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MRJ「製造中止まっぴらごめん」 ANAHD片野坂社長インタビュー(中)

MRJ「製造中止まっぴらごめん」 ANAHD片野坂社長インタビュー(中)

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 4月1日にANAホールディングス(9202)の社長に就任した片野坂真哉氏。全3回となる片野坂社長への単独インタビュー第2回は、三菱航空機が10日に初飛行の遅れを発表した、リージョナルジェット機「MRJ」やコスト削減について。

 ANAHDはMRJのローンチカスタマーで、確定発注15機とオプション10機の計25機を発注済み。初号機の引き渡しは2017年4-6月期となる見通しで、飛行試験機の5号機にはANAカラーが施される。

4月からグループを率いるANAホールディングスの片野坂真哉社長=4月16日 PHOTO: Tatsuyuki TAYAMA/Aviation Wire

*サービスや求める人物像などについて聞いた下編はこちら
*国際線の空白地帯への進出や、国内線の戦略、2社あるLCCを統合するかを聞いた上編はこちら

─ 記事の概要 ─
二度あることは三度あるが“四”はない
スタッフ自らの工夫でコスト削減

二度あることは三度あるが“四”はない

──MRJのスケジュールが見直しになり、初飛行が9-10月期に延期となった。デリバリースケジュールはそのままだが、どのように感じているか。

MRJのデリバリー遅れは「ないと信じている」と語るANAホールディングスの片野坂社長=4月16日 PHOTO: Tatsuyuki TAYAMA/Aviation Wire

片野坂社長:私どもにもきっちり説明があった。「(2017年4-6月期の)デリバリーは遅らせません。初飛行を確実なものにするために、エンジンをはじめとする準備をしっかりしたものにするためです」というもので、納得している。

 一番大事なことはデリバリーだ。今まで3回遅れている。このことで、代わりの小型機を購入しており、私たちは負担がある。今回、デリバリー遅れはないと信じている。

 「二度あることは三度ある」と言うが、だから三度あった。「四」ということわざはないので、4回目はないだろう。

 一方で、ボーイング787は7回遅れた。「例外のないルールはない」ということで、楽観はしない。7回、8回というのは論外だ。

 MRJは三菱航空機と三菱重工業が総力を挙げて取り組んでいるが、私たちも運航や整備のノウハウを提供し、「ワーキングトゥギャザー」として、一緒にやっている。私たち自身も応援しているし、一心同体だ。

 いま希望するのは、もっと世界的に売れて欲しい。どんどん売れていくことで利益が出るし、使っている方も製造中止になるのは、まっぴらごめんだ。

スタッフ自らの工夫でコスト削減

──コスト削減を進めているが、副社長から社長になり、ユニットコスト8.5円実現への課題をどう捉えているか。

片野坂社長:コスト削減は非常に効果を生んだ。確実に収益を押し上げる。翌年以降も永続的に効果が出るのが大きい。

 2011年のユニットコストは10円で、ライバルと2円の差があった。2円の差は2000億円と認識して、聖域なく全分野で取り組んだ。2011年度から2014年度で約1000億円、約1円の効果を生んだ。残り2年、2015年度と2016年度を500億円とすると0.5円で、8.5円になる。

 これまでの手応えでは実現していくだろうし、実現していかなければならない。どういうことをやっているかというと、インターネット時代になったので流通コストを下げたり、運航乗務員も着陸の時にリバーサー(逆噴射装置)を使わないなど、安全を守りながらのコスト削減策は山ほどある。

 大きなところで我々経営陣は、燃費の良い飛行機を買った。787は767と比べて20%近く燃費を節減できる。

 トヨタさんのように、現場からコスト削減を考える風土になればしめたもの。社長になってアングルが変わったかというと、フロントラインのスタッフ自身の工夫でコスト削減する流れになってきているので、頼もしく思っている。

 コスト削減というと、どうしてもやらされ感だったり、乾いたぞうきんを絞るようなイメージがある。ある会社では、工場が休みの時に自動販売機の電源を切っている。こういうことを私たちはやってない。多くの事業所は24時間、空港などは365日稼働だから、なかなか思いつかない。コスト削減に知恵を絞っている人は、そこまで考えている。

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「データにとらわれず、世界を読む」 ANAHD片野坂社長インタビュー(上)

「データにとらわれず、世界を読む」 ANAHD片野坂社長インタビュー(上)

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 国内の航空会社では最大の連結売上高1兆7000億円を誇る、ANAホールディングス(9202)。10年後の2025年度には、連結で売上高2兆5000億円、営業利益2000億円規模を目指す。

 4月1日、6年間グループを率いた前社長の伊東信一郎会長(64)からバトンを受け取ったのは、片野坂真哉社長(59)。鹿児島県生まれの片野坂社長は、東京大学法学部を卒業後、全日本空輸(ANA/NH)に入社し、マーケティング室レベニューマネジメント部長や人事部長、常務取締役執行役員、専務取締役執行役員を歴任した。2013年4月1日の持ち株会社制移行時に発足したANAHDの代表取締役副社長執行役員に就き、グループの人財戦略と経営戦略を担ってきた。

4月からANAグループを率いるANAホールディングスの片野坂真哉社長=4月16日 PHOTO: Tatsuyuki TAYAMA/Aviation Wire

 羽田の格納庫で1日に開かれた入社式の寄せ書きでは、「次は宇宙へ」と記した片野坂社長。国際線と国内線の戦略や、2社あるLCC(低コスト航空会社)の目指す方向、ローンチカスタマーとなった三菱航空機のリージョナルジェット機「MRJ」の開発スケジュール見直しへの思い、求める人物像など、ANAグループが目指す姿について、単独インタビューに応じた。

 インタビュー第1回は、国際線や国内線、LCCについて。国際線の空白地帯への進出や、国内線の戦略、2社あるLCCを統合するのかなどを聞いた。

*サービスや求める人物像などについて聞いた下編はこちら
*初飛行の遅れが発表されたMRJやコスト削減について聞いた中編はこちら

─ 記事の概要 ─
世界の動きを読み、アジアと地方つなげる
LCCは中距離リゾート

世界の動きを読み、アジアと地方つなげる

──中期経営計画では、国際線について将来は中東・アフリカなど未就航の「空白地帯」へのネットワーク展開を検討するとあった。

南米やアフリカへの就航検討について「社員へのメッセージの意味が大きい」と語る片野坂社長=4月16日 PHOTO: Tatsuyuki TAYAMA/Aviation Wire

片野坂社長:長期戦略構想の社員向けパンフレットの中で、10年後について、南米やアフリカ、中央アジアをゾーンで示した。社員に熱意を持って取り組んでもらいたいという、メッセージとしての意味が大きい。

 社員に期待したいのは、過去の旅客数にとらわれず、政治や経済、貿易の動きを見て、ANAが成長する路線になるのかをしっかり予測する力を養って欲しい。過去のデータをパソコンで集計して、伸び率を掛けるようなものではなく、世界の動きに関心を持ち、読んでいくことだ。

