経済・政治・国際

おしゃべりな人はなぜ運がいいのか 茂木 健一郎:世界一の発想法

おしゃべりな人はなぜ運がいいのか
茂木 健一郎:世界一の発想法

2014年01月28日(Tue) 茂木 健一郎

世の中には、邪魔なもの、ムダなものだと思われているが、実際には役に立つもの、大切なものがある。

「雑談」はその1つの例であろう。雑談をしている時間は、ついつい「ムダ」なものだと思われがちだが、実際には大切な役割を担っている。

たとえば、取引先と打ち合わせをしたとしよう。1時間、始まりから終わりまで、ぴたりと仕事の内容を話し続ける。効率がいいようでいて、実は発展性がない。

冒頭の5分間でも、あるいは、要件が終わった後の10分間でも、関係のない世間話をする。そのことによって、相手の人間性がわかったり、思わぬ共通の知人が見つかったり、さまざまな背景知識が得られることが多い。

仕事の打ち上げで飲むのは、典型的な雑談の機会だろう。終わったばかりの仕事の反省をする、ということもあるけれども、そのうちに雑談になる。そのときに、「またやりましょう」とか、「今度はあそこで」とか、新しい仕事の種が見つかることは、実際に多い。

雑談は、セレンディピティ(偶然の幸運)が花開く土壌である。「A」ということを目的に行動していて、偶然別の「B」に出会い、それが人生に新しい展開をもたらす、というのがセレンディピティ。仕事でも、プライベートでも、雑談をすることが、セレンディピティへの道筋となる。

ところで、雑談は、まじめに考えてみると、大変奥深い。何しろ、事前に準備することができない。どんな内容が話題になるか、予想することができない。

「こんな話題を」と時事ネタを準備していくことはできる。しかし、相手の話の内容によっては、どんな方向に発展していくかわからない。予想外の方向に話が流れていっても、臨機応変、柔軟に対応できなければ、「雑談力」の高い人にはなれない。

雑談力を支えるのは、側頭連合野に蓄積されたさまざまな知識や経験。1つの話題から、どれだけ多くの関連した話題を「連想」することができるか。その点にこそ、雑談力が表れる。

つまり、雑談力を鍛えるためには、好奇心の強い人でなければならない。世の中の森羅万象、さまざまなことに、イキイキとした興味を持ち続ける。会話の中で、相手が発した一言に、眼を輝かせる。結局、雑談の成否は、過去の自分の好奇心の働きの、総合的な「通知表」であると言ってもよいのだ。

商談も、時には世間話を交えつつ進めたほうが、次につながることが多い。(写真=PIXTA)

雑談には、隠れた大切な働きもある。すなわち、相手が考えていること、心の中で思っていることを「探り当てる」ということである。

仕事でも、プライベートでも、相手が今何を感じ、望んでいるかを知ることが大切である。さまざまな話題を振り、それに対する相手の反応を見ることで、気持ちを推測することができる。

雑談は、マジシャンやメンタリストが用いる「コールド・リーディング」の手法に通じるところがある。さまざまな話題を振り、相手の反応を見ることで、さりげなく、相手の真意を探る。やり手のセールスマンや、熟練したカウンセラーなどは、実質上のコールド・リーディングの手段として、雑談を用いる人が多い。たかが雑談、されど雑談。何気ない会話の中に、無限のコミュニケーションの可能性があるのである。

雑談は、1つのバロメーターでもある。話題がどう転ぶかわからない、一見ムダな雑談を楽しめる脳は、健康である。雑談がうまくいく人間関係は、良好である。雑談の「今、ここ」を楽しみたい。

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敗れたのはロシア シリア化学兵器問題の裏側

敗れたのはロシア シリア化学兵器問題の裏側

2013/10/24 7:00

 内戦化のシリアで化学兵器の解体作業が進んでいる。8月にシリア軍によるとされる大規模な化学兵器攻撃が確認され、米国のオバマ政権が制裁のため武力行使の構えを見せたが、シリアのアサド政権が化学兵器放棄を表明。武力衝突の回避は、仲介したロシアの外交的勝利ともいわれた。しかし、公開情報やインテリジェンス(情報)関係者らの証言をつなぎ合わせていくと、ロシアとシリアがつくる事実上の「化学兵器共同体」を米国が締めあげ、遂に降参させたという構図が見えてくる。

