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2015年1月

マンションの命運握る 管理組合の「本気度」

マンションの命運握る 管理組合の「本気度」
 「マンションの管理は管理会社がやってくれるもの」と思っている人がいまだに多いことには驚く。管理会社というのは、マンションにとって単なる業務委託先にすぎず、管理の主体はあくまで、マンション所有者で自動的に構成される「マンション管理組合」だ。所有者みんなで考え、様々な意思決定をしながらマンション管理を行っていく。マンション管理組合とはいわば「自治会」のようなものであり「財産共同管理組織」でもある。

■管理組合はかなり温度差

 さくら事務所のマンション管理コンサルティング経験から、管理組合の運営についてはマンションによってかなりの温度差があることがわかっている。

 意識の高い理事が何人もいるうえ、他の所有者も組合運営に協力的で、しっかりと計画され、ほとんど会社経営に近いスタイルで運営されているマンションもあれば、多くの所有者が管理に無関心で人任せ、抽選で理事がまわってくると適当にやり過ごし、結果としてほとんど管理会社のいいなりといったケースもある。

 大規模修繕の提案や見積もりが管理会社からあがってきても、本当に今この工事が必要なのか、価格は妥当なのかを誰もチェックしないようなら、それは所有者みんなで積み立ててきた共同貯金である「修繕積立金」の無駄遣いにつながる。不要不急の大規模修繕を行っているケース、そもそも修繕費が割高であるといったケースに、非常に多く遭遇する。国や自治体にたくさんの税金を払い、それが無駄な公共事業に使われているのと全く同じ構図だ。

■総会の出席者が1、2人

 ひどいのは「地方都市のワンルームマンション」の事例。管理組合員はほとんどが東京など遠方のオーナーであることが多く、管理組合総会を開こうと思っても、全50戸中で1~2人しか集まらなかったり、修繕しようとしてもお金のかかることは嫌だとして適切な修繕が行われず、なかばスラム化し空き家だらけだったり、賃料もどんどん下がったりするといった状況になっているケースは、決して珍しくない。必要な修繕積立金もプールされていないケースがほとんどで、このままでは朽ちていくのを待つしかないといった案件が多く見受けられる。

■エントランスや駐輪場周りをチェック

 これからマンションを買う方は、温度差の大きい管理組合の運営状況を、個別に必ず確認したい。物件見学の際、エントランスや集合ポスト周り、駐輪場などの清潔さや整理整頓ぐあいを見るだけでも一定の判断は可能だ。こうしたところが雑然としているマンションは管理組合運営が適切に行われているはずがなく、「推して知るべし」である。

 もし、廊下や階段、外壁などに大きな亀裂やタイルの剥がれなどがある場合には、そうした状況を管理組合が把握しているかを確認したい。確認方法は、まずは不動産仲介会社に聞いてみることだが、具体的には、管理組合の議事録を見ればわかる。

■情報開示が積極的なら意識高い

 そこには、いま管理組合で起きている問題や課題、今後の方針や計画などが記載されている。修繕積立金の滞納の有無、大・中・小規模の建物点検や修繕の予定、その他マンションで起きている事象などが把握できるだろう。ただしこの議事録には開示義務はなく、断られる可能性も。積極的に情報開示しているマンションはまだ少数だが、それだけで管理意識が高いことがうかがえる。

 住宅の管理は、すべて自分の自由にできる一戸建てより、むしろ、すべて話し合いで進めなければならないマンションの方が難易度が高い。一方でマンションのメリットもある。全100戸、200戸とまとまった数になると、価格交渉などもしやすくなるほか、防災対策などを協調して行う場合などにはそのスケールメリットによって、より有効な手を打てることがあるからだ。

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桑田とパリ~表現の自由とは「権力」から自分が自由でいられること

■「権力」のフランス、「自由」のフランス

パリでの事件の後、フランスで巻き起こった大きなデモが話題を呼んでいる。諧謔的なイラスト表現を根幹とする新聞社で虐殺が行なわれたことは悲劇だが(ご冥福を祈ります)、そこに300万人とも400万人とも言われる大群衆が集ったことについてさまざまな解説が行なわれた。

