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ポスト・ジーター、次の「米メジャーの顔」は誰か

ポスト・ジーター、次の「米メジャーの顔」は誰か

今季限りでの引退表明後、初めての記者会見で笑顔を見せるジーター=共同

今季限りでの引退表明後、初めての記者会見で笑顔を見せるジーター=共同

 長くヤンキースの象徴として活躍してきたデレク・ジーターが、キャンプ入りを前に2014年シーズン限りの引退を表明した。昨季、抑えの切り札であるマリアノ・リベラが華やかにフィールドを去ったのに続き、今季はジーターが各地で祝福される「引退ツアー」の様相を呈することになりそう。それと同時に、米メジャーの顔として君臨してきたスーパースターの引退により、今後はその後継者探しにも注目が集まる。ジーター後の米球界のシンボルとなる選手は現れるのだろうか。

歴史に残る記録、屈指の名遊撃手

 「ニューヨークでプレーして20年目、マイナー時代まで含めれば23年間もプレーしてきて、もう十分にやった、何かほかのこともやってみたいと思うようになった。ただ、もう1年残っていることを忘れてほしくない」

 2月19日にキャンプ地のフロリダ州タンパでで行った引退発表会見で、ジーターはこう語った。その言葉通り、まだ長いシーズンを1年残しているとあって、本人が感情的になる光景はなかった。それでもヤンキースのほぼすべての主力メンバーが会見に出席したことからも、ジーターの存在の大きさが垣間見えた。

 1995年5月にメジャーデビューしたジーターは、翌年から正遊撃手として定着。それ以降の18年間のうち12シーズンで打率3割以上をマークし、オールスターにも13度選出されるなど、屈指の名遊撃手として活躍してきた。

エゴ捨て、チームプレーに徹する

ジーターの引退記者会見に聞き入るイチロー(中央)ら=共同

ジーターの引退記者会見に聞き入るイチロー(中央)ら=共同

 09年9月にはルー・ゲーリッグの持っていた球団最多安打記録を更新し、11年7月にはヤンキース史上初の3000本安打にも到達。遊撃手としての通算安打も史上最多であり、記録の面でも歴史に残る選手である。

 こうした成績以上にジーターの名を有名にしたのは、メジャーが誇る名門球団のリーダーとして、チームプレーに徹し続けてきたことだった。エゴを捨て、勝利だけを追いかけ、スキャンダルにも無縁。長いキャリアの中では、ゲーリー・シェフィールドのようなクセの強い選手からも尊敬を集め、松井秀喜、イチローら日本人選手とも固い絆を結んだ。

 ジーターがデビューした翌96年から、ヤンキースの黄金期が始まったことは偶然ではない。以降の18年間で16度もプレーオフに進出し、チャンピオンリングも5つ獲得。その過程で様々な名シーンを演出し、「歴代有数のクラッチプレーヤー」として認められてきた。

「米メジャーの顔」は誰か
デレク・ジーター 38%
ミゲル・カブレラ 25%
デビッド・オルティス 17%
マイク・トラウト 16%
マリアノ・リベラ 12%
ブライス・ハーパー 9%
アンドリュー・マカチェン 5%
バスター・ポージー 5%

(注)ESPN調べ、複数回答

 選手としての能力の評価だけなら上だったアレックス・ロドリゲスが、薬物問題を含む様々なスキャンダルで失墜していったのとは対照的。品行方正で、勝負強く、最後に勝利をものにするジーターは「現代の模範的なヒーロー」だったといえるだろう。

「NYのベースボールそのもの」

 「ジーターはニューヨークのベースボールそのものなんだ」。同じア・リーグに所属するツインズのロン・ガーデンハイヤー監督がそう言っていたことがあるが、「ニューヨーク」を「米国」と置き換えても過言ではないかもしれない。

 昨年8月下旬にスポーツ専門局ESPNが行った「米メジャーの顔は誰か」のファン投票でも、トップに立ったのはやはりジーターだった。昨季はケガで17試合しか出場できなかったことを考えれば、この結果は特筆すべきものである。

 実際に宿敵レッドソックスのファンであろうと、ヤンキースのチームリーダーを嫌うのだけは難しい。「ベースボールの顔」としての役割を20年近く完璧に演じてきた“名優”は、しかし今季限りで身を引くことを決断。来季以降、その代役を果たす選手を探すのは容易ではない。

後継の最有力にトラウトの名も

ジーター後のメジャーの看板選手になる可能性があるトラウト=USA Today

ジーター後のメジャーの看板選手になる可能性があるトラウト=USA Today

 それでは現時点で「ジーター後の世界」の看板選手を探すとすれば、いったい誰がふさわしいのか。最有力候補として挙げられることが多いのが、エンジェルス外野手のマイク・トラウトである。