■事実上シリアに化学兵器開発を代行させたロシア

「シリアからロシア製の化学兵器が見つかっても私はまったく驚かない」――。昨年9月28日にネット上でこう語ったのは、旧ソ連とロシアの化学兵器研究機関で26年間働き、今は亡命先の米国で暮らすフィル・ミルザヤノフ氏だ。同氏によると、シリアは冷戦時代から自国軍人を旧ソ連の軍化学アカデミーなどに留学させて化学戦の技法を習得。冷戦後もロシアはシリアの化学兵器研究機関に物資や機材を提供していた。「1997年の化学兵器禁止条約の発効後、ロシアは事実上シリアに化学兵器開発を代行させてきた」(国際軍事情報筋)

 米国のオバマ政権もそうした状況を熟知し、ロシアに対し、シリアとの化学兵器協力を手じまいするよう今年春ごろから強く迫っていたが、ロシアの腰は重かった。

 オバマ政権は並行して、シリアの隣国ヨルダンなどに中央情報局(CIA)要員や海兵隊を送り、シリア軍の部隊の動向を探るなど攻撃準備を進めた。8月から9月初旬にかけて、米欧の一般紙や軍事専門誌に「米軍のシリア攻撃の規模は予想以上に大きそうだ」「米軍は化学兵器保管庫を攻撃しても有毒ガスの流出を抑えられるADWという新兵器を開発した」など、シリアやロシアを心理的に揺さぶる記事が相次いで出た。

 シリアが化学兵器放棄を表明したのはその後間もなくだった。仮に攻撃があればシリアとの化学兵器協力が明らかになり、ロシアはメンツを失っていた。「今、ロシアはシリアでの活動の痕跡を消すため関連物資の運び出しを急いでいる」と別の国際情報筋は語る。

■オバマ流のステルス軍事作戦

 長年続いてきたロシアとシリアの化学兵器共同体を一発のミサイルも撃たずに解体に追い込んだオバマ氏の手法はなかなかにしたたかだ。2011年に国際テロ組織アルカイダのビン・ラディン容疑者を発見・殺害したように、大規模な軍部隊は投入せず、情報機関や特殊部隊を静かに動かして目的を達成する「ステルス(見えにくい)軍事作戦」がオバマ流なのだ。

 オバマ政権が先に武力行使断念を発表し、その後でシリアが化学兵器放棄を公表する順になったため「ロシアの仲介外交が成功した」という印象を与えた。オバマ氏がロシアとシリアの化学兵器協力の詳細を暴露せず、あえてロシアに花を持たせたのはなぜか。

 実は2014年末のアフガニスタン撤退を控える米軍の最大の問題は、軍事作戦開始以降12年間に積み上がった膨大な軍の装備品(車両だけでも5万台以上)をいかに米国に戻すかなのだという。パキスタン経由の南ルートは問題が多く、中央アジア諸国とロシアを経由した北ルートを活用したい。「核なき世界」を掲げてノーベル平和賞を受賞し、任期8年間の集大成として2016年に米国で再度「核セキュリティー・サミット」の開催を目指すオバマ氏としては、ロシアとの新たな合意で戦術核兵器などの削減も達成したい。いずれにしても、米国嫌いで有名なプーチン大統領との関係を少しでも良くしておくに越したことはないのだ。

 シリア化学兵器問題をめぐっては、ロシアは「勝者」からほど遠く、米国が「敗者」になったわけでもない。

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語られ始めた「日本の失われた20年はウソ」という真実

語られ始めた「日本の失われた20年はウソ」という真実

forbes

(2013年8月11日 Forbes.com)

 現代史を振り返っても「日本経済は1990年代初頭に燃え尽きた」という説ほど疑いようのない「事実」として定着しているものは少ない。この説は他国の政治家を大いに惑わしてきた。これから述べるとおり、米国はその最たる例だ。

オフィスビルを歩くビジネスマンたち。「失われた20年」は虚像だったのか=ロイター

オフィスビルを歩くビジネスマンたち。「失われた20年」は虚像だったのか=ロイター

 日本の「失われた20年」というのは、単なる作り話どころではない。英語メディアがこれまで広めてきた中でも、とびきり不合理で、あからさまなでっちあげの一つである。私の話が信じられないのであれば、『インターナショナル・エコノミー』誌最新号に掲載されたウィリアム・R・クライン氏の記事を読んでいただきたい。今年に入ってポール・クルーグマン米プリンストン大教授も同じような主張をしているが、一見低迷しているような日本経済は、それは経済的根拠とは無縁の、人口の変化に基づく幻影であるとクライン氏は指摘している。