またそのデモの中に各国の首脳陣が含まれており、特にそこにイスラエルの首相がいたこと、あるいはもう少し意味を広くとり武器を持つ多くの国家権力の中枢がいたことから、このデモの欺瞞性を指摘するものもある。

今回の件でも明らかになっているが、「フランス」は常に二重の意味をもっている。それは、概念としてのフランスと、国家権力としてのフランス、というふたつの意味だ。

国家権力としてのフランスは、欧米価値観が支配する現代世界の中心の一つとして機能する。今回、各国首脳陣がデモの中に含まれていたのは、その世界中心国家の一つとしてのフランスを意味している。

一方、概念としてのフランスに、あの「自由」が含まれるようだ。特に今回は「表現の自由」と絡ませて論じられることが多かったが、日本で言われる表現の自由と、フランスで尊重される表現の自由liberte d'expression は根本的に違うことがわかった。

日本では、戦後は主として芸術表現の中で用いられることが多かった表現の自由だが、フランスではどうやらもっと「市民が勝ち取った根源的な武器」として使用されるようだ。

■「moi」が「moi」であること

その自由は、まずは権力(フーコー的幅広い意味〈規律権力や監視権力〉ではなく、「国家」「宗教」といった古典的意味)からの自由を指す。その背景には、国(王権)や宗教(教会)に縛られ続けてきた歴史があるだろう。それら権力に対して自由にモノを言える権利を主体的に勝ち取ってきたという歴史がそこにはある。

「主体的に」と書いたが、主体つまり「わたし/自分」を確立することでもヨーロッパでは長い時間が費やされている。それは主に哲学の分野であるが、主体の意味の是非はさておき、長い哲学的議論の後、カントによって「わたし」が意味づけられた結果「自分が自分である」ということの正当性が理論付けられたという背景もあるだろう。

だから、自分が自分であること、いちいち「moi(私はね)」と断ってから次に自分の意見を言うことは(たとえばこのブログなどは参考になりますalternativeway「表現の自由」)、僕も以前から不思議ではあったが、この頃は、「自分」の意味が確立するまでの長い長い歴史的背景と哲学的議論があるのだと思えるようになってきた。

表現の自由が侵害される・妨害されるとは、言い換えるとそうした「moi」が「moi」であることを妨害されるということだ。moiは容易にはmoiであることは許されない。moiは、長い歴史と議論と戦いを経て勝ち取った重要な概念で、その重要な概念は「フランス」という抽象概念によっても言い換えることができる。

このように、フランスとは「自由」の言い換えであり、だからこそ、国や宗教といった古典的権力によって踏み荒らされた「フランス」(という「自由」)を守るために、300万人も400万人も集まり、歩き、声を上げることができたのだと思う。

■「ジョンの魂」

日本では、紅白歌合戦で、サザンオールスターズが安倍政権を揶揄した歌を披露したことにより、極右デモのような動きが報じられている。

小さすぎる話で少し寂しくなるものの、桑田の行なったことは、権力から自分を自由にするという意味で、フランス的「表現の自由」であり、僕は全面的に賛同する。

そういえば昔、ジョン・レノンが暗殺されたあとで放送された(数年後だったかもしれない)ラジオで、桑田がジョンの名曲に合わせて、マイクの前でともに歌い続けた番組が僕は忘れられない。

選曲は「パワー・トゥ・ザ・ピープル」「ハッピー・クリスマス」「イマジン」「女は世界の奴隷か」「ハッピネス・イズ・ア・ウォーム・ガン」等、あまりにもジョン・レノンらしい名曲を次から次へとかけていき、画期的だったのは、ジョンの曲より、スタジオで桑田が絶叫する「パワー・トゥ・ザ・ピープル!」の歌声のほうが大きく、自分をそのジョンの曲に投影しきっていたことだ。

あれから20年以上たち、桑田は独特のスタンスを崩してはいないものの、今回の紅白歌合戦の件では、やはり彼は「ジョンの魂」を失った人ではなかったと感心した。

桑田は、現政権に対して違和感を抱いており、それをNHK年末の看板番組で表現せざるをえなかった。桑田という「自分」を、国という権力からは斜めに置き、そこから平和とハイライト(極右)を桑田の言葉でどうしても語りたかったようだ。これこそが表現の自由だと思う。