 航空会社について私はいつも、「Just Flight」と言っている。鉄道のように線路を敷く必要もなく、メーカーのように海外に進出して工場を建設するわけでもない。航空会社は空港に飛んでいけばよく、2-3年努力してダメであればよそに移れる。だからこそ、チャレンジすれば良いという思いだ。

──国際線と比べて、国内線は成長が難しい。どういった戦略を考えているか。

片野坂社長:「国際線で生きる」というメッセージが、国内線を諦めると社員に間違って取られないようにしたい。国内線のシェア50%を維持することも示している。

 フルサービス航空会社であるANAブランドは、少子高齢化や新幹線の延伸で減っていくだろうが、LCCを伸ばしていく。フルサービスとLCCをトータルで見ると、国内需要は微増する計画になっている。

 どうやって伸ばしていくかだが、お客様のマーケティングをしっかりやっていく。いま地方創生という言葉がある。若い人がどうしても、就職や進学で行きがちだが、観光やレジャーでは日本津々浦々の観光名所に行くような路線だけではなく、ツアー造成も積極的にやっていく。グループのANA総合研究所では、地方が元気になるプログラムを応援する人材を派遣している。

 貨物では、沖縄貨物ハブがある。青森のリンゴなど全国の名産品を、沖縄ハブを使って香港や上海などアジアに運んでいる。人を運ぶだけではなく、物流としてアジアと地方を結ぶことが、国内線の底上げに必ずつながるので、力を入れていきたい。

LCCは中距離リゾート

──グループが持つLCCは、ピーチ・アビエーション(APJ/MM)とバニラエア(VNL/JW)の2社体制だ。何社が適当だと考えているか。

2社あるLCCについて「今後一緒になる可能性がないわけではない」と語る片野坂社長=4月16日 PHOTO: Tatsuyuki TAYAMA/Aviation Wire

片野坂社長:何社が良いという答えは持っていない。せいぜい統合しても間接コストが小さくなるくらいだからだ。2社とも間接人員が少ないので、そういう狙いはないのではないか。

 ピーチは持分法適用会社で、私たちが運賃やネットワークについて独占禁止法上口を出せない。自分たちの発想で自由に飛んでいて、いい感じだ。この売上は足もとで入っていない。

 バニラは100%子会社なので、経営について私たちも発言していくし、アドバイスもしている。長期戦略の(連結売上高)2兆5000億円の中で、LCCは大きな数字にしている。これは両社を合わせて、いまのような近距離ではなく、中距離リゾートに飛んでいる状態で、現在300億円のLCCが、2500億円くらいになっているような絵にしている。

 両社は同じ飛行機(エアバスA320型機)を使っているので、一緒になることもできる。LCCに期待しているのは、中距離リゾートに飛んで欲しい。太平洋にはハワイぐらいしかないので、実現するには中国や東南アジアを目指さなければならない。

 そうすると、日本から同じ方向に向かう会社が、今後一緒になる可能性がないわけではない。

 バニラは2015年度に黒字必達。数字的には利用率(ロードファクター)が90%近くなってきた。利用率が上がると単価が上がってきて収益性が高まる。レベニューマネジメントシステムをしっかりしたものにして、路線をマネジメントするスタッフも増強した。いまは良いすべり出しなので、期待している。

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パイロットにもっと操縦の訓練を=エアバス幹部

パイロットにもっと操縦の訓練を=エアバス幹部(ウオールストリートジャーナル
0413)
http://jp.wsj.com/articles/SB12553795185919473670004580577214161814160?mod=J
WSJ_EditorsPicks

【マドリード】欧州の航空機大手エアバス・グループの安全担当幹部は、操縦士の訓
練を世界中で改革すべきだと主張し、自動操縦に過度に依存する危険にかつてないほ
ど強い警告を発した。
エアバスの安全担当幹部で同社飛行試験部門の副社長を務めていたハリー・ネルソン
氏は、マドリードで11日開かれた操縦士労組代表の国際会議で講演し、抜本的な改革
を行って、最近軽視されがちな操縦のスキルを向上させるべきだと訴えた。
業界幹部の間に同氏と同様な考え方が広がっ...

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なぜタイ航空局は安全性を問題視されたのか 旺盛な訪日需要に影響も

国連の専門機関ICAO(国際民間航空機関)によるタイ航空局に対する「重大な安全上の懸念(SSC)」の指摘問題。その後、ICAOはタイ当局にSSCを指摘した。

3月に成田と関空へチャーター便を運航したタイのLCCノックスクート。タイ当局への安全性指摘のあおりを受け、定期便就航は延期に=15年3月

 この影響を受け、タイの航空会社は現在就航している定期便やチャーター便については運航を継続出来るものの、日本をはじめとするICAO加盟国への新規就航や、増便などのスケジュール変更、機材変更などが出来ない状況になった。

 フルサービス航空会社やLCC(低コスト航空会社)といったビジネスモデルによる差異はなく、タイの航空会社であれば等しく適用されるものだ。

 同様の事例では、ICAOは2009年にフィリピンの航空当局に対してSSCを指摘。2013年にSSC指定を解除した。この時も、日本路線の新設などに影響が出ている。

 はたして、今回の影響はいつまで続くのだろうか。

─ 記事の概要 ─
問題視された安全審査体制
訪日旅客数に影響も

問題視された安全審査体制

 ICAOが問題視しているのは、タイ当局の安全審査体制だ。航空会社が新路線の開設などを当局に申請した際、担当者が不十分な知識で審査をしており、ICAOが定める安全監査基準を満たしていないと判断した。現時点で大きな問題は発生していないが、今後も担当者が知識不足のまま前例踏襲による判断を続けていくことで、将来的な重大問題の発生につながる可能性を懸念しての判断とみられる。

 しかし、ICAOでは本件を公にはしていない。複数の関係者によると、ICAOはタイ当局に対してSSCを指摘しているが、公表までには90日程度の猶予が設けられるという。このため、90日以内にICAOに対して十分な改善策を示せれば、表面化する前にSSC指定は解除される。しかし、前出の関係者は「期限内にICAOを納得させるのは難しいのでは」との見方を示す。

 対するタイ当局は地元メディアに対し、ともすれば楽観的とも受け取れる発言をしている。

 その背景には、米国の場合はFAA(米国連邦航空局)の、欧州はEASA(欧州航空安全局)の意向が反映される傾向が強く、現時点ではどちらもタイ当局の安全性について、大きく取り上げていないことがある。ICAOは国際機関ではあるが、欧米については各当局がより強い影響力を持っていると言える。

 ICAOの判断を受け、日本の国土交通省航空局(JCAB)や、中国と韓国の航空当局はタイの航空会社に対して、新規就航などを認めない措置を取り始めている。欧米が動いていない現状から、タイ当局は影響が限定的だと受け止めているようだ。

