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発火事故2年 「じゃじゃ馬」787乗りこなすJALの苦心

発火事故2年 「じゃじゃ馬」787乗りこなすJALの苦心

米ボーイングの最新鋭旅客機「787型機」。機体に炭素繊維を多用し燃費を飛躍的に改善させたほか、客室の湿度を保ち窓も大きくするなど居住性も高め、時代を担う新型機という期待を一身に集めて登場した。だが、2011年末の初就航からわずか1年後の13年1月にリチウムイオン電池の発火事故を相次いで起こし、4カ月以上にわたって世界中で運航停止に陥るという大失態を演じてしまった。それから約2年。787の信頼回復に取り組む現場での地道な取り組みを追った。

■密閉されたバッテリー

 14年も残りわずかとなった12月上旬の東京・羽田空港。日本航空(JAL)の格納庫では、鶴丸ペイントの787が機体のあちこちをむき出しにした状態でたたずんでいた。12年3月に営業運航を開始した787初号機が初の「重整備」を受けているのだ。

重整備を受ける日本航空のボーイング787型機(2014年12月、東京・羽田空港)

重整備を受ける日本航空のボーイング787型機(2014年12月、東京・羽田空港)

点検・整備が機体の複数箇所で同時並行で進む。あちこちのカバーや点検口も開いた状態だ

点検・整備が機体の複数箇所で同時並行で進む。あちこちのカバーや点検口も開いた状態だ

垂直尾翼に付いている方向舵の機構を点検するため、鶴丸のロゴマークの部分が開いている

垂直尾翼に付いている方向舵の機構を点検するため、鶴丸のロゴマークの部分が開いている

 重整備とはおおむね1年半~2年ごとに数週間程度、営業運航のローテーションから外れて機体全体の点検・整備や場合によっては改修を行うもの。いわば飛行機の「車検」といえる。

 機体最前部の下部にある点検口から機内に入り込んでみると、普段乗客として乗り込む客室の下に、多数のコンピューターや配線がびっしりと並ぶサーバールームのような小部屋がある。その一角に787のメーンバッテリーが鎮座していた。

 この日の重整備では、メーンバッテリーの点検作業を進めていた。バッテリー全体をすっぽり覆い密閉しているステンレス製のケースを外す。中を見ると青い箱が見える。これがメーンバッテリーだ。13年の発火事故を受け、もともとあったユニットの青い箱を丸ごと格納し密閉する、ステンレスのケースを追加した。

ボーイング787型機のメーンバッテリー。発火事故の再発防止策として、ユニット全体を密閉し酸素を遮断するステンレス製のカバーを設けている

ボーイング787型機のメーンバッテリー。発火事故の再発防止策として、ユニット全体を密閉し酸素を遮断するステンレス製のカバーを設けている

ステンレス製のカバーを外すと、青く塗装されたバッテリーユニットが姿を現す。この中にバッテリー本体(セル)が8個内蔵されている

ステンレス製のカバーを外すと、青く塗装されたバッテリーユニットが姿を現す。この中にバッテリー本体(セル)が8個内蔵されている

 このケースからは排気のための配管が延びている。ユニット内部のリチウムイオン電池が異常発熱すると内部に入っている電解液が気化して膨張する可能性がある。気化した電解液は可燃性で、高温の状態で機内の空気と混ざると発火の危険があるため、これも発火事故後に機体下部の排気口から外に逃がすための配管を新設した。配管の途中にはインジケーターがあり、ケースの内圧が高まるとインジケーターの赤い表示が飛び出る仕組みだ。