これを批判する人々は、権力から自由であるどころか、権力と密接につながっているという意味で、自分を賭けてはいない。自分を賭けること、それが表現の自由であり、権力から自分が自由でいられることだ。

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発火事故2年 「じゃじゃ馬」787乗りこなすJALの苦心

発火事故2年 「じゃじゃ馬」787乗りこなすJALの苦心

米ボーイングの最新鋭旅客機「787型機」。機体に炭素繊維を多用し燃費を飛躍的に改善させたほか、客室の湿度を保ち窓も大きくするなど居住性も高め、時代を担う新型機という期待を一身に集めて登場した。だが、2011年末の初就航からわずか1年後の13年1月にリチウムイオン電池の発火事故を相次いで起こし、4カ月以上にわたって世界中で運航停止に陥るという大失態を演じてしまった。それから約2年。787の信頼回復に取り組む現場での地道な取り組みを追った。

■密閉されたバッテリー

 14年も残りわずかとなった12月上旬の東京・羽田空港。日本航空(JAL)の格納庫では、鶴丸ペイントの787が機体のあちこちをむき出しにした状態でたたずんでいた。12年3月に営業運航を開始した787初号機が初の「重整備」を受けているのだ。

重整備を受ける日本航空のボーイング787型機(2014年12月、東京・羽田空港)

重整備を受ける日本航空のボーイング787型機(2014年12月、東京・羽田空港)

点検・整備が機体の複数箇所で同時並行で進む。あちこちのカバーや点検口も開いた状態だ

点検・整備が機体の複数箇所で同時並行で進む。あちこちのカバーや点検口も開いた状態だ

垂直尾翼に付いている方向舵の機構を点検するため、鶴丸のロゴマークの部分が開いている

垂直尾翼に付いている方向舵の機構を点検するため、鶴丸のロゴマークの部分が開いている

 重整備とはおおむね1年半~2年ごとに数週間程度、営業運航のローテーションから外れて機体全体の点検・整備や場合によっては改修を行うもの。いわば飛行機の「車検」といえる。

 機体最前部の下部にある点検口から機内に入り込んでみると、普段乗客として乗り込む客室の下に、多数のコンピューターや配線がびっしりと並ぶサーバールームのような小部屋がある。その一角に787のメーンバッテリーが鎮座していた。

 この日の重整備では、メーンバッテリーの点検作業を進めていた。バッテリー全体をすっぽり覆い密閉しているステンレス製のケースを外す。中を見ると青い箱が見える。これがメーンバッテリーだ。13年の発火事故を受け、もともとあったユニットの青い箱を丸ごと格納し密閉する、ステンレスのケースを追加した。

ボーイング787型機のメーンバッテリー。発火事故の再発防止策として、ユニット全体を密閉し酸素を遮断するステンレス製のカバーを設けている

ボーイング787型機のメーンバッテリー。発火事故の再発防止策として、ユニット全体を密閉し酸素を遮断するステンレス製のカバーを設けている

ステンレス製のカバーを外すと、青く塗装されたバッテリーユニットが姿を現す。この中にバッテリー本体(セル)が8個内蔵されている

ステンレス製のカバーを外すと、青く塗装されたバッテリーユニットが姿を現す。この中にバッテリー本体(セル)が8個内蔵されている

 このケースからは排気のための配管が延びている。ユニット内部のリチウムイオン電池が異常発熱すると内部に入っている電解液が気化して膨張する可能性がある。気化した電解液は可燃性で、高温の状態で機内の空気と混ざると発火の危険があるため、これも発火事故後に機体下部の排気口から外に逃がすための配管を新設した。配管の途中にはインジケーターがあり、ケースの内圧が高まるとインジケーターの赤い表示が飛び出る仕組みだ。