訪日旅客数に影響も

 タイから日本へは、LCCを中心に新規就航が控えており、すでに影響が及び始めた。現在の計画からは、最低でも3カ月から6カ月程度ずれ込むとみられる。

 3月25日、タイのLCCのノックスクート・エアライン(NCT/XW)は、3月末までに予定していた成田-バンコク(ドンムアン)線の定期便就航を延期した。ICAOの判断を受け、JCABが認可を保留しているためだ。同社はタイ国際航空(THA/TG)系LCCのノックエア(NOK/DD)と、シンガポール航空(SIA/SQ)系LCCのスクート(SCO/TZ)が合弁で立ち上げた。ジャーマンウイングス(GWI/4U)の墜落事故など、LCCに対する不安の声が聞かれるが、本件はタイ当局側の問題に起因するものだ。

 2014年9月1日にバンコク(ドンムアン)から成田空港と関西空港へ就航したタイ・エアアジアX(TAX/XJ)は、今年5月1日から札幌-バンコク線を1日1往復で開設予定。LCC以外でも、エイチ・アイ・エス(HIS、9603)などが出資し、タイを拠点とするアジア アトランティック エアラインズ(AAQ/HB)が、今夏に日本へのチャーター便を計画している。これらの認可が下りるかは、現時点で明確になっていない。

 日本政府観光局(JNTO)の統計によると、タイからの訪日者数は、2013年は前年比74.0%増の年間45万3642人で、今年1月は前年同月比64.9%増の4万4800人と、大幅な増加傾向がみられる。今後の動向によっては、今年の訪日旅客数の伸びに影響が及びかねない。

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全日空、8年ぶり初任給上げ 16年4月から約5%

全日空、8年ぶり初任給上げ 16年4月から約5%

 全日本空輸は2016年4月、総合職(事務職・技術職)の初任給を引き上げる。上げ幅は約5%。同社が初任給を上げるのは8年ぶり。人手不足感が強まるなか、採用活動で商社や銀行など大手企業との競合例が増えているため。
 16年度に総合職の賃金制度を改定するのにあわせ実施する。大卒の場合、現行の20万1848円から21万2000円にする。院卒の初任給は公表していないが、大卒と同様に約5%上げるという。
 全日空が2日に発表した16年度の新卒採用計画では、総合職事務職は前年度計画比で5割増の30人程度、同技術職は8割増の45人程度を採用する。客室乗務員やパイロット訓練生の新卒については初任給を据え置く。
 大成建設や清水建設、鹿島など人手不足感が強まっている建設業界では今春から初任給を上げる企業が出ている。

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発火事故2年 「じゃじゃ馬」787乗りこなすJALの苦心

発火事故2年 「じゃじゃ馬」787乗りこなすJALの苦心

米ボーイングの最新鋭旅客機「787型機」。機体に炭素繊維を多用し燃費を飛躍的に改善させたほか、客室の湿度を保ち窓も大きくするなど居住性も高め、時代を担う新型機という期待を一身に集めて登場した。だが、2011年末の初就航からわずか1年後の13年1月にリチウムイオン電池の発火事故を相次いで起こし、4カ月以上にわたって世界中で運航停止に陥るという大失態を演じてしまった。それから約2年。787の信頼回復に取り組む現場での地道な取り組みを追った。

■密閉されたバッテリー

 14年も残りわずかとなった12月上旬の東京・羽田空港。日本航空(JAL)の格納庫では、鶴丸ペイントの787が機体のあちこちをむき出しにした状態でたたずんでいた。12年3月に営業運航を開始した787初号機が初の「重整備」を受けているのだ。

重整備を受ける日本航空のボーイング787型機(2014年12月、東京・羽田空港)

重整備を受ける日本航空のボーイング787型機(2014年12月、東京・羽田空港)

点検・整備が機体の複数箇所で同時並行で進む。あちこちのカバーや点検口も開いた状態だ

点検・整備が機体の複数箇所で同時並行で進む。あちこちのカバーや点検口も開いた状態だ

垂直尾翼に付いている方向舵の機構を点検するため、鶴丸のロゴマークの部分が開いている

垂直尾翼に付いている方向舵の機構を点検するため、鶴丸のロゴマークの部分が開いている

 重整備とはおおむね1年半~2年ごとに数週間程度、営業運航のローテーションから外れて機体全体の点検・整備や場合によっては改修を行うもの。いわば飛行機の「車検」といえる。

 機体最前部の下部にある点検口から機内に入り込んでみると、普段乗客として乗り込む客室の下に、多数のコンピューターや配線がびっしりと並ぶサーバールームのような小部屋がある。その一角に787のメーンバッテリーが鎮座していた。

 この日の重整備では、メーンバッテリーの点検作業を進めていた。バッテリー全体をすっぽり覆い密閉しているステンレス製のケースを外す。中を見ると青い箱が見える。これがメーンバッテリーだ。13年の発火事故を受け、もともとあったユニットの青い箱を丸ごと格納し密閉する、ステンレスのケースを追加した。

ボーイング787型機のメーンバッテリー。発火事故の再発防止策として、ユニット全体を密閉し酸素を遮断するステンレス製のカバーを設けている

ボーイング787型機のメーンバッテリー。発火事故の再発防止策として、ユニット全体を密閉し酸素を遮断するステンレス製のカバーを設けている

ステンレス製のカバーを外すと、青く塗装されたバッテリーユニットが姿を現す。この中にバッテリー本体(セル)が8個内蔵されている

ステンレス製のカバーを外すと、青く塗装されたバッテリーユニットが姿を現す。この中にバッテリー本体(セル)が8個内蔵されている

 このケースからは排気のための配管が延びている。ユニット内部のリチウムイオン電池が異常発熱すると内部に入っている電解液が気化して膨張する可能性がある。気化した電解液は可燃性で、高温の状態で機内の空気と混ざると発火の危険があるため、これも発火事故後に機体下部の排気口から外に逃がすための配管を新設した。配管の途中にはインジケーターがあり、ケースの内圧が高まるとインジケーターの赤い表示が飛び出る仕組みだ。

万一バッテリーが異常発熱して気化した電解液が噴き出しても、発火することなく機外に排出できるよう専用の配管と排気口を新設した

万一バッテリーが異常発熱して気化した電解液が噴き出しても、発火することなく機外に排出できるよう専用の配管と排気口を新設した

バッテリーユニットの脇にはステンレス製カバー内部の気圧を示すインジケーターがある。気化した電解液の噴出などで圧力が上がると、中央の赤いリングが飛び出す

バッテリーユニットの脇にはステンレス製カバー内部の気圧を示すインジケーターがある。気化した電解液の噴出などで圧力が上がると、中央の赤いリングが飛び出す

■飛行そのものに問題なし

 問題となった発火事故ではバッテリーが黒焦げになるほど激しく損傷していた。その後の事故調査でも、なぜ発火したかという根本原因は特定できていない。

 そこでボーイングでは原因として考えうるものを全て洗い出し可能性のある80項目をリストアップ。(1)バッテリー本体(セル)を発火しにくくする(2)セルが発火しても隣のセルに広がるのを防ぐ(3)複数のセルが発火しても電解液の機外への排出や酸素の遮断によりすぐ鎮火しバッテリー以外の機器に影響が及ぶのを防ぐ――という3段階で80項目を網羅的にカバーする対策を取った。