 メジャー定着1年目の12年は打率3割2分6厘、30本塁打、49盗塁。13年も打率3割2分3厘、27本塁打、33盗塁と2年連続で最高水準の数字を残したトラウトは、守備も素晴らしい万能選手。22歳ながらすでにメジャーの「ベストプレーヤー」と呼ばれ、今後しばらくMVP候補であり続けそうだ。

 「ジーターがゲームに臨む姿勢、プレーするときの態度が好きで、成長する過程ではいつも彼のようになりたいと思ってきた。相手に恥をかかせるような形でなく、正しい方法でプレーしたい。ジーターのように常にハッスルして、ハードワークに徹する姿を子どもたちにも見てほしいんだ」

 子どものころからジーターのファンだったというニュージャージー出身のトラウトは、12年に初めてヤンキースタジアムでの試合に臨んだとき、こう語っていた。

ポージーはジーターと共通点の多いキャリアを歩んできた=USA Today

ポージーはジーターと共通点の多いキャリアを歩んできた=USA Today

 その言葉通り、トラウトのはつらつとしたプレーは見ているものに爽快感を与えてくれる。まだプレーオフへの出場経験がないだけに、「球界の顔」となるには知名度が足りない。ただ、実力とクリーンなイメージを兼備した俊才は近い将来、とてつもないスーパーヒーローになる可能性を間違いなく秘めている。

ポージー、共通点の多いキャリア

 26歳に至るまで、ジーターと共通点の多いキャリアを歩んできたのがジャイアンツをけん引する捕手のバスター・ポージーである。

 10年には108試合の出場ながら打率3割5厘、18本塁打で新人王に輝き、チームの56年ぶりのワールドシリーズ制覇に大きく貢献。翌年は不運な故障に苦しんだが、12年には打率3割3分6厘、24本塁打でMVPを獲得し、ジャイアンツを再び優勝に導いた。

 若きリーダーとなったポージーのデビューとともにチームが勝ち始めたという意味で、ジーターの台頭期と似ている。戦力均衡化により連覇が難しくなったメジャーで、10~12年の3年間で2度のワールドシリーズ制覇は偉業であり、チームの要であるポージーがその立役者だった。

 ジョージア州出身のポージーは性格的に派手なタイプではなく、マンハッタンのアイドル的存在でもあったジーターとはその点では異なる。ただ、今後もジャイアンツの要として優勝回数を増やしていった場合、「勝利の使者」という呼称をこの選手が引き継いでいくことになるかもしれない。

カブレラ、ベストヒッターに君臨も

今後もベストヒッターとして君臨する可能性があるカブレラ=AP

今後もベストヒッターとして君臨する可能性があるカブレラ=AP

 「メジャーの顔は誰か」を聞いた上記のランキングでジーターに次ぐ2位に入ったミゲル・カブレラは、03年から11年間で365本塁打を放ってきた文句なしの現役最強打者である。

 12年にはメジャーで45年ぶりとなる三冠王を獲得し、MVPも受賞。昨季もケガに苦しみながらも打率3割4分8厘で3年連続首位打者を獲得し、44本塁打、137打点という驚異的な成績をマークした。

 現時点での全米的な知名度はトラウト、ポージーより上であり、向こう数年間は「ベストヒッター」として君臨し続けるだろう。今後、デビッド・オルティスを引き継ぎ、中南米選手の顔役としての立場を確立していくのかもしれない。

 ただ、30歳のカブレラは打撃が優れているものの、守備や走塁では特筆すべき選手でないのがマイナス材料。しかも09年には、チームが優勝争いをしている最中に夫婦げんかが警察沙汰に発展という事件も起こしている。ロドリゲス、バリー・ボンズのようにダーティーなイメージがあるわけではないが、かといって「リーグの顔」という印象は薄いのも事実である。

ナ・リーグを代表する外野手のマカチェン=AP

ナ・リーグを代表する外野手のマカチェン=AP

マカチェンやハーパーも…

 この3人以外では、ナ・リーグを代表する外野手のアンドリュー・マカチェン、高校時代から怪物として注目されて来たブライス・ハーパーもこの先数年間の活躍次第では一気に知名度を上げそうだ。

 出場するのは5日に1度だけがゆえに少々不利だが、ジャスティン・バーランダー、クレイトン・カーショーといった両リーグの最強投手たちも忘れてはいけない。特に25歳にしてすでに2度もサイ・ヤング賞に輝いてきたカーショーは今後、歴史に名を刻む成績を残す可能性がある。

 ただ、これまで挙げた選手の中からジーターのように20年近くも健康を保ち、ハッスルプレーを続け、スキャンダルを起こさず、何より毎年のように優勝争いに絡む選手が出てくるかどうか。これらの条件の多くを満たすのは容易ではない。

 今後しばらくの間、メジャーは「看板選手なし」の時代を迎える可能性は少なくない。来季以降、私たちはジーターの偉大さを改めて実感することになるのかもしれない。

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