万一バッテリーが異常発熱して気化した電解液が噴き出しても、発火することなく機外に排出できるよう専用の配管と排気口を新設した

万一バッテリーが異常発熱して気化した電解液が噴き出しても、発火することなく機外に排出できるよう専用の配管と排気口を新設した

バッテリーユニットの脇にはステンレス製カバー内部の気圧を示すインジケーターがある。気化した電解液の噴出などで圧力が上がると、中央の赤いリングが飛び出す

バッテリーユニットの脇にはステンレス製カバー内部の気圧を示すインジケーターがある。気化した電解液の噴出などで圧力が上がると、中央の赤いリングが飛び出す

■飛行そのものに問題なし

 問題となった発火事故ではバッテリーが黒焦げになるほど激しく損傷していた。その後の事故調査でも、なぜ発火したかという根本原因は特定できていない。

 そこでボーイングでは原因として考えうるものを全て洗い出し可能性のある80項目をリストアップ。(1)バッテリー本体(セル)を発火しにくくする(2)セルが発火しても隣のセルに広がるのを防ぐ(3)複数のセルが発火しても電解液の機外への排出や酸素の遮断によりすぐ鎮火しバッテリー以外の機器に影響が及ぶのを防ぐ――という3段階で80項目を網羅的にカバーする対策を取った。

 今回の重整備で見えたステンレスケースや電解液を排出するための配管は、これらの対策として追加された部分だ。

 14年1月に、成田空港に駐機していたJALの787で再びバッテリーの過熱・発煙があった。8個あるセルの1つが過熱し電解液が噴出したが、他のセルには影響なく電解液はきちんと排気口から排出した。国土交通省も「対策が適切に機能し安全運航に必要な機能は維持されていた」と改修の有効性を認めている。

 787はバッテリーユニットを2つ搭載している。メーンバッテリーは、運航計器や操縦システム、客室内の照明をはじめ、機内で使う設備のほとんどに電気を供給する能力を持つ。だが、飛行時は通常エンジンに併設されている発電機からの電力供給ですべてをまかなえるため、そもそもメーンバッテリーを使う必要がない。

 メーンバッテリーが活躍するのは、もっぱら給油中など地上滞在時だけだ。何らかのトラブルで飛行中にエンジンからの電源供給が途絶えた場合のバックアップの役割もするが、通常エンジンの次に補助動力装置(APU)がバックアップする。メーンバッテリーはその次の、あくまで3番手の押さえの役割だ。そのため、飛行中にバッテリーが発火するような事態が発生しても、火が外部に燃え移らない限りは問題なく飛行を継続できる。なお、もう1基のAPUバッテリーは、地上滞在中や緊急時の電源としてAPUを使う際、始動用モーターを回す役割を担う。

■たゆまぬ改善

 点検作業では、ケース内部に収められたバッテリーユニットの外観に異状がないか目視で確認しつつ、点検用端子にケーブルをつなぐ。ケーブルの先にあるのは急速放電器だ。バッテリーを完全放電し、次いでフル充電させる。こうした充放電の作業中や終了後に、電圧・電流や容量などが所定の基準値内に収まっているか否かを確認するのだ。

点検のため、メーンバッテリーを覆うステンレス製のカバーを取り外す整備士

点検のため、メーンバッテリーを覆うステンレス製のカバーを取り外す整備士

バッテリーの点検で使う急速放電器。放電しながら出力電圧・電流や残容量などをモニタリングしている

バッテリーの点検で使う急速放電器。放電しながら出力電圧・電流や残容量などをモニタリングしている

バッテリーの状態は、操縦室のディスプレーで常時確認できる

バッテリーの状態は、操縦室のディスプレーで常時確認できる

画面右下の「MAIN BAT」「APU BAT」が2つのバッテリーの状態。電圧と電流、充放電の状況などが分かる

画面右下の「MAIN BAT」「APU BAT」が2つのバッテリーの状態。電圧と電流、充放電の状況などが分かる

 APUバッテリーは数日前に成田空港で新品と交換しメーカーに送付している。「運航再開以来1年半ほど使い込んだバッテリーの状態を確認し、経年劣化の状況などを検証する予定だ」(JALエンジニアリング第1機体技術課の藤城慎治課長)。使い込んだバッテリーの検証により根本的な発火原因を究明できればさらに安全性を高められる。