 今回の重整備で見えたステンレスケースや電解液を排出するための配管は、これらの対策として追加された部分だ。

 14年1月に、成田空港に駐機していたJALの787で再びバッテリーの過熱・発煙があった。8個あるセルの1つが過熱し電解液が噴出したが、他のセルには影響なく電解液はきちんと排気口から排出した。国土交通省も「対策が適切に機能し安全運航に必要な機能は維持されていた」と改修の有効性を認めている。

 787はバッテリーユニットを2つ搭載している。メーンバッテリーは、運航計器や操縦システム、客室内の照明をはじめ、機内で使う設備のほとんどに電気を供給する能力を持つ。だが、飛行時は通常エンジンに併設されている発電機からの電力供給ですべてをまかなえるため、そもそもメーンバッテリーを使う必要がない。

 メーンバッテリーが活躍するのは、もっぱら給油中など地上滞在時だけだ。何らかのトラブルで飛行中にエンジンからの電源供給が途絶えた場合のバックアップの役割もするが、通常エンジンの次に補助動力装置(APU)がバックアップする。メーンバッテリーはその次の、あくまで3番手の押さえの役割だ。そのため、飛行中にバッテリーが発火するような事態が発生しても、火が外部に燃え移らない限りは問題なく飛行を継続できる。なお、もう1基のAPUバッテリーは、地上滞在中や緊急時の電源としてAPUを使う際、始動用モーターを回す役割を担う。

■たゆまぬ改善

 点検作業では、ケース内部に収められたバッテリーユニットの外観に異状がないか目視で確認しつつ、点検用端子にケーブルをつなぐ。ケーブルの先にあるのは急速放電器だ。バッテリーを完全放電し、次いでフル充電させる。こうした充放電の作業中や終了後に、電圧・電流や容量などが所定の基準値内に収まっているか否かを確認するのだ。

点検のため、メーンバッテリーを覆うステンレス製のカバーを取り外す整備士

点検のため、メーンバッテリーを覆うステンレス製のカバーを取り外す整備士

バッテリーの点検で使う急速放電器。放電しながら出力電圧・電流や残容量などをモニタリングしている

バッテリーの点検で使う急速放電器。放電しながら出力電圧・電流や残容量などをモニタリングしている

バッテリーの状態は、操縦室のディスプレーで常時確認できる

バッテリーの状態は、操縦室のディスプレーで常時確認できる

画面右下の「MAIN BAT」「APU BAT」が2つのバッテリーの状態。電圧と電流、充放電の状況などが分かる

画面右下の「MAIN BAT」「APU BAT」が2つのバッテリーの状態。電圧と電流、充放電の状況などが分かる

 APUバッテリーは数日前に成田空港で新品と交換しメーカーに送付している。「運航再開以来1年半ほど使い込んだバッテリーの状態を確認し、経年劣化の状況などを検証する予定だ」(JALエンジニアリング第1機体技術課の藤城慎治課長)。使い込んだバッテリーの検証により根本的な発火原因を究明できればさらに安全性を高められる。

 重整備で点検するのはバッテリーだけではない。構造、エンジン・操舵(そうだ)、客室、電装・計器、塗装など担当分野ごとに分かれた整備士のチームが、それぞれ機体のあちこちで点検・整備や改修を同時並行で進めている。

 機体前部にあるビジネスクラスの客室内に入ると、普段は整然と並べられている座席が取り外され、床板が開いた状態になっている。床下の骨組みに緑色の補強用部品を組み付けて固定する作業を進めていた。「一般に座席は床面に前後方向に走っているレールの上に固定される。今回の改修では、このレールを床下から支える部分の骨組みを補強している」(JALエンジニアリング構造技術課の松丸昌徳課長)

ビジネスクラスの客室では、床下を補強するため一部座席(左奥)を取り外して床板もはがしている

ビジネスクラスの客室では、床下を補強するため一部座席(左奥)を取り外して床板もはがしている

床下をむき出しにして、骨組みの部分に補強材(手で持っている緑色の部品)を組み付けていく

床下をむき出しにして、骨組みの部分に補強材(手で持っている緑色の部品)を組み付けていく

787をはじめ旅客機の客室床面には座席を設置するレールが敷いてある。今回の改修ではこのレールの下部を補強した

787をはじめ旅客機の客室床面には座席を設置するレールが敷いてある。今回の改修ではこのレールの下部を補強した

床下に補強材を取り付ける作業の手順を示した指示書。手順はボーイングが厳格に定めており、1つの作業だけでこの分厚さになる

床下に補強材を取り付ける作業の手順を示した指示書。手順はボーイングが厳格に定めており、1つの作業だけでこの分厚さになる

 こうした改修は、ボーイングからの指示書に基づいて進められる。ボーイングは787を運航する各航空会社からの報告を基に、改修が必要な場合は指示書を作成し補強用部品とともに各航空会社へ送る。どの航空会社の整備士が作業しても所望の強度を確保できるよう手順を厳格に定めており、1つの改修でも指示書は辞書のように分厚くなる。

 他にもエンジンや主脚の点検、プロペラの回転により非常時に電力と油圧を確保できるラムエア・タービンの点検、客室内の酸素マスクを遠隔制御する回路の修繕などを進めていた。

■一体成型で点検作業は10分の1

機体中央下部にあるラムエア・タービンのプロペラ。飛行中にエンジンやAPUが機能停止した際に出され、風力で電気系統や油圧系統を機能させる

機体中央下部にあるラムエア・タービンのプロペラ。飛行中にエンジンやAPUが機能停止した際に出され、風力で電気系統や油圧系統を機能させる

 787の重整備は従来機より期間が短くなり、点検項目も格段に減っている。

 ボーイング747は点検項目が3万に上り、1カ月ほどかけて機体を完全に分解して、胴体の金属疲労をくまなく調べていた。そのため、格納庫のスペースや整備士のやり繰りの問題から、中国など海外の整備専門会社に委託することも多かった。

 それに対し、787では点検項目が約3000まで減少し、重整備の所要時間は2週間程度まで短縮されている。「往復に数日かけて海外の整備会社へ委託しなくてよくなり、自社で重整備できる比率が高まるだろう」(JAL執行役員整備本部長の赤坂祐二氏)