■日本の1人あたり労働者生産は伸びている

 「日本という錯覚:“失われた20年”説のまやかし」と題する記事で、クライン氏は1991年から2012年にかけて米国の労働人口が23%増加したのに対し、日本ではわずか0.6%しか増加しなかったことに言及している。つまり労働者1人あたりで見ると、日本の生産量はかなり伸びたことになる。日本の成長率は、現在経済的に成功している国の代表例とされるドイツより相当速い(日本の労働人口は約10年前に減少に転じたが、これは長年の政策の結果である。中国と同じように日本も病的なまでに食糧安全保障を憂慮し、中国よりも早くから人口削減策を実施してきた。1948年の優生保護法 制定がその始まりである。そのうえ人口削減計画の補強策として、世界でもまれに見る厳しい移民制限を実施している)。

 米ワシントンDCのピーターソン国際経済研究所のシニアフェローであるクライン氏は、重大な問題とされている日本のデフレも実は嘆くような話ではないとしている。むしろその逆で、過去20年を振り返ると日本経済は物価が下落しているときのほうが、上昇しているときよりも好調だったというのだ。そして米国の人々が、日本の穏やかなデフレと1930年代初頭に米国を悩ませた極めて破壊的なデフレとの間に多少なりとも共通点があると考えているのは、とんでもない誤解だと説く。現実には、日本のデフレは1880年から1900年にかけて建国間もない米国で見られた「良いデフレ」と似ている。このとき米国では労働生産性が急激に上昇した結果、消費者物価が一貫して下落し、当時としては奇跡的な経済発展を遂げた。

※注 現母体保護法

■円が上昇しても貿易面で成功

 クライン氏は世間の誤った認識を正すのに貢献をしたが、まだ十分とは言えない。例えば貿易面では、米国の悲惨な状況を尻目に、日本がすばらしい成功を続けてきたことに触れていない。1989年以降、主要先進国の中で経常黒字を拡大したのは日本とドイツだけだ。対照的に、米国は言うに及ばず、英国、フランス、イタリアの赤字は近年とみに拡大している。この間、円が上昇してきたことを考えると、日本の貿易面の成功はなおさら驚異的といえる。日本に関する報道を見ていると、円は当然下落していると思われがちだが、実際には下落どころか、国際為替市場で円は相対的に上昇してきた(「失われた20年」が始まったとされる1990年代初頭以降、円は約49%上昇している)。

 またクライン氏は日本の政府債務は問題だと主張しているが、その深刻さを軽減する重要な事実に触れていない。日本の政府債務の大部分は、米国をはじめとする海外の政府債の購入に充てられてきた。実質的に日本の預金者は、米国など海外の赤字国を支えているのであり、日本政府は単に銀行の役目を果たしているに過ぎない。

 本当に債務問題を抱えているのは日本ではなく、米国だ。日本政府が史上まれに見る低金利、それも時にはスイス銀行すら下回る低金利で借り入れをしている事実からも、それは明らかだ。プロの投資家が本当に日本の財政の健全性を懸念しているなら、そうしたリスクに見合う高い金利を求めるはずだ。

■株価に反映していない企業パフォーマンス

 日本に関する通説を子細に検証していけば、「弱体化した経済」という見方は実態とはかけ離れたものであることがわかるはずだ。確かに東京株式市場は暴落し、1989年に記録した異常な最高値に戻ることはなかった(当時の高値を“異常”と言い切れるのは、私が暴落を予測したわずかな――本当にわずかな――市場ウオッチャーの1人だったからだ)。

 とはいえ日本の株価は、その基礎をなす日本企業のパフォーマンスをまったくと言ってよいほど反映してはいない。円が上昇しつづけたにも関わらず、日本企業はほぼ例外なく収益を拡大し、雇用を維持してきた。

 例えば日本の自動車産業はケタ外れの利益をあげてきた。トヨタ自動車は2011年度に2595億ドルの売上高があったが、これは1989年の841億ドルの3倍以上だ。しかもこの年には、東日本大震災によって大幅な生産縮小を余儀なくされたにも関わらず、である。この年には日産自動車も1190億ドルと、1989年の3倍以上の売り上げを達成している。日本の自動車産業のほかの企業も、同じようにますます力をつけている。