 重整備で点検するのはバッテリーだけではない。構造、エンジン・操舵(そうだ)、客室、電装・計器、塗装など担当分野ごとに分かれた整備士のチームが、それぞれ機体のあちこちで点検・整備や改修を同時並行で進めている。

 機体前部にあるビジネスクラスの客室内に入ると、普段は整然と並べられている座席が取り外され、床板が開いた状態になっている。床下の骨組みに緑色の補強用部品を組み付けて固定する作業を進めていた。「一般に座席は床面に前後方向に走っているレールの上に固定される。今回の改修では、このレールを床下から支える部分の骨組みを補強している」(JALエンジニアリング構造技術課の松丸昌徳課長)

ビジネスクラスの客室では、床下を補強するため一部座席(左奥)を取り外して床板もはがしている

ビジネスクラスの客室では、床下を補強するため一部座席(左奥)を取り外して床板もはがしている

床下をむき出しにして、骨組みの部分に補強材(手で持っている緑色の部品)を組み付けていく

床下をむき出しにして、骨組みの部分に補強材(手で持っている緑色の部品)を組み付けていく

787をはじめ旅客機の客室床面には座席を設置するレールが敷いてある。今回の改修ではこのレールの下部を補強した

787をはじめ旅客機の客室床面には座席を設置するレールが敷いてある。今回の改修ではこのレールの下部を補強した

床下に補強材を取り付ける作業の手順を示した指示書。手順はボーイングが厳格に定めており、1つの作業だけでこの分厚さになる

床下に補強材を取り付ける作業の手順を示した指示書。手順はボーイングが厳格に定めており、1つの作業だけでこの分厚さになる

 こうした改修は、ボーイングからの指示書に基づいて進められる。ボーイングは787を運航する各航空会社からの報告を基に、改修が必要な場合は指示書を作成し補強用部品とともに各航空会社へ送る。どの航空会社の整備士が作業しても所望の強度を確保できるよう手順を厳格に定めており、1つの改修でも指示書は辞書のように分厚くなる。

 他にもエンジンや主脚の点検、プロペラの回転により非常時に電力と油圧を確保できるラムエア・タービンの点検、客室内の酸素マスクを遠隔制御する回路の修繕などを進めていた。

■一体成型で点検作業は10分の1

機体中央下部にあるラムエア・タービンのプロペラ。飛行中にエンジンやAPUが機能停止した際に出され、風力で電気系統や油圧系統を機能させる

機体中央下部にあるラムエア・タービンのプロペラ。飛行中にエンジンやAPUが機能停止した際に出され、風力で電気系統や油圧系統を機能させる

 787の重整備は従来機より期間が短くなり、点検項目も格段に減っている。

 ボーイング747は点検項目が3万に上り、1カ月ほどかけて機体を完全に分解して、胴体の金属疲労をくまなく調べていた。そのため、格納庫のスペースや整備士のやり繰りの問題から、中国など海外の整備専門会社に委託することも多かった。

 それに対し、787では点検項目が約3000まで減少し、重整備の所要時間は2週間程度まで短縮されている。「往復に数日かけて海外の整備会社へ委託しなくてよくなり、自社で重整備できる比率が高まるだろう」(JAL執行役員整備本部長の赤坂祐二氏)

点検を受けるボーイング787型機のエンジン。日本航空が採用する米ゼネラル・エレクトリック(GE)製エンジンにある不具合は近く解消できる見通しという

点検を受けるボーイング787型機のエンジン。日本航空が採用する米ゼネラル・エレクトリック(GE)製エンジンにある不具合は近く解消できる見通しという

 項目を減らせた要因は、整備ノウハウの蓄積に加え炭素繊維の大規模採用が大きい。787の構造部材として広く使っている炭素繊維強化プラスチック(CRFP)は、従来の主流だったアルミニウム合金より引っ張り強度や弾性率が高く頑丈である。さらに787では直径約6メートルの胴体を一体成型しているため、多数の外板や骨組みをリベットで組み合わせる作り方より強度上の弱点となる継ぎ目が大幅に少ない。金属と違ってさびや変形も発生せず点検を大幅に減らせるのだ。