点検を受けるボーイング787型機のエンジン。日本航空が採用する米ゼネラル・エレクトリック(GE)製エンジンにある不具合は近く解消できる見通しという

点検を受けるボーイング787型機のエンジン。日本航空が採用する米ゼネラル・エレクトリック(GE)製エンジンにある不具合は近く解消できる見通しという

 項目を減らせた要因は、整備ノウハウの蓄積に加え炭素繊維の大規模採用が大きい。787の構造部材として広く使っている炭素繊維強化プラスチック(CRFP)は、従来の主流だったアルミニウム合金より引っ張り強度や弾性率が高く頑丈である。さらに787では直径約6メートルの胴体を一体成型しているため、多数の外板や骨組みをリベットで組み合わせる作り方より強度上の弱点となる継ぎ目が大幅に少ない。金属と違ってさびや変形も発生せず点検を大幅に減らせるのだ。

 ボーイングと航空会社との連携体制が広がっている点も工数減につながる。「昔は構造部の強いところ弱いところといったデータの蓄積がなく、重整備では全てに一様の手間を掛けていた。だが、航空会社からのフィードバックで弱くなりやすい部分のデータがボーイングに集まりやすくなったことで、重点的に点検すべき部分がわかり効率化できている」(松丸課長)

 同じ点検でも、従来機より工数が少なくなっている部分がある。胴体に垂直尾翼を固定する巨大なボルトが適切に締まっているかを、ボルトに付属するひずみ計で自動計測する仕組みを採用。ひずみ計に付けられた2次元コードを読み取るだけでデータを確認でき、尾翼内部の狭いスペースで作業する手間を大幅に減らしている。

垂直尾翼を点検するには、機体後部の点検口から整備士が中に入っていく。中は巨大な空洞になっており、重整備の際は作業しやすいよう内部に仮設の足場を組む

垂直尾翼を点検するには、機体後部の点検口から整備士が中に入っていく。中は巨大な空洞になっており、重整備の際は作業しやすいよう内部に仮設の足場を組む

点検口の内部。手前の白い板は水平尾翼、中央の可動部は水平尾翼の上下方向の傾きを調整するためのものだ。仮設足場の奥の黒い部分は圧力隔壁

点検口の内部。手前の白い板は水平尾翼、中央の可動部は水平尾翼の上下方向の傾きを調整するためのものだ。仮設足場の奥の黒い部分は圧力隔壁

垂直尾翼と胴体をつなぐボルトのひずみを計測する測定器。巨大なボルトを締め直すなどの手間なく、ひずみのデータから異常の有無を簡単に確認できる

垂直尾翼と胴体をつなぐボルトのひずみを計測する測定器。巨大なボルトを締め直すなどの手間なく、ひずみのデータから異常の有無を簡単に確認できる

垂直尾翼を支えるボルトの1つ(中央)。頭部に2次元バーコードが付いており、ひずみの大きさを専用の測定器で計測できる

垂直尾翼を支えるボルトの1つ(中央)。頭部に2次元バーコードが付いており、ひずみの大きさを専用の測定器で計測できる

■トラブルが半分以下に

 期待が高かった787型機だが、これまで逆風の連続だった。機体の設計に手間取り最初の納入が3年以上ずれこんだあげくにバッテリーの発火事故が発生。米ゼネラル・エレクトリック(GE)製エンジンは着氷でエンジン停止の恐れがあるとして、飛行経路や高度に制限を設けたり運用路線を変更したりといった制約が生じている。

 初期不良による機材トラブルで引き返しや欠航、遅れなどが発生するのは、ある程度までは新機種の宿命だ。それでも「個人的には787は若干『じゃじゃ馬』だと感じたときもあった」(藤城課長)

JALのボーイング787型機はこれまで旧型ビジネスクラスだったが、14年12月以降納入の機体は新座席を採用。ビジネスはフルフラットになり、エコノミーも座席の幅や奥行きが広がった

JALのボーイング787型機はこれまで旧型ビジネスクラスだったが、14年12月以降納入の機体は新座席を採用。ビジネスはフルフラットになり、エコノミーも座席の幅や奥行きが広がった

 その一方で、明るい兆しも見えている。一時期は月10件近くに上っていた機材トラブルによる遅れなどが、ここ数カ月は月3~4件まで減ってきている。導入機数が増え機材のやり繰りがしやすくなったことも背景の1つだが、導入から約3年で初期不良が落ち着きつつあるといえる。

 JALでは14年12月、フルフラットのビジネスクラスや奥行きの広いエコノミークラスなど内装を一新した787を導入し、基幹路線の成田-ニューヨーク線などで運航を始めている。上述のGE製エンジンの制約も、近くソフトウエアの更新で解決する見込みだ。

 ボーイングや航空会社の手を焼かせる「じゃじゃ馬」だった787。ようやく見えてきた明るいムードを持続させ、本来の特徴である燃費の良さや客室空間の快適さで愛される飛行機に成長していけるか。現場の整備士をはじめ、関係者の地道な努力はまだまだ続きそうだ。

 すべての「現場」には、それを支える技術が存在している。それは、企業活動に限らず、人々の日常生活や消費シーンでも同様だ。どこで、どんな最先端技術が使われ、それが世の中をどう変えているのか……。この連載では、日経記者が話題の現場の裏側を取材、技術が活躍している最前線を報告する。

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スカイマークはなぜANAへ出資要請を検討するのか

スカイマークはなぜANAへ出資要請を検討するのか

スカイマーク(SKY/BC、9204)は1月に入り、全日本空輸(ANA/NH)を傘下に持つANAホールディングス(9202)に対して、出資を要請する検討を始めた。監督官庁である国土交通省も、SKY側がANAに要請すれば認める意向だ。

ANAへの出資要請の検討を始めたスカイマーク=14年6月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 読売新聞が9日夕刊でこの件を報じた際、SKYは「検討に入った事実はなく、決定した事実もない」と否定。同社幹部はAviation Wireに「コードシェアについて検討を要請しているが、出資要請は一言も言っていない」と説明していた。

 しかし、10日までに複数の関係者がAviation Wireの取材に対し、SKYが出資要請を検討していることを明らかにした。

 10日に発表となった12月の利用実績は、搭乗者数が2カ月連続で前年同月を下回り、ロードファクター(座席利用率)も12月の数字としては、2005年以来9年ぶりに50%台に落ち込むなど、状況の厳しさが浮き彫りになった。

 日本航空(JAL/JL、9201)やANAとのコードシェア提携の話題から一転、SKYはなぜ、ANAへ出資要請の検討を始めなければならないのだろうか。

どうなる経営陣

 SKYは2014年11月、JALに対してコードシェアによる経営支援を求めた。JALは財務体質が芳しくないSKYへの出資は、リスクになると判断。当初から出資は視野になく、コードシェアの検討に落ち着いた。

独立経営を目指すスカイマークの西久保社長=14年7月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 ところが、JAL単独による支援に官邸が難色を示したことから、SKYの西久保愼一社長は12月15日、ANAホールディングスの幹部と面会。提携を打診した。

 関係者によると、「年末の時点では、2月か3月にJALとANA両社とのコードシェア提携で着地を予想していた」という。しかし、年末年始をはさみ、SKYはANAへ出資を要請する検討に入った。ANA側の出資比率は、20%以下を想定しているとみられる。