万一バッテリーが異常発熱して気化した電解液が噴き出しても、発火することなく機外に排出できるよう専用の配管と排気口を新設した

万一バッテリーが異常発熱して気化した電解液が噴き出しても、発火することなく機外に排出できるよう専用の配管と排気口を新設した

バッテリーユニットの脇にはステンレス製カバー内部の気圧を示すインジケーターがある。気化した電解液の噴出などで圧力が上がると、中央の赤いリングが飛び出す

バッテリーユニットの脇にはステンレス製カバー内部の気圧を示すインジケーターがある。気化した電解液の噴出などで圧力が上がると、中央の赤いリングが飛び出す

■飛行そのものに問題なし

 問題となった発火事故ではバッテリーが黒焦げになるほど激しく損傷していた。その後の事故調査でも、なぜ発火したかという根本原因は特定できていない。

 そこでボーイングでは原因として考えうるものを全て洗い出し可能性のある80項目をリストアップ。(1)バッテリー本体(セル)を発火しにくくする(2)セルが発火しても隣のセルに広がるのを防ぐ(3)複数のセルが発火しても電解液の機外への排出や酸素の遮断によりすぐ鎮火しバッテリー以外の機器に影響が及ぶのを防ぐ――という3段階で80項目を網羅的にカバーする対策を取った。

 今回の重整備で見えたステンレスケースや電解液を排出するための配管は、これらの対策として追加された部分だ。

 14年1月に、成田空港に駐機していたJALの787で再びバッテリーの過熱・発煙があった。8個あるセルの1つが過熱し電解液が噴出したが、他のセルには影響なく電解液はきちんと排気口から排出した。国土交通省も「対策が適切に機能し安全運航に必要な機能は維持されていた」と改修の有効性を認めている。

 787はバッテリーユニットを2つ搭載している。メーンバッテリーは、運航計器や操縦システム、客室内の照明をはじめ、機内で使う設備のほとんどに電気を供給する能力を持つ。だが、飛行時は通常エンジンに併設されている発電機からの電力供給ですべてをまかなえるため、そもそもメーンバッテリーを使う必要がない。

 メーンバッテリーが活躍するのは、もっぱら給油中など地上滞在時だけだ。何らかのトラブルで飛行中にエンジンからの電源供給が途絶えた場合のバックアップの役割もするが、通常エンジンの次に補助動力装置(APU)がバックアップする。メーンバッテリーはその次の、あくまで3番手の押さえの役割だ。そのため、飛行中にバッテリーが発火するような事態が発生しても、火が外部に燃え移らない限りは問題なく飛行を継続できる。なお、もう1基のAPUバッテリーは、地上滞在中や緊急時の電源としてAPUを使う際、始動用モーターを回す役割を担う。

■たゆまぬ改善

 点検作業では、ケース内部に収められたバッテリーユニットの外観に異状がないか目視で確認しつつ、点検用端子にケーブルをつなぐ。ケーブルの先にあるのは急速放電器だ。バッテリーを完全放電し、次いでフル充電させる。こうした充放電の作業中や終了後に、電圧・電流や容量などが所定の基準値内に収まっているか否かを確認するのだ。

点検のため、メーンバッテリーを覆うステンレス製のカバーを取り外す整備士

点検のため、メーンバッテリーを覆うステンレス製のカバーを取り外す整備士

バッテリーの点検で使う急速放電器。放電しながら出力電圧・電流や残容量などをモニタリングしている

バッテリーの点検で使う急速放電器。放電しながら出力電圧・電流や残容量などをモニタリングしている

バッテリーの状態は、操縦室のディスプレーで常時確認できる

バッテリーの状態は、操縦室のディスプレーで常時確認できる

画面右下の「MAIN BAT」「APU BAT」が2つのバッテリーの状態。電圧と電流、充放電の状況などが分かる

画面右下の「MAIN BAT」「APU BAT」が2つのバッテリーの状態。電圧と電流、充放電の状況などが分かる

 APUバッテリーは数日前に成田空港で新品と交換しメーカーに送付している。「運航再開以来1年半ほど使い込んだバッテリーの状態を確認し、経年劣化の状況などを検証する予定だ」(JALエンジニアリング第1機体技術課の藤城慎治課長)。使い込んだバッテリーの検証により根本的な発火原因を究明できればさらに安全性を高められる。

 重整備で点検するのはバッテリーだけではない。構造、エンジン・操舵(そうだ)、客室、電装・計器、塗装など担当分野ごとに分かれた整備士のチームが、それぞれ機体のあちこちで点検・整備や改修を同時並行で進めている。