 ボーイングと航空会社との連携体制が広がっている点も工数減につながる。「昔は構造部の強いところ弱いところといったデータの蓄積がなく、重整備では全てに一様の手間を掛けていた。だが、航空会社からのフィードバックで弱くなりやすい部分のデータがボーイングに集まりやすくなったことで、重点的に点検すべき部分がわかり効率化できている」(松丸課長)

 同じ点検でも、従来機より工数が少なくなっている部分がある。胴体に垂直尾翼を固定する巨大なボルトが適切に締まっているかを、ボルトに付属するひずみ計で自動計測する仕組みを採用。ひずみ計に付けられた2次元コードを読み取るだけでデータを確認でき、尾翼内部の狭いスペースで作業する手間を大幅に減らしている。

垂直尾翼を点検するには、機体後部の点検口から整備士が中に入っていく。中は巨大な空洞になっており、重整備の際は作業しやすいよう内部に仮設の足場を組む

垂直尾翼を点検するには、機体後部の点検口から整備士が中に入っていく。中は巨大な空洞になっており、重整備の際は作業しやすいよう内部に仮設の足場を組む

点検口の内部。手前の白い板は水平尾翼、中央の可動部は水平尾翼の上下方向の傾きを調整するためのものだ。仮設足場の奥の黒い部分は圧力隔壁

点検口の内部。手前の白い板は水平尾翼、中央の可動部は水平尾翼の上下方向の傾きを調整するためのものだ。仮設足場の奥の黒い部分は圧力隔壁

垂直尾翼と胴体をつなぐボルトのひずみを計測する測定器。巨大なボルトを締め直すなどの手間なく、ひずみのデータから異常の有無を簡単に確認できる

垂直尾翼と胴体をつなぐボルトのひずみを計測する測定器。巨大なボルトを締め直すなどの手間なく、ひずみのデータから異常の有無を簡単に確認できる

垂直尾翼を支えるボルトの1つ(中央)。頭部に2次元バーコードが付いており、ひずみの大きさを専用の測定器で計測できる

垂直尾翼を支えるボルトの1つ(中央)。頭部に2次元バーコードが付いており、ひずみの大きさを専用の測定器で計測できる

■トラブルが半分以下に

 期待が高かった787型機だが、これまで逆風の連続だった。機体の設計に手間取り最初の納入が3年以上ずれこんだあげくにバッテリーの発火事故が発生。米ゼネラル・エレクトリック(GE)製エンジンは着氷でエンジン停止の恐れがあるとして、飛行経路や高度に制限を設けたり運用路線を変更したりといった制約が生じている。

 初期不良による機材トラブルで引き返しや欠航、遅れなどが発生するのは、ある程度までは新機種の宿命だ。それでも「個人的には787は若干『じゃじゃ馬』だと感じたときもあった」(藤城課長)

JALのボーイング787型機はこれまで旧型ビジネスクラスだったが、14年12月以降納入の機体は新座席を採用。ビジネスはフルフラットになり、エコノミーも座席の幅や奥行きが広がった

JALのボーイング787型機はこれまで旧型ビジネスクラスだったが、14年12月以降納入の機体は新座席を採用。ビジネスはフルフラットになり、エコノミーも座席の幅や奥行きが広がった

 その一方で、明るい兆しも見えている。一時期は月10件近くに上っていた機材トラブルによる遅れなどが、ここ数カ月は月3~4件まで減ってきている。導入機数が増え機材のやり繰りがしやすくなったことも背景の1つだが、導入から約3年で初期不良が落ち着きつつあるといえる。

 JALでは14年12月、フルフラットのビジネスクラスや奥行きの広いエコノミークラスなど内装を一新した787を導入し、基幹路線の成田-ニューヨーク線などで運航を始めている。上述のGE製エンジンの制約も、近くソフトウエアの更新で解決する見込みだ。

 ボーイングや航空会社の手を焼かせる「じゃじゃ馬」だった787。ようやく見えてきた明るいムードを持続させ、本来の特徴である燃費の良さや客室空間の快適さで愛される飛行機に成長していけるか。現場の整備士をはじめ、関係者の地道な努力はまだまだ続きそうだ。