 一方で、西久保社長は独立経営に強いこだわりがある。SKY幹部は「(ANAから)役員を変えろと言われたこともない」と話すが、企業再生の一般的な姿として、出資する企業から新経営陣が送り込まれる可能性が高い。

 このため、仮にANAが出資に向けて動き出したとしても、西久保社長の進退をはじめ、経営体制などで交渉が長引くことも考えられる。

羽田路線の不調響く

 では、なぜSKYは1月に入り、ANAに出資を要請する検討を始めたのか。理由の一つとして、12月の利用実績が芳しくなかったことと関係があるとみられる。

羽田路線の不調が響いたスカイマーク=14年5月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 12月の搭乗者数は2カ月連続で前年同月を下回る5.7%減の47万4694人。一方、提供座席数は4.2%増の87万4212席だった。この結果、ロードファクターが54.5%と前年同月を5.6ポイント下回った。

 全路線平均のロードファクターが50%台に落ち込んだのは、2014年1月の57.9%以来11カ月ぶり。12月の数字としては、2005年の51.4%以来9年ぶりに50%台を記録した。

 ANAやJALなどのフルサービス航空会社の場合、損益分岐点となるロードファクターは75%前後と言われており、コストを抑えている場合は80%以上が望ましいとされる。

 一方、2004年から2014年までの10年間で、12月としてもっとも高い値となったのは2010年の78.5%。前月の同年11月には、総2階建ての超大型機エアバスA380型機の導入について、SKYとエアバスは基本合意書を締結している。

 そして、基本合意から3カ月後の2011年2月にA380を4機発注し、同年6月にはオプション(仮発注)だった2機も正式発注に切り替えた。SKYは2012年3月期まで、過去最高益を3期連続で更新しており、絶好調の中でのA380発注だったと言える。

 12月のロードファクターが低迷していた9年前の2005年ごろは、西久保社長が2003年に就任後、中型機ボーイング767-300型機と小型機737-800型機の2機種体制から、数年がかりで737に統一を進めていた時期だ。737に機材を統一したのは2009年9月で、その後の快進撃につながっていく。

 2014年12月の利用実績を見ると、SKYの直行便23路線のうち、半数にあたる12路線のロードファクターは50%未満。35.5%だった神戸-鹿児島線など、40%に満たない路線も4路線あった。

 しかし、地方路線はもともとロードファクターが低い。より深刻だったのは、羽田発着5路線のうち、札幌線と神戸線、福岡線のロードファクターは60%を超えたが、これまでのように70%以上をたたき出した路線はゼロだった。

 SKYは利益の8割を羽田路線が生み出しており、これまでは羽田路線の大半が70%台、好調であれば90%台のロードファクターを達成することで、地方路線の収益をまかなっていた。

 これが今回、従来はコンスタントに80%前後の値を出していた、稼ぎ頭の札幌線を含めて不調だったことで、全体の平均値を引き下げる結果につながった。

不振続くA330路線

 「良いシートを安く提供する」という西久保社長の判断で2014年6月から導入した、エアバスA330-300型機(271席)も、頭の痛い存在だ。

ゆったりとしたグリーンシートを売りにするスカイマークのA330=14年3月 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire

 全席に座席幅が広い「グリーンシート」を備えたA330で運航する羽田-福岡線は、提供座席数は35.8%増の16万3639席と大幅に増加。一方、搭乗者数は10.0%増の10万3781人にとどまり、ロードファクターが63.4%(前年同月比14.9ポイント低下)と振るわない。

 羽田-福岡線の利用実績を見ると、6月のA330就航から12月までで、提供座席数の前年同月比の伸び率を、搭乗者数の伸び率が上回ったのは8月のみ。つまり、お盆休みで混む8月以外は、供給過剰な状態が続いている。

 A330は10機すべてをリース導入する計画で、現在5機が就航済み。SKYは現時点でA330を計画通り導入する予定だが、ANAが出資するとなると機材計画も見直しになる可能性がある。

 ANAは2014年7月、エアバスに小型機A321neoを23機、A320neoを7機を発注している。SKYとしては、エアバスとの7億ドル(約839億円)と言われる違約金の交渉が優位に進めばとの思惑が、見え隠れする。

 A380の違約金交渉がANAと組むことで優位に進むとして、もしA330の導入機数を見直すとなれば、新たな問題が発生する恐れがある。これまで違約金交渉で名前が挙がらなかった、エンジンメーカーのロールス・ロイスも名乗り出ることが考えられるからだ。SKYはA380とA330のエンジンメーカーとして、ロールス・ロイスを選定している。

 A330の活用策として、日本人に人気のハワイなど国際線の中距離路線への投入案もささやかれる。しかし、SKYの2014年9月末時点の現預金残高は45億4900万円。2014年3月期末から25億1600万円減少している。売上の伸び悩みだけではなく、手元資金も厳しい状況が続いており、現状のままでは投資がかさむ勝負に出るのは厳しい。

 国内線の戦略機材として肝いりで導入したA330を、今後どう活用していくのだろうか。

   ◆ ◆ ◆

 西久保社長は経営の独立を訴える。しかし外部から出資を受けるとなれば、経営陣の刷新など、本意ではない決定を下さざるを得ないことになる可能性がある。

 これまでの新規航空会社の再建では、エア・ドゥ(ADO/HD)やスカイネットアジア航空(ソラシド エア、SNJ/6J)、スターフライヤー(SFJ/7G、9206)と、事実上ANA傘下に入ることで、再建を進めてきた。

 良くも悪くも、大手2社と距離を置くことに固執しなかったことで、3社は航空会社として生き延びている。SKYはエアバスとの違約金問題も、いまだに好転の兆しはない。

 土俵際に追い詰められたSKY。最後に残った第3極として、難しい判断が迫られる。

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羽田陣取り、雲の中 「スカイマーク・日航」に国交相慎重

羽田陣取り、雲の中 「スカイマーク・日航」に国交相慎重

 国内航空3位のスカイマークと日本航空との提携交渉が、「ドル箱」とされる羽田空港発着枠の争奪戦の様相をみせ始めた。日航による事実上の羽田枠の拡大につながりかねず、全日本空輸の反発は必至の情勢だからだ。25日には太田昭宏国土交通相が初めてコメントし、認可に慎重な姿勢を示した。スカイマークの再建策は競争政策のあり方を巡る議論に発展しつつある。

 「正直、日航が我々の提案に乗ってくるとは思わなかった」。スカイマーク幹部は競合関係にある日航が共同運航提案を前向きに受け入れたことに驚きを隠さない。幹部は「それだけスカイマークを全日空に奪われたくなかったのだろう」と推察する。

 1990年代以降の規制緩和で国内航空市場には新規参入が相次いだものの、多くは経営がたち行かず、全日空の支援を受けるようになっている。日航にとっては、最後の独立系であるスカイマークまでもが全日空陣営に入れば、国内線の勢力争いが決着してしまうとの懸念があった。

