も歩調を合わせる。米国は1月からパイロットが一日に乗務できる時間を延長できるよう規制を緩和した。日本も15年度にも同様の制度を採り入れる。航空会社が抱えるパイロットがフルに活動し、需要増に柔軟に対応できるようにする。国土交通省は私立大学などを対象に、パイロット教育に必要な奨学金制度を拡充する。

 パイロットの高額な人件費は日本航空や旧アメリカン航空の経営破綻の一因となった。世界の航空会社にとってパイロットの人件費をどう抑えるかも、新たな経営課題となりそうだ。

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