 すべての「現場」には、それを支える技術が存在している。それは、企業活動に限らず、人々の日常生活や消費シーンでも同様だ。どこで、どんな最先端技術が使われ、それが世の中をどう変えているのか……。この連載では、日経記者が話題の現場の裏側を取材、技術が活躍している最前線を報告する。

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スカイマークはなぜANAへ出資要請を検討するのか

スカイマークはなぜANAへ出資要請を検討するのか

スカイマーク(SKY/BC、9204)は1月に入り、全日本空輸(ANA/NH)を傘下に持つANAホールディングス(9202)に対して、出資を要請する検討を始めた。監督官庁である国土交通省も、SKY側がANAに要請すれば認める意向だ。

ANAへの出資要請の検討を始めたスカイマーク=14年6月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 読売新聞が9日夕刊でこの件を報じた際、SKYは「検討に入った事実はなく、決定した事実もない」と否定。同社幹部はAviation Wireに「コードシェアについて検討を要請しているが、出資要請は一言も言っていない」と説明していた。

 しかし、10日までに複数の関係者がAviation Wireの取材に対し、SKYが出資要請を検討していることを明らかにした。

 10日に発表となった12月の利用実績は、搭乗者数が2カ月連続で前年同月を下回り、ロードファクター(座席利用率)も12月の数字としては、2005年以来9年ぶりに50%台に落ち込むなど、状況の厳しさが浮き彫りになった。

 日本航空(JAL/JL、9201)やANAとのコードシェア提携の話題から一転、SKYはなぜ、ANAへ出資要請の検討を始めなければならないのだろうか。

どうなる経営陣

 SKYは2014年11月、JALに対してコードシェアによる経営支援を求めた。JALは財務体質が芳しくないSKYへの出資は、リスクになると判断。当初から出資は視野になく、コードシェアの検討に落ち着いた。

独立経営を目指すスカイマークの西久保社長=14年7月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 ところが、JAL単独による支援に官邸が難色を示したことから、SKYの西久保愼一社長は12月15日、ANAホールディングスの幹部と面会。提携を打診した。

 関係者によると、「年末の時点では、2月か3月にJALとANA両社とのコードシェア提携で着地を予想していた」という。しかし、年末年始をはさみ、SKYはANAへ出資を要請する検討に入った。ANA側の出資比率は、20%以下を想定しているとみられる。

 一方で、西久保社長は独立経営に強いこだわりがある。SKY幹部は「(ANAから)役員を変えろと言われたこともない」と話すが、企業再生の一般的な姿として、出資する企業から新経営陣が送り込まれる可能性が高い。

 このため、仮にANAが出資に向けて動き出したとしても、西久保社長の進退をはじめ、経営体制などで交渉が長引くことも考えられる。

羽田路線の不調響く

 では、なぜSKYは1月に入り、ANAに出資を要請する検討を始めたのか。理由の一つとして、12月の利用実績が芳しくなかったことと関係があるとみられる。

羽田路線の不調が響いたスカイマーク=14年5月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 12月の搭乗者数は2カ月連続で前年同月を下回る5.7%減の47万4694人。一方、提供座席数は4.2%増の87万4212席だった。この結果、ロードファクターが54.5%と前年同月を5.6ポイント下回った。

 全路線平均のロードファクターが50%台に落ち込んだのは、2014年1月の57.9%以来11カ月ぶり。12月の数字としては、2005年の51.4%以来9年ぶりに50%台を記録した。

 ANAやJALなどのフルサービス航空会社の場合、損益分岐点となるロードファクターは75%前後と言われており、コストを抑えている場合は80%以上が望ましいとされる。

 一方、2004年から2014年までの10年間で、12月としてもっとも高い値となったのは2010年の78.5%。前月の同年11月には、総2階建ての超大型機エアバスA380型機の導入について、SKYとエアバスは基本合意書を締結している。

 そして、基本合意から3カ月後の2011年2月にA380を4機発注し、同年6月にはオプション(仮発注)だった2機も正式発注に切り替えた。SKYは2012年3月期まで、過去最高益を3期連続で更新しており、絶好調の中でのA380発注だったと言える。

