« 「要望を見抜く観察力が大事」 ANAHD片野坂社長インタビュー(下) | トップページ | 本当に老後資金は3000万円で足りますか? »

バーガー、日本はNYの6割 モノの値段を国際比較

バーガー、日本はNYの6割 モノの値段を国際比較 

 日本のビッグマックの価格はニューヨークの約6割──。円安が進み、円の購買力が低下している。海外に行けば物価高を実感、一方で訪日客は割安感を抱く。国際比較を通して、物価動向や為替を読むヒントを探る。

■「日本の家電は安い」

 8月から長期研究のため、日本から米カリフォルニア州へ家族と移り住んだ40代の大学教授。「オレンジジュースを買うのも尻込みしてしまう」と現地の物価水準に驚きを隠せない。スーパーでなるべく安い商品を選ぶ毎日だが、食費は妻と幼い子ども2人の計4人で1日15ドル(約1800円)は必要になる。「食材は1ドル=100円くらいが妥当な為替レートに感じる。通貨が安い国から来ると生活がかなり苦しい」と実感している。

 かつて「世界一高い」とされた東京の消費者物価。それが今では様変わりしている。日経ヴェリタスが世界主要都市の支局の協力を得て、国際展開する商品の販売価格を調べたところ、日本の日用品の物価が相対的に割安になっている実態がくっきり出る結果になった。

 例えばニコン(7731)のデジタルカメラでも主要機種の「D3300」。店頭価格はブラジルのサンパウロやトルコのイスタンブールと比べ大幅に低く、11都市で最も安かった。据え置き型ゲーム機「プレイステーション4」も把握できた都市の中ではシドニーに次いで安い。発売元のソニー・コンピュータエンタテインメントは「発売時には世界でほぼ同一の価格で買えることを念頭に価格設定している」というが、為替の円安進行や競争環境などを背景に店頭価格では日本の割安感が出ているようだ。

 日本を訪れる外国人旅行者は物価水準をどうみているのか。8月下旬、東京・銀座や東京・丸の内で25人の訪日旅行者に聞き取り調査をしてみると、家電製品や化粧品に特に割安感を抱いていることが分かった。

 中国から家族で訪れた10代女性は「日本の家電は安い。ラオックスでドライヤーや化粧品を買い込んだ」と大きな紙袋をみせてくれた。30代の中国人男性は「日本の物価は総じて安い。税が免除されるのも大きい」という。

 中国人だけではない。マレーシアから訪日した40代女性は、自動販売機で手軽に購入できる飲料について「便利に利用できるのにそれほど高くない」と驚いた様子で話す。4年前にも日本に来たというアラブ首長国連邦(UAE)出身の20代男性は「以前はもっと高い印象だったが、今回は高さを感じない。特に食料品は安くなった」という。

 欧米からの旅行者はなおさら日本の安さを実感している。2週間旅行したという20代の英国人カップルは「観光客向けの土産品を除けば日本で高いものはほとんどない。ロンドンのユニクロはもっと高いよ」と強調する。コロンビア出身で今はスペインに住む30代女性は「スペインではウイスキーの価格が高いと感じていたが、日本では安く買えるのがいい」と喜んでいた。

 逆に海外に出向いた日本人は物価の割高感を抱いている。およそ10年ぶりに出張でシンガポールを訪れた40代の会社員は「あまりの物価の高さに身がすくむ」と話す。飲料水や缶ビール、レストランでの食事など全てが「日本の常識とは桁違いに高い」。

 パリ中心部のスターバックスを訪れた日本人の女性観光客(29)は「日本でも高いイメージがあるが、パリではさらに値段が高い」とこぼす。個人旅行でほぼ毎年、ニューヨーク・マンハッタンを訪れる名古屋市在住の平岩恵理子さんは、定宿としているホテルの宿泊料が「年々上がっている。一昨年以降は滞在日数を9日から6日に縮めることにした」と残念がる。

 新興国では物価上昇率が日本に比べて高い。消費者物価指数(CPI)上昇率が前年比7~8%程度で推移するトルコ。イスタンブール駐在の日本人男性(49)は「年が明けたらビッグマックのセット価格が通常9.75リラ(約390円)から14.45リラ(約570円)に値上がりしていた」と嘆く。リラ相場の下落で物価上昇圧力も強まる。「近くビッグマックセットが20リラ(約790円)を超えるかもしれない」

 一方、ロシアはまだ割安感が残っているようだ。サンクトペテルブルクで自動車メーカーに勤める男性会社員(44)は「昨年後半からのルーブル安で電化製品は日本と値段が大して変わらなくなったので、モスクワで買うことにしている」と話す。モスクワに留学中の女子大生(22)は「マクドナルドは日本より安いのでありがたい。よく通っている」とうれしそうだ。

■日本、サービス価格は意外に高め おもてなし追求でコスト増

 観光客でごった返す8月下旬の銀座・中央通り。10代の中国人の女性観光客は「タクシーは高いね」と不満げだ。東京や京都を旅したという40代のスペイン人男性も「日本の交通費はなぜこんなに高いんだろう」と漏らす。銀座のほか東京駅周辺や東京・浜松町のはとバス乗り場でインタビューした訪日外国人客の多くが日本のサービス価格の高さを嘆いていた。