 機体前部にあるビジネスクラスの客室内に入ると、普段は整然と並べられている座席が取り外され、床板が開いた状態になっている。床下の骨組みに緑色の補強用部品を組み付けて固定する作業を進めていた。「一般に座席は床面に前後方向に走っているレールの上に固定される。今回の改修では、このレールを床下から支える部分の骨組みを補強している」(JALエンジニアリング構造技術課の松丸昌徳課長)

ビジネスクラスの客室では、床下を補強するため一部座席(左奥)を取り外して床板もはがしている

ビジネスクラスの客室では、床下を補強するため一部座席(左奥)を取り外して床板もはがしている

床下をむき出しにして、骨組みの部分に補強材(手で持っている緑色の部品)を組み付けていく

床下をむき出しにして、骨組みの部分に補強材(手で持っている緑色の部品)を組み付けていく

787をはじめ旅客機の客室床面には座席を設置するレールが敷いてある。今回の改修ではこのレールの下部を補強した

787をはじめ旅客機の客室床面には座席を設置するレールが敷いてある。今回の改修ではこのレールの下部を補強した

床下に補強材を取り付ける作業の手順を示した指示書。手順はボーイングが厳格に定めており、1つの作業だけでこの分厚さになる

床下に補強材を取り付ける作業の手順を示した指示書。手順はボーイングが厳格に定めており、1つの作業だけでこの分厚さになる

 こうした改修は、ボーイングからの指示書に基づいて進められる。ボーイングは787を運航する各航空会社からの報告を基に、改修が必要な場合は指示書を作成し補強用部品とともに各航空会社へ送る。どの航空会社の整備士が作業しても所望の強度を確保できるよう手順を厳格に定めており、1つの改修でも指示書は辞書のように分厚くなる。

 他にもエンジンや主脚の点検、プロペラの回転により非常時に電力と油圧を確保できるラムエア・タービンの点検、客室内の酸素マスクを遠隔制御する回路の修繕などを進めていた。

■一体成型で点検作業は10分の1

機体中央下部にあるラムエア・タービンのプロペラ。飛行中にエンジンやAPUが機能停止した際に出され、風力で電気系統や油圧系統を機能させる

機体中央下部にあるラムエア・タービンのプロペラ。飛行中にエンジンやAPUが機能停止した際に出され、風力で電気系統や油圧系統を機能させる

 787の重整備は従来機より期間が短くなり、点検項目も格段に減っている。

 ボーイング747は点検項目が3万に上り、1カ月ほどかけて機体を完全に分解して、胴体の金属疲労をくまなく調べていた。そのため、格納庫のスペースや整備士のやり繰りの問題から、中国など海外の整備専門会社に委託することも多かった。

 それに対し、787では点検項目が約3000まで減少し、重整備の所要時間は2週間程度まで短縮されている。「往復に数日かけて海外の整備会社へ委託しなくてよくなり、自社で重整備できる比率が高まるだろう」(JAL執行役員整備本部長の赤坂祐二氏)

点検を受けるボーイング787型機のエンジン。日本航空が採用する米ゼネラル・エレクトリック(GE)製エンジンにある不具合は近く解消できる見通しという

点検を受けるボーイング787型機のエンジン。日本航空が採用する米ゼネラル・エレクトリック(GE)製エンジンにある不具合は近く解消できる見通しという

 項目を減らせた要因は、整備ノウハウの蓄積に加え炭素繊維の大規模採用が大きい。787の構造部材として広く使っている炭素繊維強化プラスチック(CRFP)は、従来の主流だったアルミニウム合金より引っ張り強度や弾性率が高く頑丈である。さらに787では直径約6メートルの胴体を一体成型しているため、多数の外板や骨組みをリベットで組み合わせる作り方より強度上の弱点となる継ぎ目が大幅に少ない。金属と違ってさびや変形も発生せず点検を大幅に減らせるのだ。

 ボーイングと航空会社との連携体制が広がっている点も工数減につながる。「昔は構造部の強いところ弱いところといったデータの蓄積がなく、重整備では全てに一様の手間を掛けていた。だが、航空会社からのフィードバックで弱くなりやすい部分のデータがボーイングに集まりやすくなったことで、重点的に点検すべき部分がわかり効率化できている」(松丸課長)