 12月のロードファクターが低迷していた9年前の2005年ごろは、西久保社長が2003年に就任後、中型機ボーイング767-300型機と小型機737-800型機の2機種体制から、数年がかりで737に統一を進めていた時期だ。737に機材を統一したのは2009年9月で、その後の快進撃につながっていく。

 2014年12月の利用実績を見ると、SKYの直行便23路線のうち、半数にあたる12路線のロードファクターは50%未満。35.5%だった神戸-鹿児島線など、40%に満たない路線も4路線あった。

 しかし、地方路線はもともとロードファクターが低い。より深刻だったのは、羽田発着5路線のうち、札幌線と神戸線、福岡線のロードファクターは60%を超えたが、これまでのように70%以上をたたき出した路線はゼロだった。

 SKYは利益の8割を羽田路線が生み出しており、これまでは羽田路線の大半が70%台、好調であれば90%台のロードファクターを達成することで、地方路線の収益をまかなっていた。

 これが今回、従来はコンスタントに80%前後の値を出していた、稼ぎ頭の札幌線を含めて不調だったことで、全体の平均値を引き下げる結果につながった。

不振続くA330路線

 「良いシートを安く提供する」という西久保社長の判断で2014年6月から導入した、エアバスA330-300型機(271席)も、頭の痛い存在だ。

ゆったりとしたグリーンシートを売りにするスカイマークのA330=14年3月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 全席に座席幅が広い「グリーンシート」を備えたA330で運航する羽田-福岡線は、提供座席数は35.8%増の16万3639席と大幅に増加。一方、搭乗者数は10.0%増の10万3781人にとどまり、ロードファクターが63.4%(前年同月比14.9ポイント低下)と振るわない。

 羽田-福岡線の利用実績を見ると、6月のA330就航から12月までで、提供座席数の前年同月比の伸び率を、搭乗者数の伸び率が上回ったのは8月のみ。つまり、お盆休みで混む8月以外は、供給過剰な状態が続いている。

 A330は10機すべてをリース導入する計画で、現在5機が就航済み。SKYは現時点でA330を計画通り導入する予定だが、ANAが出資するとなると機材計画も見直しになる可能性がある。

 ANAは2014年7月、エアバスに小型機A321neoを23機、A320neoを7機を発注している。SKYとしては、エアバスとの7億ドル(約839億円)と言われる違約金の交渉が優位に進めばとの思惑が、見え隠れする。

 A380の違約金交渉がANAと組むことで優位に進むとして、もしA330の導入機数を見直すとなれば、新たな問題が発生する恐れがある。これまで違約金交渉で名前が挙がらなかった、エンジンメーカーのロールス・ロイスも名乗り出ることが考えられるからだ。SKYはA380とA330のエンジンメーカーとして、ロールス・ロイスを選定している。

 A330の活用策として、日本人に人気のハワイなど国際線の中距離路線への投入案もささやかれる。しかし、SKYの2014年9月末時点の現預金残高は45億4900万円。2014年3月期末から25億1600万円減少している。売上の伸び悩みだけではなく、手元資金も厳しい状況が続いており、現状のままでは投資がかさむ勝負に出るのは厳しい。

 国内線の戦略機材として肝いりで導入したA330を、今後どう活用していくのだろうか。

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 西久保社長は経営の独立を訴える。しかし外部から出資を受けるとなれば、経営陣の刷新など、本意ではない決定を下さざるを得ないことになる可能性がある。

 これまでの新規航空会社の再建では、エア・ドゥ(ADO/HD)やスカイネットアジア航空(ソラシド エア、SNJ/6J)、スターフライヤー(SFJ/7G、9206)と、事実上ANA傘下に入ることで、再建を進めてきた。

 良くも悪くも、大手2社と距離を置くことに固執しなかったことで、3社は航空会社として生き延びている。SKYはエアバスとの違約金問題も、いまだに好転の兆しはない。

 土俵際に追い詰められたSKY。最後に残った第3極として、難しい判断が迫られる。

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