 最大の注目点はスカイマークが持つ1日36往復分の羽田国内線の発着枠の行方だ。

 人口減で伸び悩む航空会社の国内線だが、羽田と沖縄、北海道などを結ぶ幹線はドル箱だ。1往復分で年間20億円を稼ぐといわれる。各社単独で見た場合、羽田国内線における日航の発着枠シェアは39%と全日空(37%)を上回り、日航によるスカイマーク支援は行き過ぎのようにみえる。

 だが、AIRDOやスターフライヤーなど新興勢を含めた全日空陣営のシェアは、実は50%を超える。日航は今後の国交省との折衝の中で、8%のシェアを持つスカイマークと連携することで全日空と拮抗した競争環境を実現できる点を主張する考えのようだ。

 ただ、日航によるスカイマーク支援は一筋縄ではいきそうにない。羽田発着国内線は共同運航に国交省の認可が必要。太田国交相は25日の閣議後の記者会見で「健全な競争環境確保の観点から、(是非については)厳しく判断する」と強い口調で語り、慎重に審査する方針を表明した。

 国交省が気をもむのは、自民党議員からの反発だ。民主党政権下だった2010年の日航の破綻処理については「公的資金注入などの手厚い支援が競争環境をゆがめた」との不満が自民党内で今もくすぶる。12年の日航再上場の際には16年度まで新規投資や路線開設を制限することを確認する文書も作成された。

 その文書の効力が続く中で日航とスカイマークの提携を認めれば、与党内の不満を再燃させかねない。これまで「民間企業の経営には深入りしない」と無関心を装ってきた国交省も態度を改め、スカイマークには全日空とも共同運航することや、全日空による単独支援に切り替えるよう促しているもようだ。

 国交省は競争によって運賃の引き下げやサービス向上を促すため、全日空や日航に次ぐ第三極の育成を航空政策の柱に据えてきた。スカイマークの支援にあたっても、同社を独立した第三極として存続させる方針をぎりぎりまで追求する考えのようだ。

 円安に伴う燃油費上昇や格安航空会社(LCC)との競争激化でスカイマークの業績は急速に悪化しており、15年3月期には136億円の最終赤字となる見込み。同社は経営上の重大なリスクが出てきたとして事業継続に「重要な疑義がある」と開示している。

 超大型機の売買契約を巡り、欧州エアバスから巨額の違約金を求められる恐れもあり、スカイマークの再建は待ったなしの状況。西久保慎一社長は来年2月の共同運航に向け、「月内にも申請したい」と語った。しかし、衆院が解散し航空行政に関わる与党議員の体制が定まらないなかで、「国交省が意思決定するのは難しい」(関係者)。決着は衆院選後にずれ込む可能性もある。

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雇用延長、対策多様に 高齢者の給与上積み

雇用延長、対策多様に 高齢者の給与上積み
現役の労働時間減、賃金評価見直しも

希望する高齢者の継続雇用を義務付ける「高年齢者雇用安定法」が施行されて4カ月あまり。60歳を超えて働き続ける人の年収を増やすため、雇用・賃金制度の見直しが多様化している。NTTグループは現役世代の賃金上昇を抑制して捻出。YKKグループは賃金体系全体を見直す。20~50歳代へのしわ寄せにもつながる制度には慎重論もあるが、労働力不足や技能伝承の観点からも高齢者の待遇改善が進んでいる。

 高齢者の賃金引き上げの動きが広がるのは年金の支給開始年齢が段階的に引き上げられるため。もっとも総人件費を大きくは増やせず、原資捻出に向けた対策が広がる。

 1つは現役世代の賃金を抑制する手法だ。NTTグループは10月、再雇用する60歳以上の従業員の年収をこれまでの200万円台前半から300万~400万円に引き上げる。原資確保に向けて現役世代の賃金体系で年功要素が強い基準内賃金を圧縮、成果部分を強める制度を取り入れる。成果部分の比重が高まる40歳前後から上の世代の賃金上昇は従来より緩やかになる。

山崎パンは年収倍に

 山崎製パンは4月から60歳の定年後に再雇用した従業員に現役世代とほぼ同じような働き方を求める一方、年収を従来の約2倍に相当する300万円強とする賃金制度を導入した。1日8時間・週5日勤務を原則とし、残業や深夜の交代勤務を課す。

 同時に現役世代の総労働時間の削減に取り組む。年間休日数を2014年度は12年度比で2日増やし、残業時間を削減。結果的に現役世代の賃金は減り、再雇用者の年収が増える仕組みにする。

 山崎パンは毎年300人近い定年退職者が見込まれており、現役世代の割合が減少する見通し。「従来のままでは工場のシフト勤務が難しい。高齢者を戦力と位置付けつつ、現役世代の過大な負担を減らし、世代間で異なる仕事量と賃金を平準化する」と人事第一部の原田周二部長代理は言う。

 現役世代への影響を回避しようという取り組みもある。サントリーホールディングスは4月から60歳以上の社員の年収引き上げを開始、60歳到達前の5割弱にとどまっていた水準を6~7割に上げた。65歳までの全社員が新制度の対象になる5年後には人件費が十数億円増える見通しだが、経費削減などで吸収する。

YKK、定年延長に切り替え

 賃金制度の抜本的な見直しが3つ目の手法だ。雇用延長の制度は(1)再雇用(2)定年の引き上げ(3)定年の廃止がある。YKKグループは多くの企業が選択する再雇用制度を見直し、4月から定年延長に切り替え始めた。65歳までの雇用を前提とした賃金体系を年金の支給開始年齢が65歳となる25年までに整備する。

 人件費の増加を抑制するため人事評価を見直す。能力給の運用を弾力化、従来はほとんどなかった実力不足による降給を数年後をメドに開始し、評価を適正化する。もっとも突然の降給には現場の動揺も予想される。このため「能力要件書」と呼ぶ判断基準を社員に明示して理解を求める。

 「65歳定年時代」に向け、高齢者の活力を生かそうという企業の制度設計見直しは広がっている。IHIは59歳になった時点で定年を60歳から65歳の間で選ぶことができる「選択定年制」を導入。三菱電機は13年度から雇用を延長した社員の給与を12年度の年収ベースから約2割引き上げた。

高年齢者雇用安定法

正式名称は「高年齢者の雇用の安定等に関する法律」。従来は定年を60歳以上にするように企業に努力義務を課してきたが、1998年から「60歳定年」を義務化した。2000年の改正で、定年の引き上げ、継続雇用の導入などによる65歳までの雇用の確保を企業の努力義務とした。さらに04年の法改正で、厚生年金の支給開始年齢引き上げに併せ、65歳までの雇用を段階的に義務付けた。

雇用延長[ Employment extension ]