 一方、米デトロイトの状況はまったく違う。フォードの2011年の売上高は1333億ドルと、1989年の924億ドルから44%しか増えていない。ゼネラル・モーターズの売り上げは1503億ドルと、1989年の1211億ドルからわずか24%しか増えていない。米国勢は国内市場で日本勢に押されているだけではない。欧州市場でもプジョー・シトロエン、ボルボ、ジャガー、ルノーなどの現地企業と同じように、米国メーカーの子会社は日本勢にシェアを奪われている。

■実体経済の崩壊は起こらなかった

 そもそもなぜ「弱い日本経済」という説が広がったのだろうか。最初にこれを広めたのは、1980年代後半の日本株式があまりにも過大評価されすぎていたことに気づかなかったウブな米国人だ。彼らは株価の暴落を、来るべき実体経済崩壊の前兆と思い込んでしまった。だが実際には、実体経済の崩壊はついぞ起こらなかった。

 一方、日本政府の高官は、弱い日本経済というイメージが、日本市場の閉鎖性に対する米国政府の懸念を和らげるのにきわめて効果的であることに気がついた。勘の良い彼らは以来、日本経済が不可解な病を患っているフリを続けてきた。例えば宮沢喜一蔵相(当時)はある時、明白な根拠もなく「日本は破滅的状況に近い」と発言した。

 日本企業の著名な経営者も、こうした不安をあおった。1998年4月には、ソニーの大賀典雄会長(当時)が「日本経済は崩壊寸前にある」と発言し、世界中のメディアが取り上げた。その数カ月後には、トヨタ自動車の奥田碩社長(当時)が日本の問題は「世界的な金融危機を引き起こす可能性がある」と警鐘を鳴らした。トップがこのような発言をする企業は、苦境に陥っていると思われがちだが、実際には1998年当時、ソニーもトヨタも国内外で絶好調だった。1989年と比べて1998年のトヨタの利益は56%増、ソニーは131%増だった。

 おそらく最も驚くべき点は、実体経済のデータは悲観主義者の言説と明白に矛盾するものであったことだろう。例えば電力生産だ。世界銀行と国際通貨基金(IMF)が、政府が経済成長率を操作していないか確かめるために使う指標である。日本の人口1人あたりの電力生産は1990年代を通じて、米国の2倍のペースで伸び続けた。

 だが米国政府に対しては、「弱い日本経済」という説は魔法のような威力を発揮してきた。高貴なる米国は、倒れた相手を蹴るようなまねはしない。その結果、自動車、自動車部品、金融サービス、コメといった1980年代に米国政府が大いに騒ぎ立てた懸案は、今日に至っても1つも解決していない。

■中国に影響した「弱い日本経済」説

 そのうえ「弱い日本」説は、東アジアのすべての国にプラスに働いている。中国がその最たる例だ。まず、この説によって米国政府には、中国が経済のあり方を変えない限り、米国にとって真の脅威となることはないだろうという認識が生まれた(中国は日本モデルに従っていたので、日本が壁にぶつかったのと同じように、いずれ中国も同じ運命をたどるだろう。さもなければ米国式の自由市場主義を採用するしかない、というのが米国の認識だった)。この結果、中国が1990年代末に世界貿易機関(WTO)への加盟交渉をした際には、米国から市場開放に真摯に取り組むように強く迫られることはなかった。

 公言こそしないものの、米国と日本のどちらの経済モデルが優れているか、中国の認識ははっきりしている。その貿易の実態を見れば、一目瞭然だ。中国では長年、日本からの輸入が米国からの輸入を大幅に(直近の数字では約40%)上回ってきた。日本の労働人口が米国の3分の1強であるにも関わらず、この結果である。しかも中国が日本から輸入するのは、ほとんどがハイテク製品である。具体的には中国の工場が世界に消費財を供給するための先端材料、部品、生産設備などである。

 一方、中国が米国から輸入するのは基本的なコモディティで、特に多いのがコモディティの中のコモディティともいえる金属スクラップや古紙だ。中国が「紙クズ超大国」など目指していないのは当然だろう。

 日本の「失われた20年」がどれほどばかげたまやかしか、さらに詳しい説明に関心のある読者には、私が昨年、ニューヨーク・タイムズ・サンデーレビューに書いた記事を読んでいただきたい。

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