 同じ点検でも、従来機より工数が少なくなっている部分がある。胴体に垂直尾翼を固定する巨大なボルトが適切に締まっているかを、ボルトに付属するひずみ計で自動計測する仕組みを採用。ひずみ計に付けられた2次元コードを読み取るだけでデータを確認でき、尾翼内部の狭いスペースで作業する手間を大幅に減らしている。

垂直尾翼を点検するには、機体後部の点検口から整備士が中に入っていく。中は巨大な空洞になっており、重整備の際は作業しやすいよう内部に仮設の足場を組む

垂直尾翼を点検するには、機体後部の点検口から整備士が中に入っていく。中は巨大な空洞になっており、重整備の際は作業しやすいよう内部に仮設の足場を組む

点検口の内部。手前の白い板は水平尾翼、中央の可動部は水平尾翼の上下方向の傾きを調整するためのものだ。仮設足場の奥の黒い部分は圧力隔壁

点検口の内部。手前の白い板は水平尾翼、中央の可動部は水平尾翼の上下方向の傾きを調整するためのものだ。仮設足場の奥の黒い部分は圧力隔壁

垂直尾翼と胴体をつなぐボルトのひずみを計測する測定器。巨大なボルトを締め直すなどの手間なく、ひずみのデータから異常の有無を簡単に確認できる

垂直尾翼と胴体をつなぐボルトのひずみを計測する測定器。巨大なボルトを締め直すなどの手間なく、ひずみのデータから異常の有無を簡単に確認できる

垂直尾翼を支えるボルトの1つ(中央)。頭部に2次元バーコードが付いており、ひずみの大きさを専用の測定器で計測できる

垂直尾翼を支えるボルトの1つ(中央)。頭部に2次元バーコードが付いており、ひずみの大きさを専用の測定器で計測できる

■トラブルが半分以下に

 期待が高かった787型機だが、これまで逆風の連続だった。機体の設計に手間取り最初の納入が3年以上ずれこんだあげくにバッテリーの発火事故が発生。米ゼネラル・エレクトリック(GE)製エンジンは着氷でエンジン停止の恐れがあるとして、飛行経路や高度に制限を設けたり運用路線を変更したりといった制約が生じている。

 初期不良による機材トラブルで引き返しや欠航、遅れなどが発生するのは、ある程度までは新機種の宿命だ。それでも「個人的には787は若干『じゃじゃ馬』だと感じたときもあった」(藤城課長)

JALのボーイング787型機はこれまで旧型ビジネスクラスだったが、14年12月以降納入の機体は新座席を採用。ビジネスはフルフラットになり、エコノミーも座席の幅や奥行きが広がった

JALのボーイング787型機はこれまで旧型ビジネスクラスだったが、14年12月以降納入の機体は新座席を採用。ビジネスはフルフラットになり、エコノミーも座席の幅や奥行きが広がった

 その一方で、明るい兆しも見えている。一時期は月10件近くに上っていた機材トラブルによる遅れなどが、ここ数カ月は月3~4件まで減ってきている。導入機数が増え機材のやり繰りがしやすくなったことも背景の1つだが、導入から約3年で初期不良が落ち着きつつあるといえる。

 JALでは14年12月、フルフラットのビジネスクラスや奥行きの広いエコノミークラスなど内装を一新した787を導入し、基幹路線の成田-ニューヨーク線などで運航を始めている。上述のGE製エンジンの制約も、近くソフトウエアの更新で解決する見込みだ。

 ボーイングや航空会社の手を焼かせる「じゃじゃ馬」だった787。ようやく見えてきた明るいムードを持続させ、本来の特徴である燃費の良さや客室空間の快適さで愛される飛行機に成長していけるか。現場の整備士をはじめ、関係者の地道な努力はまだまだ続きそうだ。

 すべての「現場」には、それを支える技術が存在している。それは、企業活動に限らず、人々の日常生活や消費シーンでも同様だ。どこで、どんな最先端技術が使われ、それが世の中をどう変えているのか……。この連載では、日経記者が話題の現場の裏側を取材、技術が活躍している最前線を報告する。

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