現在、多くの企業で定年としている60歳を過ぎても働けるようにすること。2004年に成立した改正高年齢者雇用安定法で、2006年4月から段階的に雇用延長することが義務付けられた。厚生年金の支給開始年齢が65歳に引き上げられるのに伴い、年金支給までの空白期間を埋めるのが狙い。13年度以降は65歳とする。雇用延長の手段としては定年制の廃止、定年年齢の引き上げ、定年退職後の再雇用などがある。

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「雇用義務65歳」の高年法、賃金制度の再設計迫る

今年4月施行の改正高年齢者雇用安定法(高年法)が、企業にじわじわと人事・賃金制度の再設計を迫ることになりそうだ。同法は希望する社員を最終的に65歳まで雇用することを義務づけており、60歳を“終点”とした従来の賃金カーブのままでは、その後の労働意欲が低下しかねないためだ。単に高年法を守るだけでなく、長期的な視点から少子高齢化時代にふさわしい人事・賃金制度を考え、必要な改革に着手すべきだろう。

■3兆円に迫る企業負担

東京ガスは50歳の社員に、再雇用制度を含む「セカンドライフ支援制度」を紹介する研修を実施している。講師も再雇用者が務めた(2013年5月、東京都港区の本社で)

東京ガスは50歳の社員に、再雇用制度を含む「セカンドライフ支援制度」を紹介する研修を実施している。講師も再雇用者が務めた(2013年5月、東京都港区の本社で)

 高年法は企業に対して(1)定年後の再雇用(2)定年延長(3)定年制廃止――のいずれかの方法で65歳までの雇用確保を求めている。実際には(1)を選んで1年の有期契約を結び、更新していく企業が多い。従来は労使協定で継続雇用の基準を設ければ、企業が雇用する社員を選別できたが、今年4月施行の改正で原則として希望者全員の雇用が必要になった。雇用義務のある年齢は、厚生年金の支給開始年齢の引き上げに合わせて段階的に上がる。13年度に61歳になった後は3年で1歳ずつ上がり、2025年度に65歳となる。

 企業の負担はどの程度増えるのか。日本総合研究所の試算では、希望者全員の雇用義務づけにより、企業の人件費負担は2030年時点で約2兆8500億円増える。

 改正による義務づけには批判的な意見もある。企業法務に詳しい弁護士からは「年金財政悪化のツケを企業に回すようなもの」「高齢者の働き方、生き方の多様化を損なう」といった声が出ている。景気が悪くなった時には、新卒採用の抑制などで若者へのしわ寄せが大きくなる恐れもある。

 とはいえ、少子高齢化が進む日本で、経験豊富な高齢者に能力を最大限発揮してもらうことは長期的に重要な経営課題だ。60歳到達後に賃金が大きく落ち込むと「それなりに働けばいい」とやる気が萎える高齢社員が増え、職場全体の士気にも影響しかねない。

 賃金の落ち込み問題を改善しようと、人事・賃金制度を全社的に見直す動きもある。方法は(1)賃金カーブの見直し(2)ポストで賃金が決まる職務給制度への移行――の2つに大別できる。

 NTTグループは前者だ。今年10月、30歳代から60歳定年までの中堅、ベテラン層の賃金から年功的要素を減らし、平均賃金カーブの上昇を緩やかにする。一方、定年後に再雇用する社員の年収は来年4月、今の200万円台から300万~400万円に引き上げる。

 NTTの人事制度担当者は「定年の前も後も、仕事の成果などを賃金に反映させて生産性を高めるため」と狙いを説明する。ただ、中堅以降の賃金カーブ見直しが再雇用者の処遇改善の原資になっていることも事実だ。

■賃金原資、世代間でどう分配

 こうした世代間の賃金配分変更について、今年4月に65歳定年制を導入したサントリーホールディングスは「原資を減らされる世代の納得が得られない」(人事部の呉田弘之部長)と否定的だ。同社では再雇用制度からの転換で60歳以降の処遇を改善しており、十数億円の人件費増となるもようだが、60歳以前の賃金体系は変えなかった。「シニアを中心とする社員の活躍で人件費増加分を上回る収益を上げてもらう」(呉田氏)という。

 NTTのような賃金カーブ見直しを決めた企業はまだ少ないようだが、他社から同社への問い合わせは「非常に多い」(NTTの人事担当者)。ポイントは年功賃金の要素が残っている会社の場合、生産性と賃金のカーブにズレが生じていないかどうかだ。60歳に到達した直後に賃金がガクンと減るのは、裏返せば60歳前の賃金が生産性に比べて高いからかもしれない。生産性と賃金のズレは会社によって異なる。まず検証し、ズレが大きい場合は修正を検討すべきだろう。

 もう一つの方法は、仕事の難しさや責任の大きさなどを分析し、ポストによって賃金を決める職務給制度に移行することだ。年功要素を排除できるので、ポストが変わらなければ60歳を過ぎても賃金は下がらない。

 今年度、再雇用制度から定年延長に転換したばかりのYKK。同社も職務給に近い役割給を管理職などに採り入れている。企業からみた職務給制度の問題点は「運用を事業部などの現場任せにすると、ポストが自己増殖しやすいこと」(コンサルティング会社タワーズワトソンの永田稔ディレクター)だ。YKKは役割を点数化し、合計値が部門や会社の業績に連動しているかをチェックしている。定年延長後の数年間で人件費などがうまく管理できるとの見通しが立てば、定年制廃止に踏み切る考えだ。

 YKKには「公正」を最重要視する経営理念があり、吉田忠裕・会長兼最高経営責任者(CEO)は年齢や性別、国籍などで差別しない人事制度の構築を求めている。同社の寺田弥司治・執行役員人事部長は「会長からは『なぜ定年があるのか』と問いただされている」と苦笑しつつ、「定年制廃止は高齢者優遇ではなく、ポストを巡る世代間競争を促すもの」と話す。

■バブル世代対応のニーズも

 タワーズワトソンの永田氏によると、雇用延長対策とは別の動機で職務給制度に移行する企業も多いという。一つはバブル世代対策。年功的要素が残る職能給制度の採用企業が、バブル期の1990年ごろに大量入社した社員の人件費負担に悩み、職務給に移行するケース。もう一つはグローバル化。欧米の子会社が職務給制度を採用しているため、日本の本社がこれに合わせる例が増えている。これらの理由で職務給に移行しながら「雇用延長にも役立つと考える企業が多い」(永田氏)という。

 賃金制度を急激に変更すると社内が混乱するので、職務給と職能給の両方を採り入れながら、徐々に職務給に軸足を移す企業もあるようだ。厚生労働省の2012年就労条件総合調査によると、基本給の決定要素を複数回答可で企業に尋ねたところ、管理職では「職務・職種など仕事の内容」が「職務遂行能力」(職能)をわずかに上回った。どんな制度にも一長一短がある。どんな働き方をしてもらいたいのか、経営者は社員へのメッセージを込めながら、自社にふさわしい人事・賃金制度を整備する必要がある。

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