 日経ヴェリタスが実施した世界各都市の価格調査でも、食品や衣料品などモノの値段とは対照的に、サービス価格の高さが目立っている。行ける距離に違いはあるが、東京のタクシーの初乗り料金は730円で、パリの951円に次ぐ高さだ。観光都市イスタンブールの5倍を超える。

 「最近、出張で欧米やアジアを回ったが、どこも一流ホテルは手ごろな価格だった」と、日本の金融機関に勤める30代の男性はこう振り返る。世界の都市の中でも、日本のホテルの宿泊料金は比較的高い傾向にある。例えばヒルトンホテルで8月末にツインに1泊した場合の料金は、東京が4万4913円と最も高かった。一方、最も安いのはモスクワで1万2408円で、3.6倍の差が出ている。映画館の大人料金も、東京は1800円と10都市で2番目に高い結果だった。

 日本のサービスの価格はなぜ高いのか。エコノミストら専門家に聞くと、きめ細かな部分まで気を回し、顧客の満足度を最大限まで高める「おもてなし文化」がコスト増につながっていると見る。「最高レベルのおもてなしを提供するために、IT(情報技術)や機械を利用した省人化によるコスト削減が進んでいない」と大和総研の小林俊介エコノミストは分析する。

 東京の最低賃金は時給ベースで888円で、新興国よりも高いが、ニューヨークやパリなどに比べて安い。米国のホテルの受付などは、高い人件費を抑えるため人を減らして機械化を進めて、価格を下げる動きもある。

 サービス業での効率化の遅れは経済産業省のデータにも表れている。日本の非製造業の1時間当たりの労働生産性(2009年)は27.6ドルと、米国の51.2ドルから大きく引き離されている。ドイツ(44.8ドル)、フランス(39.0ドル)、英国(34.8ドル)と比較しても、日本の非製造業の生産性は低い。非製造業の生産効率の低さが、サービス価格の高さに跳ね返っている面がある。

円の「総合的な価値」過去最低水準に

 世界でモノの値段を見ると日本は安くなっている。円建てで見ると例えばビックマックはニューヨークでは645円(5.32ドル)に対し日本は360円前後だ。同じモノは同じ価格、との前提に立つと、1ドル=68円程度の為替レートであればほぼ同じ価値を実感できる。ただ実際は異次元緩和以降の円の過小評価が影響し、足元のレートは120円程度だ。モノの値段から見れば行き過ぎた円安水準にある、とも言える。

 「購買力平価などからみると120円はかなり円安。105円くらいが妥当」。浜田宏一内閣官房参与は4月、円の過小評価に警戒感を示した。

 浜田氏が例に挙げた購買力平価とは、物価の動向を踏まえた為替レートの考え方だ。モノの価格が上がれば、通貨の購買力は下がる。貨幣の購買力は物価上昇率に左右され、為替レートの変化は2国間の物価上昇率の差に等しくなる、とみなす。

 例えば物価上昇率が米国で2%、日本が1%であれば、通貨の価値は米国で2%、日本で1%下がったとみなせる。ドルと円でみれば物価上昇率の差となる1%分だけ円の価値が高まり、その分円高方向に動く。

 変動相場制に移行した1973年から購買力平価の推移を見ると、企業物価ベースで73年1月には262円40銭だったが、2012年10月には95円86銭まで円高・ドル安が進んだ。アベノミクス以降の円安・ドル高進行で、15年5月には99円91銭まで下落しているがそれでも普段ニュースで見聞きする名目為替レートとは2割も乖離(かいり)している。

 円の過小評価はなぜ起きているのか。背景にあるのは物価上昇率以外の要因だ。投機筋の円売りの加速や日本企業による積極的な海外投資などが影響している。

 海外から見て、日本の物価が安く映るもう1つの理由は長年続いたデフレにある。この状況は実質実効為替レートで説明できる。物価の違いを調整し、多くの国の通貨との関係で円の総合的な価値を示す指標で、デフレにより円は安くなる基調にあった。さらに日本企業の競争力が低下した影響や、2013年4月、日銀の異次元緩和でお金が多く出回った結果、ドルなどに対し円安が進んだ。2010年を100とすると、7月時点で69.07だった(日銀調べ)。1980年以降では最低水準にある。

 日本の実質国内総生産(GDP)は2014年で487兆円と、アベノミクス直前の12年と比べて2.5%増加したが、ドル建てでは12年比で28%も落ち込んでいる。ドルを持つ人から見れば日本の「国力」は低下したように映る。

 みずほ銀行の唐鎌大輔チーフマーケット・エコノミストは「円安は企業業績の押し上げに寄与するが、家計をむしばんでいる」と指摘する。4~6月期のGDPは3四半期ぶりのマイナス成長だったが、主因は個人消費の悪化だ。円相場がこの間、125円台まで下落し、輸入物価の上昇に合わせた食料品などの値上がりで、実質な所得が落ち込んだ。

 モノの値段の国際比較で分かったのは東京の価格が世界的に見てかなり安く、背景に円の過小評価があるということだ。みずほの唐鎌氏は「購買力平価と名目為替レートが2割も乖離しているのは異常な状態で、過去の例を鑑みるといずれ円高方向への水準訂正の動きがありそうだ」とみている。

|

« 「要望を見抜く観察力が大事」 ANAHD片野坂社長インタビュー(下) | トップページ | 本当に老後資金は3000万円で足りますか? »

経済」カテゴリの記事